第19話 凪沙と公園後

 仲島翔目線


 家に帰ってシャワーを浴び、お母さんが用意してくれたご飯を食べながらお父さんの事を聞いた。今夜は夜勤らしい。


 夜勤の週は完全にすれ違い。お父さんが帰って来る頃には俺はもう学校だし、俺が戻る時は仕事に行っている。前に夜勤の時、昼寝れないって言ってた。それは今も変わらないんだろうか。今日使った練習着を洗濯に行ったお母さんに、寝ることを告げて自室に戻る。


 戻りながら色々考えていた。あの石澤って子のことを。


 ***

「それで私なんだ。なんだ、最初愛の告白かと。ときめいちゃった(笑)」


 トーンが知ってる声より数トーン高い。石澤のことは俺には手に負えない。人生経験も恋愛経験も未熟な俺は、異性の知り合いを頼るしか思いつかなかった。


 それが長内おさない佳世奈かよなだった。俺と長内は同じ中学だけど、小学校は違う。長内と悠子ちゃん俊樹は保育園から確か一緒だ。とはいえ、中学は同じ校区なんで家は遠くない。


「俺から告られても、ときめかんだろ」

「そうでもないよ、だって、この間さぁ、仲島君の家言った時のことなんだけど」


「うん」

「ベランダに出たでしょ」

「出た」

「その時『月がきれいだ』って言ったの覚えてる?」


 覚えてるけど、それがなんだろう。まぁ、ひと通り、今日あったこと石澤から聞いたことを告げた後なので別にいいけど。


「それは言ったけど」

じゃありません! いい仲島君『月がきれい』っていうのは、夏目さん的にはア・イ・シ・テ・ルなの! 私、どうしよ。仲島君に愛されてたんだ! 気付いてあげられなくて、なんかごめんってなったのよ?(笑)」

 完全にからかわれてる。長内ってこんな子だったかなぁ。この間ふたりで会った時も中学の時のイメージと違ってた。


「――で、実際どうなの?」

「なにが、どう?」

「もう、照れちゃって〜〜悠子には黙っててあげるから。愛してる? 愛してない? 答え次第で、今後の付き合い変わるからね? 学食で例えるなら、A定食と売れ残った菓子パンくらいの差。ちなみに売れ残った菓子パンってのは、油が回ったギトギトのあんドーナツ!」

 それは嫌だなぁ……


「アイシテル」

「片言〜!」

 いや、片言でも完全に言わされてる。そんなことより石澤の件。内容がまあまあ深刻だから長内の意見を聞きたいんだけど。


「その愛のデカさを、海に例えるなら太平洋? 大西洋? インド洋?」

 なぜ海に例える? 愛のデカさ? そうだなぁ……


「瀬戸内海?」


「えっ⁉ ちっちゃ‼ 微妙にちっちゃ! 渦潮うずしおとかあるし! でも近い! アレね、愛は近いほうがいいってことね? もう、情熱的なんだから(笑)」


「えっと……長内?」

「わかってる。今ね考えてるところなの。意外とせっかちね」


「えっと、ごめん」

「いいのいいの。それより私を頼るなんて、仲島翔君は見る目あるわね。もし悠子にそんな相談してたら、ブチ切れられてたし、俊樹にしてたら私にブチ切れられたわよ。命拾いしたわねぇ〜〜」


「いや、お前が1番」

「なに、1番かわいい? もしかしてくどいてる?(笑)」

 完全にイジられまくってる。長内の声がこもってる。どうやら布団の中のようだ。


「いや、その……1番冷静というか、ちゃんとしてるから」

「それは嬉しいけど、冒頭の『いや』はなに? かわいくないってこと? 断交するぞ?」


「そ、そういう意味じゃ」

「じゃあかわいい? どれくらいかわいい? 待ち受けにしたくなるくらいかわいい?」

 なんだ、このテンション。夜中だからか? まだ23時前。


「うん、まぁそうかな……」

 曖昧な返事をした。それから数秒後。ブルッと通話中のスマホが揺れた。誰かからメッセージが来たみたいだ。


「今壁紙用の自撮り送ったから。これから3年間固定でよろしく」


 3年間? 長いな、別にいいけど。俊樹と会うこともないし、悠子ちゃんとも。そういや壁紙なんて、スマホ買ってもらって、以来そのまんまだ。女子の自撮り。彼氏がいるとはいえ、なんかいいかもな、なんて呑気に構えて、送られてきた写真を見て焦る。


「長内。お前、ちゃんと見て送ったか?」

「えっ、ボケてる? いや撮ってすぐ……」


「めっちゃ谷間。写ってるけど」

「マジ!? ほ、ホントだ。何これ痴女だ! 痴女います! お巡りさん〜〜(汗)」


 電話の向こうで長内は大騒ぎをした。悠子ちゃんからは明るいヤツとは聞いてたけど、中学の時、俺の前では猫を被ってたのか。まじめな印象しかない。


「消そうか、それとも使おうか」

「つ、使う!? えっとこれをそのですよね、高校男子のに使うって話ですよね? わかった、許す。みなまで言うな!」


 なんだよ、高校男子の事情にって。壁紙の話だろ。それに最後まで言わせて。


「でも、それはなんか恥ずかしながら光栄というか。あっ、でもこの写真じゃ迫力足りなくない?」

「迫力?」

 あの、使うことが前提で話進んでない?


「ほら火力足りてないでしょ。そっち系の。そりゃ局部は無理にしても、パジャマのボタン全部外して、グラビアみたいなのなら出来るよ? 見えちゃダメなのは見えないようにするけど、どうする? あっ、大丈夫なように絆創膏ばんそうこう貼ろうか!」

 絆創膏⁉ どこに? それだよな!?


「お願いします!」

「即答(笑) ウソだよ、ウソ! 無理に決まってるでしょ! 使うなら、今のやつ妄想膨らませて、使ってください。ちなみに使ったら報告すること。使用料は1回50円ね(笑)」


「じゃあ、とりあえず500円送るわ」

「10回使う気なんだ、微妙にガチな数字きて焦る。冗談はさて置き、石澤のことは気にかけとくね。あった後だから少し難しいけど」


「ごめん。無理のない程度に」

「うん、でも頼ってくれて嬉しいよ。あっ、それからこの件は私引き継ぐから、もう放っといていいよ。仲島君はサッカーだけに集中して。あとね、1週間連続ログインボーナスとして、もっとえっちい自撮り送るよ?(笑)またね」


 なんか無駄話しかしてないけど、面倒見てくれそうなので助かる。そもそも俺は石澤って子のことはほとんど知らない。


 なんで頼られたかわからない。面倒見は自分的には普通。長内とか後輩なら力になるけど。この子、石澤って子の事は知らなすぎるし、どこかで知ってどうなるとも思う。


 それはいいけど長内。

 サッカーにだけ集中してといいながら、連続ログインってなに? えっちい自撮り……ログインってどうすればいいんだ? 


 そんな話をしながら俺は寝落ちしたらしい。







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