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「へぇ……。 歩道橋でそんな事が起こっていたんだ」
一から四時限目まで終えて給食を平らげて三十分間の休憩時間となった。ヒバナはクラス中、主に女子から質問攻めに遭っており、その話の中でふと出た歩道橋の転落事故に興味を示した。
「何でも上級生が落ちたんだってさ。しかもアクリル板を突き破って」
「あの透明のトンネルみたいなやつだね。 ——その時近くにいた人っている? ちょっとその時の状況を教えてほしいんだけど」
アクリル板を突き破って上級生が落ちた。その言葉を聞いたヒバナは意味深に考えるそぶりを見せ、そしてバスで登校した生徒と同様に質問をした。
「またか……。」蕨は心の中でそう思いつつも、転校生と近づくチャンスとヒバナに説明をしようと話しかけようとしたが、蕨を押しのけて別の女子生徒が割って入ってきた。
「
ウェーブをかけた金髪の少女が、お嬢様を彷彿とさせる口調で話しかけてきた。
「初めまして転校生の方、私は
その発言にクラス中が驚きの声をあげた。どうやら誰もその事実を知らなかったようだ。
「何で教えてくれなかったんだよ!」
「言えませんわよ! こんな不思議な話、絶対に信じてくれそうになかったんだもの。あなた達みたいに面白半分で聞く人達に言ったところで笑われるのがオチですし。特にそこの三人には絶対に聞かれたくない話だったもので」
ヒバナの近くに来ていた例のサボり魔軍団を指差して麗華はそう豪語する。そして指をさされた悪評サボり魔軍団は言い返すように麗華の主張に対して難癖をつけた。
「どうせ嘘だよ。転校生の気を引きたいから出まかせ言おうとしてるんだろ? お嬢様は目立ちたくてしょうがない生き物であられますものねー」
バスターミナルで蕨にちょっかいを出してきたサボり軍団の一人、鴨下が麗華に余計な一言を言うも、ヒバナは顔を赤らめて憤る麗華の裾を掴んで軽く引っ張り、話を聞かせてほしいと頼んできた。
それに気を許した麗華は、他のクラスメイトにも教えるように、包み隠すことなく目撃した事の全てを話し、それが気に入らなかったサボり魔軍団は「チッ」と舌打ちをして自分達の席へと帰って行った。
「最初はただ普通に歩道橋を歩いてただけなんだけど、前の方から急に寒気がしましたの。まるで氷でできたトンネルの中に入ったかのようにね。その時はただ冷たい風が吹いただけなんだと思って特に気にすることなく進んで行きましたけど、私見てしまいましたの。前を歩いていた上級生の体が何かに引っ張られるように横へ移動していくのを。壁にぶつかると思ったら急に穴が開きまして」
「待って。急に穴が開いた? それじゃあその生徒や硬い物がぶつかってできた穴というわけじゃないんだ。勝手に穴が開いて、その中に生徒が引きずり込まれたって言うんだね?」
それは今まで話し合っていたどの内容にも出なかった新らしい情報だった。クラス中がざわめく中、麗華が危惧していた通りの展開となった。
「そんなの嘘だろ。勝手に穴が開いただなんて信じられねえよ」
確かに傍から聞いていれば現実味のない話だと聞き取れるのもおかしくはない内容だった。勝手に穴が開き、引っ張られるように穴の中へ飲みこまれただなんて信じろと言う方が難しいだろう。
クラスの誰が言ったかは分からなかったが、その否定的な考えが更なる否定的な考えを芽生えさせ、麗華を嘘つき呼ばわりする生徒まで出てくる始末。またしても麗華は顔を赤くして反論しようとするが、再び裾を掴み引っ張るヒバナが感謝の言葉を述べた。
「教えてくれてありがとう。僕は信じてるよ」
「——当然よ。私は見た事をそのまま伝えただけなんですからね」
麗華がそう言い終えたと同時にチャイムが鳴り、教室に入ってきた教師による五時限目の授業が始まろうとしていた。横で黙って聞いていた蕨は事が荒立てる結末とならなくて安心した様子でホッと一息つき、麗華の言葉を信じたヒバナに好印象を抱いたようだった。
しかし下校の時間となった時、麗華にとんでもないことを言い出したヒバナに対する印象が正反対に変わったのだった。
「げ……現場まで案内してですって!?」
ほとんどの生徒がバスに乗って帰ろうと教室を後にする中、ヒバナは一緒に帰ろうと声をかけた麗華に、あろうことか転落現場まで案内してほしいと頼んできたのだ。たまたま教室に国語辞典を取りに戻ってきた蕨は廊下で麗華の声を聞いて、聞き耳を立てて会話を盗み聞きしていた。
「だ、ダメよそんなの! 先生も言ってたでしょ? 歩道橋は使っちゃダメだって」
「——僕ね、麗華ちゃんが親切に教えてくれたのに、嘘だって周りが決めつけるのが許せないんだ。だから麗華ちゃんの言ったことが本当の事なんだって証拠を見つけたいんだよ。だからね、お願い。協力してほしいんだ」
嘘つきという自分への濡れ衣を払拭する為といい頭を下げて協力を求めるヒバナに心打たれたのか、麗華は「オーッホッホッホッホ」と高笑いをあげて協力する事を決めたようだった。
歩道橋を利用しようとしているクラスメイトを止めるべく、すかさず蕨は二人の前に出て反論した。
「ちょっと待ちなさいよ! そんなの駄目に決まってるでしょ!?」
「え!? ひ、樋橋さん。聞いてらっしゃったの? てか何で居るの」
「宿題で使う国語辞典を取りに戻ってきただけよ。それよりも我野君! クラスメイトのためとはいえ、立ち入り禁止になってる歩道橋に行くなんて絶対にダメだからね!!」
何を思って人が大怪我した場所へ行きたがるのか疑問に思いながらも、蕨はヒバナが転落現場に行こうとするのを止めるべく、説得しようと近寄っていく。叱られているにも拘らず、ヒバナは表情をピクリとも変えず蕨に笑顔を向ける。
何か反論されるのかと身構えていた蕨だったが、思ってもみなかった返答が返ってきた。
「それじゃあ図書館に連れて行ってくれる? 僕引っ越してきたばかりでここらの事を全くわかってないもんだから、場所がわからないんだ」
「図書館? あ、あっさり歩道橋へ行く事を諦めて図書館。 ……何で?」
「歩道橋に行けない以上、事故が発生した現場の事を調べるしかないでしょ? 過去にあの歩道橋で何が起こったかを知っておけば、事件発生の原因が見つかるかもしれない。図書館なら新聞の切り取りの地域資料が保管されているはずだから、その内容から推測して原因を見つけ出す事ができれば証拠にもなるし歩道橋に行かなくていいもんね。麗佳ちゃん、僕を図書館に連れて行ってくれる?」
「えぇ。今日はお父様もお母様も遅くなるらしいから、日暮れ前まででいいなら協力しますわ。前もって家の方に連絡は入れておきましたし、きっと学校の駐車場に私を迎えに来た車が停まっているはずですわ。それで図書館まで行きましょう」
のほほんとした顔に似合わず誰もが納得するような代替案を主張しだしたヒバナに驚いた蕨は固まって呆けていた。それと同時に、案外頭の回転が速いんだと感心すらしていた。
「ありがとう。 ——そういう事だから蕨ちゃん、歩道橋は使わない事にしたからもういいよね? 僕達はこれから図書館に行くからバイバイ」
そう言って教室を後にしたヒバナと麗華。一人取り残された蕨はしばらくボーっとしたかと思えば、ハッと我に返り踵を返してヒバナ達の後を追っていた。
「ま、待ってよ二人共! 私も協力するから一緒に連れて行って!!」
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