第35話
「え?あれ……燃えてないか?」
「大変だ!ユータランティア国の至るところから火が出ている!」
ユータランティア国を目指す一行は国が見え始めた辺りで街から煙が上がっているのが見えた。
「もしかして……」
そしてその上空に1つの黒い影。
「あれはまさか
「全員急ぎなさい!敵は翼龍だけじゃないわ!」
「え?」
「上空にいる翼龍の攻撃だけなら魔法師団の防御魔法で防いでるはず。街が燃えているのはきっと魔物の群れよ。前の赤い石に違いないわ。」
赤い石による魔物の群れは予想していたけど、まさか翼龍なんてね。
地上に降りればお父様なら戦えるかもだけど、そうすれば街が壊滅的な被害が出る。
空の敵に攻撃をしようと思うと魔法しかないけど翼龍に対抗できるような魔法なんてあるのかしら?
「とにかく!急いで戻り加勢するわよ!」
「はい!」
ーーーーーーーーーー
「くそっ。いくらでも湧いて出やがる。しかもこの感じ……1ヵ所じゃないな。」
空には翼龍がまだうろうろしてやがるし決め手に欠けるな。
「市民の避難は?」
「大方は完了しました。」
「このままじゃジリ貧だ。城へ避難して籠るぞ。」
「しかし応援の当てもないのにそれは無謀では?」
「確かにな。だがこのままイタズラに戦っても消耗するばかりだ。密集する事で部隊と守る部隊と分ける。」
「それが良いかと。」
「キーナ。」
「このまま分散して戦い続けていてはその内にどこかで崩れ囲まれてしまいます。それならいっそ集まり集中した方が懸命です。」
「そうだな。ヨシ!決まりだ。キーナ、伝令を頼む。」
「分かりましたわ。」
その頃王城では
「もう何度目だ?いい加減諦めろよ。」
翼龍に対し防壁を何度も張り魔法師団は疲弊していた。
「ここで持ちこたえなければ!奴が地上に降りればたちまち被害が拡がる。」
「何としても持ちこたえるのよ!」
だがその想いも虚しくついに限界の時を迎える。
「翼龍来ます!」
「防御魔法展開!」
翼龍の降下に合わせて展開した防壁には歪みがあった。それもそのはず魔導士の何人かは魔力切れを起こして防壁を張れていなかったのだ。
そこに翼龍が突っ込むと
ガシャーン
硝子の割れるような音とが鳴り響き防壁が破られた。
「くっ!マズイ!
フィオナが固有スキルを発動すると、城に突撃する翼龍に対しいくつもの六角形が並んだ障壁が現れ翼龍はそれにぶち当たり城の中庭に落ちた。
「城への直撃は避けたものの中には大勢の避難民が居るのに。」
空からの攻撃ならば散発的なので対処しやすかったのだが地上に降りたとなれば防壁を張り続けないとならない。
「魔力の切れた者も多数出てきているのにマズ……」
Gyaoooo!
翼龍が吼えた。ただそれだけなのに立っていた者は吹き飛ばされ、城壁の1部までも崩れ落ちた。
フィオナが居たのは城の屋上テラス。当然その場所も翼龍の咆哮に晒され壁に叩きつけられ、気がついた時には倒れていた。
「何が起こったの?」
頭を振り体をおこすと、
「!?」
目の前には翼龍の顔が迫っていた。
「
翼龍との間に魔法障壁が展開され翼龍はそれにぶつかり動きを止める。
「何て大きさだよ。この障壁が消えたらそのままひとのみにされるな。」
「フィオナ!障壁を消せ!」
「その声は父上!」
障壁を消すと同時に翼龍へ突撃する何かの姿。
「
それは手に持つ槍を投げると翼龍の目に突き刺さる。
Gya
翼龍が痛みに咆哮を上げる。それを予期していた男は
「
素早く障壁を翼龍の頭を囲うように展開した。
音が障壁の中で反響し翼龍の顔が殴られたかのように後ろへ倒れると
「
追撃しようと再度槍を構えたが、翼龍はそのまま地を這うように後ろへ飛び上がり上空へと逃げると口を大きく開いた。
「ブレスがくる!フィオナ!」
「はい!」
「「
フィオナが中央に障壁を張りその周りをパラボラアンテナ状に障壁を張る。
逸れたブレスが当たればそれだけで壊滅的な被害となるからだ。
翼龍の口に魔力が集中しそれが一気に解き放たれた。
視界が光で埋め尽くされたかと思うとそれに遅れて
カゴォォン
轟音が鳴り響く。
そこにあるのは不規則に並ぶ
城への被害は免れた。しかしその代償は大きい。
「まさかあそこまで
絶対防御の真後ろにいたユータランティア王とフィオナはブレスの残滓である衝撃波を受け壁に叩きつけられていた。
横を見るとフィオナは頭から血を流し倒れ、ユータランティア王自身も肋骨を折る等の負傷をしていた。
「
フィオナへ手をかざしユータランティア王のスキルでフィオナを回復する。
「今ので魔力切れか……。」
剣を杖代わりに立ち上がりフィオナの前に立つ。
「大したことは出来ないかも知れんがそれでも娘を先に死なせるような真似はせんよ。」
剣を構え痛む胸を無視して叫ぶ。
「さあ来い翼龍!道連れとまでは出来なくともせめて一撃!喰らわせてやる!」
それに応えるかのように翼龍が地上へ降り立ち、ユータランティア王と向き合った。
ユータランティア王が剣を構え近づく翼龍に飛びかかろうと走りだす。
その直後に翼龍が何かに気付き後ろへ飛んだ。
さっきまで翼龍のいた場所を何かが通り抜けたかと思うとそれに遅れて炎の道が空に向けて伸びて消えていく。
それを放ったであろう場所へ目を向ける。そこは城から少し離れた所にある広場。そこには数名の騎士が魔物を蹴散らしながら城へ向けて進んでいるようだ。そしてひときわ大きな馬車の上に1人の少女。
「ユイナ!」
「お父様!お待たせしました!」
「すまない。助かった。」
「よくも好き勝手してくれたわね。もうこれ以上は好きにさせないんだから!」
ユイナは両手を合わせるとそこに魔力を集中する。それはどんどん広がりサッカーボール大の大きさの魔力球となった。それを5個ほど造ると
「魔力遠隔操作。α《アルファ》γ《ガンマ》β《ベータ》は魔物の殲滅。δ《デルタ》ε《イプシロン》は対翼龍へ!」
ユイナがそう言うと魔力球はまるで自立しているかのように動きだす。α、γ、βがそれぞれ戦闘中の騎士達の方へ。δ、εはユイナの周りをクルクルと回転している。
「道を切り開くから騎士達よ!続け!
ユイナが叫ぶと騎士達の方へ向かった魔力球から次々と魔法の矢が放たれ立ちはだかる魔物を蹴散らしていく。
その光景を見たからか、それとも翼龍へ届く攻撃をしたからなのか翼龍はユイナを敵視していた。
翼龍の口に魔力が集中する。
「させないわ!
ユイナの周りの魔力球から伸びる1条の光が2本。今度は確実に翼龍に命中し、翼龍の口の魔力が霧散した。
「威力は
とにかくブレスを撃たせない事ね。さっきのブレスで
そんな威力のモノを撃たれたら間違いなく全滅する。
「とにかく城へ行ってお父様と合流が先決ね。」
翼龍の動きに注意しながら魔物の群れを突破しないといけないなんて……かなり厳しいわね。
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