第4話

 駅のホームはそのほとんどが俺たちと同じ制服を着た生徒で埋まっており、反対側のホームも同様に生徒らで埋め尽くされていた。そのため電車の中も混雑するかと思いきや、先に普通列車が来てくれたおかげか、俺たちの乗る特急列車にはそれほど多くの人が乗ることはなかった。とはいえ、それでもいつもと比べて人が多いことに変わりはない。結局、俺も汐帆も座席には座れず、二人横並びでつり革に捕まることになった。

 俺は気持ち少し見上げるような恰好で、汐帆の横顔を覗き見る。彼女の顔の輪郭がはっきりとして見えた。窓の外を見る彼女の視線を追って、俺もそちらに目を向ける。住宅街とその後ろに山並みが見えるくらいの、幾度となく見た景色に取り立てて思うところもなかった。彼女は何を思って車窓を眺めているのだろう。

 思えば、彼女と出会ってからもう一年以上が経つ。傍から見て、俺たち二人の関係はどのように見えているだろう。不釣り合いだとは思われていないだろうか。もしかすると、恋人同士だとも思われていないかもしれない。

 車内に次の停車駅が近づいていることを知らせるアナウンスが流れ、俺の意識は現実へと引き戻された。

 俺はもう一度汐帆の方を見る。いつもであれば俺と汐帆は次の駅で一緒に降り、俺はそこから各駅停車に乗り換え、汐帆はそのまま徒歩で帰る。けれど、今日の俺はもう少し電車に揺られる必要があった。

「俺、今日はもうちょっと乗ってるな」

 俺は汐帆にそう伝える。

「そうなんだ。買い物か何か?」

 汐帆も特に心当たりがあって聞いたわけではないだろうが、俺は思わずドキリとしてしまう。この駅を過ぎれば、この電車が次に停まるのは繁華街だ。そこに行く予定として、まず買い物という選択肢が挙がってくるのは当然のことだろう。俺は内心の動揺がなるべく態度に出ないように答える。

「まあ、そんなとこ」

 不自然には思われてはいないだろうか。汐帆の顔を窺ってみても、その表情から彼女の内面はうまく読み取れない。

 やがて電車が完全に停車し、ドアが開く。

「じゃあ、また連絡するね」

 そう言うと彼女はつり革から手を放し、胸の前で小さくひらひらと手を振りながら電車を降りた。そして、車掌のアナウンスの後、ドアが閉まってからも彼女はしばらくの間、向こう側で俺のことを見てくれていた。

 電車はゆっくりと進み始め、やがて駅ごと、彼女の姿は見えなくなる。

 見慣れた街並みを窓から眺めながら、俺はようやく胸を撫で下ろす。幸いにも彼女に気付いた様子はなかったように思う。

 これから彼女へのサプライズプレゼントを買いに行くというのに、知られてしまうわけにはいかない。

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