第3話
「過去に類を見ないダンジョン災害になる可能性があると専門家が」
ナビィにニュースを流してもらっていた。
マイク付きイヤホンのおかげで騒音も気にならない。
しかしどれだけ歩き続けたろうか。
不眠症の自分が岩だらけの灼熱地獄で寝られるはずもなく、、、。
寝ずの行軍は、最低でも二日以上は続いている。
この歳での徹夜は心臓にくるよねぇ。
「続報です。国際チームが最下層を目指し探索中だったことが関係者への取材により分かりました。安否は未だ不明で」
聞き流していると、トンデモなく厳つい装備を着た外国人の集団が向こうからやってきた。
「各国で英雄視されている精鋭達なので全く問題ないと思いますけどねぇ」
全員まるでパニックホラー映画のやられ役みたいな顔をして我先にと走っている。
後ろには見たことのない単眼で巨人型のモンスター。
赤黒い炎が筋骨隆々の巨体から立ち上り、異様な臭気を辺りに撒き散らしている。
「データにない新モンスターですネ。野草。サイクロプス。ノグサイクロプスと命名しまショウ!」
うわぁ自分の名前つけちゃうヤツ。
などと悠長に考えていると。
ノグサイクロプスが禍々しい炎を纏った棍棒を俺に向かって振り下ろした。
「グ!グオ!?グ、、、エェ、、、、?」
棍棒が爆散した。
お次は両手組んで振り下ろすハンマーパンチ。そして、、、
「グエェエエエエエエエ!!!」
爆散して魔石になってしまった。
もう何も驚かない。驚く気力がない。
俺はスタスタと歩いていく。
あれ、何のためにダンジョンに潜ってるんだっけ?
そうだ。配信。
配信で人を集めて、宣伝だ。
「ナビィ。どうすれば人気になれると思う?」
「データによるト、人は前人未到の出来事に強い関心を抱く傾向がありマス。新宿ダンジョンの未踏部分は、地下36階層から先デス」
「そうか、甘くないよな。それで今はどの辺りなんだ?」
「地下40階層デス」
「、、、え?」
「現在、地下40階層に居マス。記録更新デス」
「キロクゥコウシン???」
いや待て。前から人がやってきたということは、既に記録は更新済みだったということだ。
「他にも、配信ではキメ台詞が非常に有効デス。ご主人は昔ラップをしていたとおっしゃっていましたネ、ソレを」
「却下!二十年以上前の話だぞ。もう忘れたよっ」
「ラップしたくないだけデワ?」
「そうですけど?何か???」
才能が全く無いから辞めたんだよ。
何があろうと絶対にラップはしないからな?絶対だ。
ナビィは携帯型3Dプリンターで作った中継アンテナを差しながら、俺を誘導する。
コイツは昔から謎パーツを勝手に入手してセルフアップデートしてきた。もはや全く原型を留めていない。
「あ、この先に生体反応がありマス。人デスネ。急ぎまショウ」
広い空間に出ると、ノグサイクロプス三体が少女に向かって棍棒をぶんまわしていた。
「あぁああああああ!おとりなんか引き受けなければよかったよぉおおおお!!!」
少女は叫びながら、およそ人間技とは思えない身のこなしで紙一重の所を避けていく。
「死んじゃうぅううう!まだ!22年しか!生きてないのにぃ!」
小柄すぎて勘違いしたが成人しているらしい。
肩口までの黒髪ボブカットが空中で激しく揺れている。
白い流線形の防具は通りすがりの人達も着ていたような。流行りだろうか。
「修行ばかり!させられて!彼氏も!できずに!?ざけんなぁ!!!」
水だ。水属性の魔法を使っている。当たる場所をズルンとずらしたり、水圧で切り刻んだり、多彩な使い方をしている。
「誰か!誰か、助けて、、、」
「あ、そっちハ。ちょ、ご主人!」
俺はなんとなく走りだした。
違和感を感じたからだ。
岩壁に追いやられた、明らかに達人な女の子。真剣な叫び声。助けてという言葉。
俺は三本の棍棒が振り下ろされる先に飛び込んだ。
「「「グオオオオオ!??」」」
破裂音が鳴ると、そこから先はこれまでと同じ。
三体のノグサイクロプスは困惑し、突撃し、爆散した。
女の子はへたりこんでいる。
よく見ると人形じみた美人だ。
童顔だが弱弱しさはなく、隙のない賢そうな雰囲気。
子役出身の芸能人感がある。
「た、助かりました!あの。救助隊、、、の方ですか?」
「いえ、違います。それより足は大丈夫ですか」
「はい。このとおり!立てます。ありがとうございます、、、」
すれ違ってきた人達と同じ、意味ありげな視線だ。
もしや、、、ワイシャツがNGなのかな?
山を舐めるな的な。軽装登山は危ないよ、と。
気まずい雰囲気の中をナビィが割って入った。
「階層間にマジカルシードを植えておきまシタ。帰還中のカロリーと水分はそこで摂取してくだサイ」
「ありがとうございます!えっと?救助隊、、、ではない?」
少し混乱しているらしい。
「ここから先、人はいまスカ?」
「いえ、私で最後のはずです」
「ヨカッタ。これで正攻法で行く必要が無くなりまシタ。ご主人、快眠エクササイズ第四をやってくだサイ。足元ニ」
「足元?やったことないけどできるかな。せーの。おぉおおお」
足元の岩盤が溶けていき、ぬるっと体が下へ落ちていった。
「ちょ、ちょっと待って!救助隊じゃないなら、あなたは一体」
「中古ドローン販売員ですぅぅぅ」
「えぇ、、、」
風を浴びながらダンジョンを物凄いスピードで下ってゆく。
変わりゆく景色の中で、違和感の正体に頭を巡らせていた。
そして結論はあっけないほどシンプルだった。
車、鉄筋、バールに始まり、極めつけはさっきの女の子。
おそらくダンジョンやモンスターが変わったんじゃない。
俺が変わったんだ。
「ナビィ。俺に言わなきゃいけないことがあるんじゃないか?」
「、、、ついにバレましタカ。配信の音声をオフにして、ト」
オイなんなの。俺になにしたの?
「実は、良い知らせと悪い知らせがありマス。どちらから聞きまスカ?」
「良い知らせからで」
「デハ。ご主人は十三年前に設定した目標を達成しまシタ!おめでとうございマス!」
ナビィは懐から出したパーティークラッカーをパンと鳴らしてみせた。
その頃に目標を立てた記憶がないのだが。
「当時推していたアイドルが突然結婚発表をした時に、ご主人は涙を流してこうおっしゃいまシタ」
うっ封印した記憶がぁ。
「何が起きても傷つかない漢になりたい!!!ト」
あぁあああああ!恥ずかしい!!!
言った。間違いなく言ったよ。
「何が起きてもという部分が非常に難しかったのですが、無事に達成いたしまシタ!ワーイ!」
ワーイて。それと今の状況とどういう関係が。
まさか、、、!
「今現在私のデータ上に存在する全ての攻撃、またはそれに準ずる事象に対して、ご主人は無敵デス」
無敵??
物理的に傷つかない漢になったってこと?
思ってたのと違うぅ!
「けど、どうやって?」
「快眠エクササイズでスヨ!あれは世界中の結界術を私がアレンジしたものデス。更に体内の魔力を完全欠乏させることで強制的に仮死状態にさせていまシタ」
仮死状態、、、。
確かに寝るというより落ちるって感じだったけども。
「死ぬ危険性が高い禁断の修行法ですが、これにより魔力量の指数関数的な増大が可能になりまシタ!」
おい!ナビィおい!
毎日そんなことやらされてたのか。
「ちょっと待て。これは良い知らせだよな?悪い知らせってなんだよ」
「ご主人が働いているミニモーター社ですガ、、、倒産手続きを始めたそうデス」
「え」
「あとご主人が登録している派遣会社ですガ、、、社長が金を持って夜逃げしまシタ」
「え。つ、、、つまり、、、、、」
これは比喩でなく、目の前がぐにゃりと曲がって暗転した。
「ご主人は無職(仮)デス」
「ウソぉおおおおおおおおおおおおんんんんんん!!!!!」
俺はついになってしまうらしかった。
無敵の人、、、ってやつに!!!
[AIログ]
大規模拡散戦略開始。
各種SNSのアルゴリズム解析。成功。
意図的なポップアップ。成功。
フォロワー数1000万人以上のインフルエンサーをターゲティング。
作成したフォーマットに基づき拡散シークエンスへ移行。
米国ミュージシャン 成功。
アジア系チックタッカー 成功。
英国スポーツ選手 成功。
アフリカ系俳優 成功。
中東系Cチューバ― 成功。
第二拡散シークエンスへ移行。
現在の視聴者数、、、???人。
次の更新予定
派遣のおっさんが覇権をとる! ~くたびれ社畜男がダンジョンで無敵の人になり、現世と異世界の両方で頂点を極めてしまった件~ 九坂くだる @nagasakaK
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