第9話:消えた友の影

 私は天禄てんろくフィーネさんの背に乗り再びエリノア国を目指していた。

 理由は少し前に遡る。


 フィーネさん主導のもと進んでいたオルト村での遺体の回収活動に埋葬、瓦礫の撤去作業。数日経ってこれらが一段落つき、私はフィーネさんに一つ気になることを打ち明けた。



「カノンちゃんのお墓が、ないのです」



 カノン・ノアーノ。

 オルト村に住居を構え、トカゲビトのソーリアさんと共に霊山ガルデニアで登山客救助等の支援活動を行っていた女性のハルピュイアだ。


 彼女の住居は完全に倒壊していた。

 しかし彼女の遺体だけは、捜索活動の完遂した最後まで遂に見つからなかったのだ。

 私がフィーネさんに報告すると、彼は考えうる可能性を三つ提示した。


 一に、カノンちゃんが襲撃者の竜の手によって焼死、あるいは捕食などの遺体の残らぬ殺害をされた場合。

 しかしこれは、可能性としては低いと判断された。

 彼女もただやられる訳がない。必ず抵抗をする。

 そうすれば村には必ず焼け跡や羽毛、血痕など何らかの形で彼女の痕跡が残る筈であるが、そういったものは全く発見できなかったのだ。


 二に、彼女が村の襲撃から逃げ果せた場合。

 彼女の仕事場所はガルデニアである。つまり私と同様、村の襲撃時にその現場にいなかった可能性がある。そして村の帰還時に異変に気が付き、そのまま山中に身を潜めていたという可能性だ。

 だが、この場合も一つ辻褄の合わない点がある。

 村の襲撃から数日が経過した今もなお、彼女が復興活動に一度も顔を出さないことがあるだろうか。


 そして三。私としては、最も信じたくない可能性だった。



 ――彼女自身が、反人派と何らかの形で繋がりを持っていた場合。



  ◆  ◆  ◆


「まっ……待ってください、速いです!! ……ぜぇ…ぜぇ……」


 野盗トリオのコウモリがバタバタと羽根を動かしながらついてくる。

 名前はシャフネル、ヴァンパイアバットらしい。


 と言うのも、今回のエリノア国訪問には三馬鹿トリオが同伴しているのだ。


 オルト村の援助活動が一段落したフィーネさんは、次の目的をエリノア国にあるソーリア家への訪問、そして魔王城への帰還としていた。そこに人狼のクレイグが(トカゲビトのシードさんの意思は不明であるが)勝手に同伴すると言い出したのだ。仲間想いなのはいいことなんだけどね。


「おっと、シャフネルさん、申し訳ございません。急ぎではありませんので、このあたりで少し休憩としましょうか」


 フィーネさんは立ち止まると、屈んで私を下ろしてくれた。

 そのまま森の中で休憩スタート。

 現在地で言うと、ノース国からエリノア国に入ってすぐの辺りだろうか。




「ふいー。やっぱ走るの気持ちィな! 水欲しいよな。水」


「おれ出せるよ」


 クレイグの顔面にシードさんが魔術で水をぶっかける。

 コントでもしてんのかこいつら。


「ん?」


 そんなヤツらの様子を眺めていると、ぐいと後ろから服のすそを引っ張られた。

 振り返るとシャフさんがぜぇぜぇと荒い息を整えている。


「メイさん。ぜぇ…もうへとへとなんで……」

「うん」



「貰えませんか。血。」


 こいつもぶん殴ったろか。


 だけど、シャフさんがこんなに長く飛ぶことができたのには驚いた。以前私がユキちゃんに教わって書いた魔物ノートでは、たしかヴァンパイアバットは長距離を飛ぶことが苦手って書いてた筈なんだよね。


 私は秘蔵の魔物ノート、通称『まもノート』を開いた。

 ほら、書いてある。ヴァンパイアバットの項目を訂正しておこう。


「メアリーさん、それは?」


 私がおもむろに取り出した魔物まもノートを見て、フィーネさんがそれに興味を示した。


「昔、ユキ……ミゼル様に色々教えて戴いて、魔物達のプロフ帳を作っていたんです」


「わたくしたちの生態を覗かれるのって、なんだかはずかしーですねぇ」


 シャフさんが両翼を畳み頬に添えてイヤイヤとぶりっ子ポーズを取る。

 お前男ちゃうんか。


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 なまえ:ばんぱいあばっと

 おうち:どうくつ

 みため:くろこうもり(おおきい)

 すきなもの:ち、むし

 きらいなもの:ちから、やさい

 とくぎ:くらいところでもみえる(ちようおんば)

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超音波ちょうおんぱがちょうおんになってますねぇ」


「このころ、小さすぎてまだ意味分かってなかったんよ……」



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 その他:音を使ってまわりの様子を知る。

     大きなつばさは5本の指になっていて、まくが足までつながっている。

     お日さまの光や銀、にんにくはへっちゃら。

     まじゅつがとくい。毛がふわふわでさわると気持ちいい。

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「なんか急に専門的になってません!?」


「へへ、大きくなった後も何度も追記してるからね」



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     目があまりよくない。

     むれで力を合わせて敵から身を守るが、

     ルールを破ったり力がないと追い出される。

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「オ゛ッ……!!」


 シャフネルさん、撃沈。

 確かに孤立して野盗なんてやってると思ったけど。



「何してんの」


 興味に惹かれてシードさんと、続けて全身びしょ濡れのクレイグがやってきた。しかもクレイグは何故か上裸で、毛並が濡れててめっちゃ細くなってる。何やってたんだコイツら。

 ヤツらに魔物まもノートのことを伝えると、案の定食いついた。


「へぇ、俺達の項目とかもあんの?」

「あるよ。ほら。ライカンスロープ、光を使って変身できる種族」

「お、すげぇ!! よく知ってんじゃん!!」


 濡れイグがめっちゃ喜んでる。


「クレイグ、魔王城の事務手続きでもよくウェアウルフと間違えられるからね……」

「それは住民課の私どもの職員が問題なのでは……」

「おもしれぇ人間」


 この狼、喜びすぎて昔読んだ少女漫画の男みたいになってる。



「で、こっちがリザードフォーク」



「えぇ……」


 一拍置いて、シードさんドン引き。


「シードのだけ多すぎだろ、やっば」


 と言うのも、トカゲビトだけ数ページにも渡る情報がずらりと書いてあるためだ。

 ちなみにハルピュイアも同様。理由は、オルトの村に『本人』がいたから。


「メアリーさん、すごくマメなのですね……魔王庁の総務や人事に雇いたいほどです」

「シードよりシード詳しいんじゃねぇのお前」

「さすがにおれの方が詳しいでしょ」


 いつもの調子で反応するシードさんに、クレイグがニヤリと笑みを浮かべる。

 濡れイグのまま触られるとノートまで濡れイグになるから勘弁して。


「じゃあこいつはどうなん。なんで『トカゲビトには左利きしかいない』のか? 確かにお前いつも左手で槍抜くよな」

「なんでって、左のほうが使いやすいからじゃん……」

「『うのうが発達しているから』だってよ。うのうってなんだよ」

「自分も分かんないの問題にすんのやめない?」


 シードさん、天然っぽいのに時折的確なツッコミかますからわりとおもろい。



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 ☆舞台裏 (以降本編とは関係ありません)


 メイ「今日のゲストはフィーネさんです」

 

 フィーネ「フィーネ・シエラ。天禄てんろく……天のシカです。辟邪へきじゃと呼ばれることもありますね。三代目魔王のミゼル様の時代から魔王庁総務に所属し、現在は侍従長と宰相の任を仰せつかっております」


 メイ「そのサイショウって何?」


 フィーネ「宰相とは魔王様の国政の補佐をし、不在時には魔王職の代理となる者のことですよ」


 メイ「それじゃあ、やっぱり凄いひとなんだね」


 フィーネ「いえ、代理の私などよりミゼル様魔王様のほうが凄いんですよ……」



 フィーネ「ところで本編で一本角のライオンと称されていた副侍従長のレグルスは貔貅ひきゅーという魔物で、私の同期入庁なのです。寡黙ですが曲がったことの嫌いな、よい方ですよ」


 メイ「天禄てんろく貔貅ひきゅーは霊獣と呼ばれる魔物で、それぞれ白い翼をもったシカとライオン。特に天禄てんろくは、死者の魂を邪悪な気から守ってくれるんだよね」


 フィーネ「オルトの皆様を供養するという意味では、私は適任だったのかもしれませんね。どうか、安らかにお眠りください……」


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