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「デ、デートのお誘いっっ!!!!」

 

 カイザーに会いたいと呟いた一言は、誰の耳にも届くはずはなかったのに、次の日の朝に届いた手紙。それは遠乗りに行かないかというデートの誘いだった。

 

「三日後ね。大変! まだ乗馬服、着れたかなぁ」

 

 最後に着たのは王都に来る前。

 

(六年も前かぁ……。さすがに無理かな……)

 

 流行りもそうだが、単純にもう入らないだろう。そう思って、袖を通したのだが……。

 

「嘘でしょ……」

 

 サイズがピッタリな乗馬服に、アディルは心が折れそうだった。見下ろせば、ストーンとしている胸元。そこには、悲しみしかない。

 

(身長だけじゃなくて、胸も成長してないなんて。私の成長期はどこ……)

 

 やるせない気持ちになり、ベッドへと飛び込んだ。

 

(こんなんじゃ、いつまで経っても異性として意識してもらえない。両想いになれないよ……) 

 

 ベッコリ凹んだ気持ちで寝返りをし、天井を見る。しばらくぼんやりしていたが、アディルはあることに気が付いた。

 

「遠乗りって、デートよね? 乗馬服って、どうなの?」

 

 パンツスタイルの乗馬服は、デート向きではない。少しでも可愛く思ってもらえるようにオシャレをするべきか悩む。遠乗りに重きを置くか、デートに重きを置くか。どちらが正解なのだろう……と頭を抱えた。

 

「そもそも……よ。カイザー様の愛馬に一緒に乗るのって、どうやって乗るの? 私は前向きに座るの? 横向きに座るの?」

 

 経験がないので、さっぱり分からない。友人のエルマに聞いたとしても、恋愛事に興味がない彼女にこの謎が解けるのか不明だ。

 

「乗馬服とワンピース、どっちが正解なの!?」

 

(早駆けをするなら、前向きに座るよね。でも、この乗馬服じゃデート感はないし、ワンピースがいいのかなぁ)

 

 ベッドから起き上がり、クローゼットの中身をひっくり返すように次々と服を出していく。あーでもない、こうでもない……と独り言は止まらない。

 そんなアディルを見ながら、影は思う。

 

(乗馬服なら、普段見ない姿を見られた、可愛い……って喜ぶだろうし、ワンピースならデートのためにオシャレをしたアディル様に感激して、やっぱり可愛いって喜ぶでしょうから、何の心配も必要ないんだけどな……)

 

 ベッドの上が服だらけになった頃、アディルの動きが突如止まった。

 

「遠乗りってことは、お弁当もいるよね。まさか、胃袋を掴むチャンスなんじゃ……」

 

 すごいことを思い付いた! と言わんばかりに目を輝かせ、鼻歌まで歌い出す。

 

「どんなお弁当にしようかなー!! もしかしたら、あーん……なんてできちゃったりしてぇ!!」

 

 キャーと叫びながら、アディルは再びベッドへダイブした。下敷きにされた服がぐしゃぐしゃになっている。そのことに気が付いたアディルは、やっと冷静になった。シワを伸ばし、せっせとクローゼットに服を戻していく。

 

(可愛いって思って欲しい。けど、無理した姿で思って欲しいわけじゃない。わがままかな……。好きになって欲しいなら、努力は必要だけど、やりたいことを我慢してオシャレをするのって、何か違う気がする。私にとっての遠乗りは、馬に乗って風を切って、景色や雰囲気を楽しむもの。その時間をカイザー様と楽しみたい)


「楽しい時間を共有して、一緒にいたいって思ってくれたら、最高なんだけどな……」


 そう呟くと、アディルは一冊のノートを取り出した。その名も、カイザー様日記。カイザーが城で通った経路や日時、食べたものを知りうる限りで細かに記載したものだ。


(カイザー様の好む食べ物と味付けを徹底的に分析よ!! 栄養バランスと彩りも考えて、最高のお弁当を提供しなくては!!)


 アディルは燃えていた。そのノートの存在を知った影が、天井裏で引いていたとも知らずに……。



 

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