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 ついにデート当日。

 アディルは朝早くに起きてお弁当の準備をし、ドキドキしながらカイザーを待った。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

 互いが互いを見詰めて微動だにしない。甘ったるい空気が垂れ流されている。

 アスラムがここにいたら、口からだけではなく、耳や鼻の穴など、穴という穴から砂糖を出していたことだろう。

 

(カイザー様、かっこいい……。シャツにパンツっていうラフな格好も素敵だわ! 黒馬に乗った王子様みたい……)

(乗馬服のアディルも可愛いな。ドレスだけじゃなく、こういう服まで似合うのか……)

 

「似合っているよ、可愛い」

「カイザー様も素敵です」

 

 笑顔で答えたアディルだが、内心は複雑だった。

 

(六年も前の乗馬服が似合うって、やっぱり子どもっぽいってことだよね? カイザー様はお優しいから、こんな私でも褒めてくれたんだわ。気を遣わせちゃった……。やっぱりデートらしくドレスにすれば良かったのかも)

 

「アディルが乗馬服で来てくれたから、早駆けもできる。楽しみだな」

「はい!! 楽しみです」

 

 アディルの悩みはカイザーの一言で宇宙の彼方まで飛んでいった。



「メランだ。賢くて、人が好きなんだ」

「メラン、よろしくね」


 カイザーの愛馬であるメランをアディルが優しく撫でれば、それに答えるようにメランも鼻を鳴らす。

 アディルがメランに跨り、その後ろにカイザーが乗った。まさに、子どもと大人で乗馬をしている図である。

 けれど、それは客観的に見た場合の話。後ろからカイザーが手綱を握れば、まるで後ろから抱きしめられているみたいだと、アディルは頬を染めた。

 

(カイザー様、腕太いなぁ。あ、傷跡がある。こっちにも……。それだけ、皆を守ってきてくれたってことだよね)

 

 そっとカイザーの腕に触れる。すると、ビクリとカイザーの腕が跳ねた。


「アディル?」

「あ、ごめんなさい。この手で、ずっと皆のことを守ってくれてたんだな……と思ったら、つい……」


(つい触っちゃうなんて、ただの痴女だよ。変態だって思われたかもしれない……)

(こんな傷までも、そんな風に思ってくれるなんて……)


「ありがとう」

「へっ!?」

「アディルがそう思ってくれて嬉しい」


(もっと気の利いた言葉を言いたいが、他には思いつかない。アスラムなら──)


「私だけじゃないですよ。みんな知っています。第三騎士団の皆様が魔物と戦ってくださるから、安心して暮らせるってことを。この怪我は、皆を守ってくれた証です。こんな傷なんかじゃない……。あ、もちろん怪我はしないで欲しいので、なるべく無傷で帰って来てくださいね」


 カイザーは返す言葉を探したが、やはり出てこなかった。

 

「ありがとう」

 

 やはりこの一言しか言えず、手綱を握ったまま腕の力を少し強めてアディルを抱きしめる。

 後ろから包みこまれるように抱きしめられたアディルは体を硬直させた。

 

(カ、カイザー様からのバックハグ……)

 

 カイザーの体温と、耳元に近い息遣い。お姫様抱っこや膝の上に乗せられることは慣れてきたけれど、いつもとは少し違う腕の強さに頭がクラクラする。

 

 遠乗りデートはまだ始まったばかりだというのに、アディルは既にカイザーの過剰摂取で倒れてしまいそうだった。

 

(幸せだけど、この調子だと一日もたないかも……)

 

 耳やうなじを赤く染め、アディルは幸せ過ぎて目眩がしたのだった。

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