SS 初めての散財


「こっちもいいが、これも捨てがたい……」

 

 カイザーは真剣な目でアディルを見ていた。その視線にアディルは頬を染める。

 

「もう一度、さっきのを着てみてくれるか?」

「……はい」

 

 今日は婚約披露パーティーのドレス選びの日。公爵家には何十人ものデザイナーとドレスがやってきた。

 各店舗から何人でも挑戦可能。一人一着のみ。という募集に対して、皆が仮縫いを終えたドレスを持参した。

 若手からベテランまでの皆が、まだかまだかと結果を待っているものの、カイザーが悩みまくるものだから、なかなか決定しない。

 

「お待たせしました」

 

 ふわりと重なり合ったレース。それがアディルの可愛さを強調している。ダンスを踊った時に広がり、とても美しく見えるだろう。

 

(パーティーで着なくても購入だな)

 

 そうカイザーが思ったドレスは一つや二つじゃない。今日だけで大量のドレスを購入することになるだろう。

 散財する気満々のカイザーだが、普段はほとんど買い物をしない。自身の立場を分かっているため、身分に合った格好をするものの、無駄なお金は一切使わない。愛用の剣には惜しみなく使うが、自分の命がかかっているのだ。当然のことだろう。

 そんなカイザーが、婚約披露パーティー以外ではいつ着るのかも決まっておらず、流行りが過ぎれば着れなくなるドレスを大量購入しようとしている。


(普段着用のワンピースやドレスも購入しないとな)


 アディルが何を着ても可愛くて可愛くて仕方がなく、カイザーはすっかり楽しくなっていた。


(((((カイザー様は、みつぐ系だったのか!!!!)))))


 使用人や影たちは、想像もしていなかった主の姿に驚きつつも、喜びを感じた。貢ぐといえば聞こえはよくないものの、主に来た春が未だに嬉しくて仕方がないのだ。

 アディルと出会うまでは、恋愛? 馬鹿馬鹿しい……という男だった彼が、こんなにも変わった。しかも、相思相愛。ここにいる皆は思った。大いに貢いでください、と。


「あの……」

「ん?」


 アディルにだけ向ける優しい音。向けられる眼差しの意味にアディルが気付く日はいつになるのだろうか。


「一着で十分ですよ?」


 購入するとカイザーが決めてしまったドレスを見て、アディルが言う。若干、顔が引きつっているのは気のせいではないだろう。


(値段のついてないドレスなんて恐ろしい……。こんなにお高いものを何着もなんてヤメて!! お気持ちは嬉しいけれど、ドレスで一体いくら使う気なの?)


「駄目か?」

「だめです!!」


 顔を覗き込むようにしゃがみ、小首を傾げるカイザーにアディルはキュンとした。思わず頷いてしまいたくなる気持ちを抑え、はっきりと言う。だが──。


「アディルが何でも似合って可愛いから、もう一度着てるのを見たかったんだが……」


 小さく呟かれた言葉に、アディルは白旗を上げた。


「カイザー様のためでしたら、何度でも着ます!!」


 そう高らかに宣言した瞬間、カイザーは本当に嬉しそうに笑った。ドレスの大量購入が決定した瞬間である。

 表情はあまり変わらないものの、うきうきとアディルのドレス選びを再開したカイザーを見て、アディルは首を傾げた。


(あれ? もしかして、愛されてる?)


 ドクドクと心臓が走り出す。だが──。


(そんなわけない……か。私が気を遣わないように配慮してくれてるのよ。優しい方だもの)


 もし、心の声を外に出したなら、皆が皆ツッコむことだろう。だが、残念なことに口に出していないものは、ツッコまれるはずもない。

 こうして、今日も今日とて、カイザーの気持ちはアディルに伝わらないのであった。

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