03

 目を開けてすぐに人の顔があったら誰だって驚くと思う。

 唐突すぎるけどこればかりは仕方がないと片付けてほしい、だって私は被害者だからだ。

 とりあえずは一緒に寝ていたはずのアンを探してみたらアンの方はすぐ近くで大人しく寝ていてくれて助かった。

 問題は僕っ子だ。


「いやーいつ起きるのかなーと期待をしてずっと見つめていたんだけどまさかこのタイミングで起きるなんてねー」


 正直に言うとロウではなくてよかったとしか言いようがないけどこれも心臓に悪いからやめてほしいとぶつける、彼女は反省した様子もなく「それよりよくアンを潰さないで寝られるね」と話を逸らそうとしていた。


「途中からね、なちの唇が気になって仕方がなかったよ」

「変なことしていないよね?」

「してないよ、僕達は別にそういう関係じゃないんだしね」


 まあそうか。

 お休みではなくて今日も学校にいかなければならない日だから必要なことをささっと済ませて彼女と一緒に家をあとにした。


「それとね、アンって寝ているときに大きくなったり戻ったりしているんだね」

「そうなの? この姿は抑えているだけなのかな?」


 寝ているときでも連れていってほしいと言われているから意地悪をしているわけではない。

 私の肩にぐたあとなって器用に寝ているアンの頭を撫でつつ考える。


「なちはどうせ大きくなった方が好きでしょ? 奇麗とか言ってたし」

「アンらしくいてくれるならどっちでもいいかな」


 元気よくいてくれて相手をしてくれるのならお婆ちゃんでも全く構わない。


「ふーん、実際はどうだか――ちょ、急に出てこないでよ太郎」

「あれっ? ロウさんも小さくなってしまったんですか?」

「うん、この方がなちも怖くないかなって」

「べ、別に怖くなんかはないですけどね、ただ慣れないだけです」


 ああ、だけど可愛い。

 可愛いから持ち上げてみると「大丈夫みたいだね」と言ってきたから頷いた。


「それならアンと一緒にいたいからなちの家に住んでもいい?」

「私は大丈夫ですけど」


 というか、梨菜ちゃんの家にいたのならアンをそのまま預ければいい気がする。

 そうすれば三人で仲良くやっていくことだろう、私の方はたまにだけでも相手をしてくれれば十分だ。

 一人でもアンがいても迷うことは迷うわけだし、変なのは私だけで十分だ。


「え、どっちかは僕の家で過ごしてよ、寂しいでしょ」

「どうしましょうか」

「それなら梨菜もなちの家で暮らせばいいよ」

「それができるなら苦労はしていないでしょ」


 そもそもの話として私とそこまで一緒にはいたくないだろうからそうなることは絶対にない。

 なので、考えていたことを全部ぶつけておいたら「それは駄目だよ」とアンからストップがかかってしまった。

 誰かに合わせると誰かにとっては不満の溜まる結果になってしまうというのはかなり大変で、結局朝の間だけでは解決とまではいかなかったから放課後にまた話し合うことになった形となる。


「もう、なちは昔からそうなんだろうね」

「でも、一人きりだと寂しいのはわかるから」

「私はなちから離れないからね、梨菜がなんと言おうと離れないから」


 アンに離れるつもりがないのなら延々平行線になってしまう。


「梨菜のところにはロウがいればいいでしょ、事実、いまだってロウだけ向こうにいるんだからさ」

「そういえばロウさんは当たり前のように梨菜ちゃんといるよね」


 ご主人様以上に気に入ってくれれば毎回進まない話し合いをしなくて済むようになるんだけど……それは取り上げてしまっているのと同じだから結局は気になることには変わらなさそうでテンションが下がった。


「なんか懐かしい匂いがして落ち着くんだって」

「え、梨菜ちゃんは葉っぱじゃないはずだけど……」

「あははっ、それはそうだよっ、真面目な顔で冗談を言うなんて面白いよっ」


 な、凄く馬鹿にされている気がする……。


「んーじゃあご飯を食べてお風呂に入った後にみんなであっちで寝る?」

「あ、それはいいかもしれない」

「うん、私達のせいで言い争いをする二人なんかは見たくないからそうしようよ、私が代わりに梨菜に言ってくるからね」

「お願いね」


 よし、これで後は放課後までゆっくりすればいい。

 空き教室で話していたのもあって誰のでもない机に突っ伏していると「なち」と話しかけられて顔を上げた。


「ロウさん、アンから聞きましたか?」


 小さいとやっぱり可愛い。

 今朝みたいにそのまま抱き上げてみると「うん、アンも嬉しそうだったよ」と。

 それよりもだ。


「り、梨菜ちゃんは?」

「梨菜は難しい顔だったけど『それならいいかもね』と受け入れてくれるみたいだよ」

「ほ、よかったです」


 実は過去に一回だけ大喧嘩をしたことがあって半年ぐらいは話すことすらできなかった時期があったから怖かったのだ。

 だからなるべく梨菜ちゃんの望むように動いている形になる。


「戻らないの?」

「はい、ぎりぎりまでここで過ごしていこうと思いまして」

「それなら僕もいる、寝てしまったりしたら学校にいるのにもったいないことになってしまうから」

「ははは、お昼寝はしないから大丈夫ですよ」


 とかなんとか考えていたくせにお昼ご飯を食べた後なのもあって眠たくなってきて危なくなった自分がいた。

 ただこちらを見てきているだけなのにロウの顔が見られなくなってしまって慌てて戻ることになったのだった。




「ちゃんと奥にもいけるんだね」

「そうだよ、ちなみに夏になるとカブトムシとかも捕れるよ」

「おお、楽しそうだね。あっちは森なんかが近くにないし、なによりそんなところにいこうものなら訳のわからないところにいっちゃう可能性があるからこっちはいいね」


 この領域内ならすぐに戻ることができるように練習をしてあるからなにも怖くはない――のはここまでだった。


「たーだ、熊とかもいるから気を付けてね」

「帰るっ」

「まあまあ、熊だって自分なりに生きているだけだからそう敵視しないであげてよ」


 とは言われてもねえ。

 向こうでもそうだけど守っているだけだとしてもなにもしていないのに攻撃をされたらほぼ死に繋がるわけで。


「あとは鹿かな、うん、向こうと変わらないね」

「アンみたいな不思議な存在はいないの?」

「んー幽霊ぐらいかな?」

「え゛」

「ちょっと呼んでみるね」


 え、いや、私はそういうやつが一番駄目なんですけど……。

 冬でもないのにガクガクブルブル震えて固まっていると「久しぶりだねー」となんかホラー番組でよく出てくる白い服を着た女性の……。


「あ、その子が前に言っていた子? 若いねー」


 これから写真を撮る度にこの人も登場するようになったらどうしよう。

 ほ、ほら、心霊スポットに行ったばかりに連れてきてしまった、なんて話も聞いたことがあるぐらいだ。


「が、害はないはずです、なので見逃してください!」

「ん? この子どうしたの?」

「この子は男の子とか幽霊とか苦手な存在が多いみたいなんだ」

「いやそりゃ私が言うのもなんだけど幽霊が得意な子はあんまりいないでしょー逆にうぇーいって近づかれても困るからこの子ぐらいの感じでいいよー」


 その人はアンの頭を撫でてから「怖がらせたいわけじゃないからもういくねー」と残して消えた。


「なんか意外なんだよね、梨菜の方が怖がりキャラとしては合っている感じがするのになあ」

「じ、実際は私がポンコツなんだよ」

「ま、奥にいってみようか」


 で、その奥にいってみたら誰のかわからないお墓とか謎の鳥居とかあって全く楽しそうな場所ではないことがわかってしまった。


「も、もういかない、私はここに来ない」

「落ち着いて、害なんかは全くないから大丈夫だよ」


 詐欺だ、騙そうとしているようにしか見えない。

 こういうときこそさっさとアレを使用して戻ってしまった方がいいということで家まで戻ってきた。


「おかえりー」

「梨菜ちゃん、もうあそこにはいかない方がいいよ」

「どしたの?」

「あそこは怖い場所だったんだよ、アンとロウさんは協力して私を――ひええ!?」


 ああ、もうなんか普通の顔をしているだけなのに邪悪な感じに見えてきてしまっている。

 意外と私を苛めようとしてくるときがあるから三人で来られたら終わる、今度こそ色々と漏らしてしまうかもしれない。


「壊れちゃった、それで実際のところは?」

「あー幽霊の友達を呼んだらそっちも苦手だったみたいでね」

「なるほどねー」


 早くご飯を作って寝てしまおう。

 いまのこの時期はまだまだ暑いわけではないから一日ぐらいお風呂に入らなくてもなんとかなる、そこまで臭くはなったりしない!


「……夜中に起きちゃった」


 その結果、二時十二分頃に目が覚めてしまうという最悪の状態になった馬鹿がいた。

 頑張って目を閉じても眠気なんかは一向にやってこないからアンを起こそうとしたらそのアンすらいなくて駄目だった。

 それで冗談でもなんでもなく涙がツツツと頬を伝っていったところで「なち」と暗闇から話しかけられて驚き死……とまではいかなくても駄目になった。


「あ、あれ……?」

「あ、なちが起きたみたいだよ」


 そうか、彼か。

 でも、顔もまともに見えない暗闇から急に話しかけられれば怖いのが苦手な人ではなくたって驚くよ、怖がりだったら私みたいに落ちてしまう場合もある!


「……もしかしなくても真夜中に話しかけてきたのってロウさんですよね?」

「うん、アンと一階で遅くまで盛り上がっていたんだけど眠くなってね、それで戻ったタイミングでなちが泣いていたから話しかけたんだけど……」

「逆効果だったというわけ。もう、ロウももうちょっと考えてあげないと」

「「それはアンだよ」」


 今日はもう梨菜ちゃんにこの二人を預けようと決める。


「うっ、なちごめんね……?」

「謝らなくていいよ」


 こちらを怖がらせたりしなければそれだけでよかった。




「ロウさんいますか?」

「いるよ」

「あっちにいきませんか?」

「泣いたばかりなんだからやめておいた方がいいよ」


 冷静に口撃をしてくるのはやめてもらいたいところだけど。


「そ、そこまで絶望的に苦手というわけではないですから」

「わかった、だけど向こうだと大きくなるのに大丈夫なの?」


 大丈夫だ、もうロウなら大丈夫だ。

 そもそも内側で呼び捨てにしている時点で敬語もアレだから直してもいいぐらいだったりする。


「ロウさん、アンと同じことができたりしますか? できるのなら幽霊さんを呼んでほしいんですけど」

「できるよ、いまから呼ぶね」


 同じ人でありますように!

 これは一日考えた答えだった、普通に話せるようになれば鳥居とかは怖くなくなるだろうから自由に歩き回れるようになる。


「はいはーい、あ、昨日の子だ」

「こんにちは、昨日はあんな反応をしてしまってすみませんでした」


 ロウが優秀すぎる。

 あとは頼っておきながら余所余所しい態度なのは失礼だから本当に直そうと思う。


「え、いいよいいよ、それより彼氏?」

「ち、違いますよ、アンの子ども……ですかね」

「えっ、アンってそんなに進んでいたんだ――はないからいいとして、そもそもどうしてきみはこっちに来られるの?」

「最初は考え事をしながら歩いていたことでここに来たのがきっかけでした、それからはアンがなにかしてくれたのか自由にいったり来たりできるようになったんです。それと私はなちです、この子はロウさん」


 普通だ。

 あれか、現実と同じでいい幽霊さんもいれば悪い幽霊さんもいるというだけのことか。


「ほーそれならこっちも自己紹介をしておくけど私はせいね。私、高校生の頃に事故で死んじゃってさーなのに気が付いたらこんなところにいたんだから面白いよね。それでさ、アンには滅茶苦茶お世話になってさ、だから一緒にあの小屋を守っているの。なのに最近は変だよ、あのアンが全くあの小屋にいないんだから」

「あ……」

「あ、責めたいわけじゃないよ? アンが楽しそうならそれでいいんだからね。だけど気になるのは気になるわけ、なちちゃん……だっけ? アンが興味を持つぐらいだから私も興味が出てきたかな」

「自由に移動ってできますか?」

「試したことがないからね――およ?」


 お、掴める。

 一緒に来てもらっていたロウの腕もちゃんと掴んでから能力を使ってみるとなにも問題なく家に連れていくことができた。


「おお、懐かしー」

「あれ、静だ」

「おお……って、なんかアン小さくない?」

「こっちだとこうなるんだ、ロウもお疲れ様」

「うん」


 飲めるのかはわからないけど飲み物を持ってくることにした。

 そうしたら何故か一階に梨菜ちゃんがいて客間に連れ込まれたことになる。

 ここにはほとんど入らなくて雨戸を閉めたままだから照明を点けなければ真っ暗だ。


「また勝手にいって」

「あ、確かに今日は言っていなかったね、ごめん」

「あとまたなにか連れてきたでしょ」

「私のこと? お、この子はまたなちちゃんとは違う感じだなー」


 それは驚く、私でも少しは慣れたはずだけどあくまでつもりでしかなかったのだとわかってしまったぐらい。


「梨菜はツンデレだよ」

「おお、現実でもツンデレちゃんっているんだ」

「ロウは静か子だね」

「うん、ずっと黙ってなちちゃんのことを見ていたからナイトって感じがしたよ」


 ナイトか、いまは可愛い状態だけど向こうにいるときなら間違っていないこともない。

 ただ? なんでもはっきり言うようにしているのかそこで私にダメージを与えていくから敵……とは言いたくないけどそうなってしまうときもあった。

 当たり前だけどご主人様のアンが相手のときとは違う。


「これって私だけでいったり来たりはできないのかな?」

「そうしたかったの? だったらもっと早く言ってよ静――はい、これで大丈夫だよ。だけど私達にしか見えないからそこは覚悟してね」

「それだけで十分だよ、またあの場所をゆっくり見て回りたいんだ」

「なちの家、つまりここか向こうに帰れるようになったからゆっくり見てくるといいよ」


 ここだけで見れば悪いことはなにもない。

 でも、どんなことにもデメリットがあるわけで、希望を持たせてしまったのは間違いかもしれない。

 中途半端の存在の私には責任の取りようがないから今度はこのことで怖くなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る