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 婚約披露宴も終わり、穏やかな日常が帰ってきた。

 とは言っても、カイザーは後処理に忙しいようで以前のようにはなかなか会えない。そのことを理解しながらも、アディルは溜め息をこぼした。

 

「カイザー様、何してるかしら……」

 

 そんなもの仕事に決まっている。分かっていても、考えてしまうのは自分に自信がないからだろうか。

 

「素敵な人に迫られてたら、どうしよう……」

 

(だってだって、あんなに格好いいし、優しいもの……)

 

 どんなに強面で凶悪犯顔であろうと、アディルの中でカイザーは王子さまなのだ。自分のピンチに駆けつけ、助けてくれる。いつでも、自分のことを気にかけてくれる。

 大好きで大好きで大好きで……。気が付けば、いつもカイザーのことを考えてしまう。

 

「会いたいなぁ……」

 

 呟かれた言葉、それは誰の耳にも届かないはずだった。だが──。

 

(アディル様が主と会いたがっていらっしゃる。これは、由々しき事態。報告せねば……)

 

 天井裏に潜んでアディルを見守っていた影は、すぐさまカイザーに文を飛ばした。

 

『アディル様が主と会いたがっております』

 

 簡潔にしたためられた一文。それをみた瞬間、カイザーは震えた。

 

「アスラム……」

「ん? どしたー?」

 

 討伐後も休みなどなく、連日激務に追われているアスラムの目の下には濃いクマがある。それでも、飄々ひょうひょうとして見せるのは、流石としか言いようがないだろう。

 

「三日で終わらす」

「何を?」

「これらをだ」

「はぁっ!!?? 何言ってんだよ、そんなの無理だってカイザーが一番分かってんだろ?」

「終わらす」

 

 それしか言わないカイザーの視線は、一枚の紙に釘付けだ。

 

(一体、何が書いてあるんだ?)


 そう思って覗いたアスラムは、見たことを後悔した。


(あー、そういうこと……)

 

 お熱いことで……と思いながらも、ただでさえ激務なのにこれ以上は倒れる……とカイザーを見る。

 

(何でこんなに元気なんだよ)

 

 同じ……いや、自分以上に激務をこなすカイザーは、クマ一つなくピンピンしている。

 アスラムだって体力がある方だ。だが、カイザーは比べものにならないほどにタフである。

 

(そういや、俺が副団長になる前、仮眠すら取らずに戦い続けるって噂があったな……)

 

 そんなことは不可能だ。誰かが誇張して話したのだろう。そう思っていた。

 

「なぁ、カイザーは何日くらい寝なくても平気なんだ?」

「昔は一月ひとつきくらいだったな。今は分からないが」

 

(あの頃ほどの体力は流石にないしな……)

(一月って、おかしいだろ。普通じゃあり得な……)


「実は人間じゃないって噂、マジだったのか!?」

「そんなわけあるか」


 落とされた拳にアスラムは呻く。


「キビキビ働け」

「うぃーーー」


 ダラダラと動き始めるが、目の前でカイザーが鬼気迫る勢いで書類を捌いている姿を見て、本腰を入れる。


(仕方ないなぁ。あー、俺ってなんて友達想いなんだろっ)


 三日後、ボロボロになったアスラムに見送られ、カイザーは意気揚々とアディルに会いに行くこととなるのであった。

 

 

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