第5話
店内から自動ドアを抜けた瞬間、まるで俺のことを狙っていたかのように熱気が身体に纏わりつく。
俺は百円ショップの半透明のビニール袋を手に、もう一方の手に持った500mlのペットボトルの口を開け、中のサイダーを口の中に流しこむ。炭酸が喉を通り抜ける感覚が気持ち良かった。一気に飲んだせいで口の淵から溢れたサイダーが水滴となって地面に落ちる。
ひとつ夏の良いところを挙げるとすれば、この瞬間くらいだろうか。
俺はペットボトルの口を閉め、そして何とはなしに空を見上げてみた。相変わらずの快晴にうんざりしつつ、太陽がまだ高い位置にあることを確認する。
苦労はしたものの、なんとか目当てのプレゼントは買えた。けれど、せっかく繁華街に来たというのに一つ買い物をしただけで帰るというのもどこか味気ない。どこかで昼飯を食べて帰ろうか。そうと決まると、ポケットからスマートフォンを取り出して時刻表示を見てみる。もうすぐ14時になりそうだった。慣れない買い物に予定より時間を使ってしまった。ランチタイムは店にもよるだろうが、そろそろ提供が終わってもおかしくない時間だろう。とはいえ、今いる場所が繁華街なこともあり、見回してみても高校生一人で入るにはハードルの高い店もいくつかある。一見お断りらしいとんかつ屋に、行列の終わりが見えないラーメン屋、妙な蔦のようなものが絡まった煉瓦造の何を売っているのかすらわからないような店。そもそもあそこは食品を提供する場なのだろうか。それすらもわからない。そんなような事情に懐事情も勘案すると、さらに店の候補は少なくなる。高校生のランチタイムはこれでなかなか難易度が高い。けれど、時間がないことも事実だ。無理やりにでもどこか入る店を決めてしまった方が良いだろう。これで見つからなかったら諦めてチェーン店に入るか、コンビニで何か弁当でも買って家で食べることにしよう。
そう考えて俺は来た道を戻ろうと踵を返した。
「あれ? 並木?」
すると、突然誰かが自分の名前を呼んだような気がした。けれど、こんなところで自分の名前を呼ぶような人物に心当たりもない。俺は構わず歩を進めようとする。
「並木
今度ははっきりと自分の名前が聞こえた。俺はその声の方を振り向く。すると、男子高校生が一人、俺の方を向いて立っていた。首を上に向け、声の出どころを見る。そいつはやけに身長が高かった。
「やっぱり並木だ。久しぶり」
ところで、この時の俺が目の前に立つそいつが誰かがわからず、ただただ曖昧な笑みを浮かべていたことは言うまでもないだろう。
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