第36話

 第3王女ユイナ ユータランティアは出来損ないだ。

 今でこそそう言われる事は無くなったが小さい頃には裏でずっとそう言われていた。


 何故ならば第1王女と第2王女はお父様のユニークスキルである絶対回復パナケイア絶対防御イージスを引き継いだ。

 そうなると周りには第3王女が絶対攻撃グングニルを引き継ぐだろうと期待されて産まれた。 


 しかし結果は私にはお父様のスキルは引き継がれなかった。

 言われなき誹謗。面と向かっては言わないが、陰で出来損ないと言われ続ける日々。


 家族はスキルを引き継ぐなんてレアケースだと言ってくれる。

 事実、そんなケースは稀でお姉様2人があり得ないのだと歴史が証明している。


 それでも人は勝手に期待するものだ。

勝手に期待して、勝手に裏切られたと思い私を陰で非難する。


 だから私は努力した。お姉様に引けを取らないように。誰からも必要とされるように。

 それは思いもよらない形で役に立ったのだがそれは今は別にいい。

 今あるのは目の前の翼龍。これに対して私が役に立てば私の第3王女としての評価は一変する。

 ユニークスキルが無くても。私が、ユイナ ユータランティアがこの国には絶対に必要なのだと。

 そうしなければ私はいつかこの国を出る事になる。

 イクトとの想い出が詰まったこの国を。


 ……それだけは嫌!せめてイクトとの想い出と共に生きていきたい!その為にも


 「まずはお父様と合流!それから翼龍対策を講じます!その為にも邪魔な魔物は消えてしまえ!」


 「魔力球よ!灼熱の炎と化せ!爆炎エクスプロード


 魔力球が炎の塊と化した。


 「集いて1つとなれ!」


 炎と化した魔力球が集まりその身をお互いに融け合う。


 「私のオリジナル魔法!電離気体球プラズマ!」


 融け合った魔力球は更に高温となり大気をも歪め地面を溶かす。


 「行け!」


 それは一直線に進み途中の触れた魔物は蒸発し、触れずとも近くの魔物は燃え上がって死亡した。


 「開放オープン


 その声を合図に電離気体球は突然光を放ち爆ぜ広がり一瞬にしてその範囲内の魔物を消しさった。

 地面から陽炎が立ち上る。


 「氷結波アイスウェーブ


 そこを氷魔法で冷ますと


 「今の内に急ぎましょう。」


 ユイナの指示の元、騎士達は城を目指して進みだした。


 「ありゃー、凄いアルな。」


 「そうですね。」


 「イクトも知らなかったアルか?」


 「はい。……あんな大規模な魔法は見た事はありません。僕が教わっていたのは基礎だけでしたから。」


 「基礎……?」


 ヤオの脳裏にはホブゴブリンとの戦いで見せた空中待機させた石礫ストーンバレットが思い浮かぶ。


 あんな魔法の使い方は他の魔法使いでは見た事ないアルけど。

 基礎だけ……。もしかしたらイクトがそう思ってるだけかも知れないアルね。


 そこからはユイナの独壇場だった。翼龍を牽制しつつ魔物を殲滅し城への道を切り開く。

 ユイナの魔法から逃れた魔物は騎士団やイクト達の手によって次々と倒されあっという間に城へと辿り着いた。


 城で防衛にあたっていた騎士がユイナに駆け寄ると


 「国王は屋上に。」


 「屋上ね。分かったわ。ガストン達はここで他の騎士と協力して防衛を。私はお父様と翼龍の対処に当たります!」


 ユイナはそう告げるとイクトの方をチラッと見てからファナを連れて足早に城の中へ向かった。


 「私らはどうするアル?」


 ユイナからは何も言われていない。先程の様子からすれば自由にして構わないのだろうが……


 「僕らが翼龍の方へ行っても足手まといにしかならないでしょう。ならばここで騎士団に協力して防衛した方が良いかと思います。」


 「そうネ。そうするアル。」


 ユイナは城内を急ぐ。新たに魔力球を造りながら屋上を目指す。


 イクトは来てくれなかったわね。それもそうよね……。

 ううん、違う。イクトは私の近くに居たくないからそうしたんじゃない。自分に出来る事を選んでそうしたのよ。

 実際、翼龍に対して攻撃する方法なんて限られているのだから。

 だからこそ私は私に出来る事をする。そしてイクトの居るこの国を守るのよ。


 屋上に出るとそこには


 「お父様!お姉様!」


 ユータランティア王が寝そべるフィオナを抱えていた。


 「フィオナは気絶しているが無事だ。それよりもすまない。翼龍にたいしたダメージも与えられないまま魔力切れとなってしまった。」


 「そうですか、ここは私に任せて下さい。国民の避難は?」


 「この城内に全て終えている。騎士団もこの城で防衛にあたっているから外は気にするな。」


 「分かりましたわ。これで心置きなくヤれますわ。」


 そう言うとユイナは翼龍をキッと見据える。

 翼龍の口にはすでに魔力が集まりブレスを撃つ準備をしている。

 それに……


 「かなり離れているわね。」


 ブレスを邪魔されないようにこっちの攻撃が届かないであろう場所まで移動していたのだ。

 その分ブレスの威力も落ちるだろう。しかし、それでもここを吹き飛ばすには十分な威力であろう。


 「私に何も出来ないと思っていそうね。確かに絶対防御イージスは使えない。けどね、私は魔力量には自信あるのよ!α《アルファ》!β《ベータ》!」


 2つの魔力球がユイナの前に来るとユイナはそれに更なる魔力を注ぎ込む。


 「紅蓮の炎よ!!」


 1つの魔力球が炎の塊と化した。


 「紫電の雷よ!!」


 もう1つの魔力球が淡い紫に輝く。


 「融合!」


 2つの魔力球がゆっくりと重なり眩い光を放つ。


 それを待っていたかのように翼龍がブレスを放つ。凄まじい勢いで迫る光の本流。


 「穿て!紫電の炎流!」


 ユイナが魔法を放つ。


 翼龍のブレスとユイナの魔法がぶつかり合う。

 衝撃でその辺り一帯の建物は吹き飛び瓦礫と化し、余波の熱量で激しく燃え上がる。


 力は拮抗しているかに見えた。どちらの物とも分からない飛び散った残滓が街を破壊し燃やす。


 「負けない!」


 ユイナが込める魔力を増やした。


 それにより徐々に翼龍のブレスを押し返し始めた。

 翼龍も負けじとブレスに更なる力を込めるとブレスの太さが一気に増した。


 ユイナの魔法をブレスが飲み込み一気に迫る。


 「ユイナ様!」


 ファナがユイナを庇うようにユイナの前に立つ。


 「大丈夫よ。」


 その言葉を裏付けるかのように翼龍が炎に包まれその体に紫の電撃が走る。

 迫るブレスは内側から紫の電撃が伸び、まるでガラスであるかのように砕け散った。


 「大きければ良いって訳じゃないのよ。大事なのは密度よ。」


 翼龍のブレスは力を込めた際に密度が低下していて、ユイナの魔法はブレスの中を打ち砕き翼龍へと進み直撃したのだ。


 「ユイナ様……流石です。」


 翼龍のブレス1つで滅んだ国もあるというのに、ブレスを防御魔法ではなく攻撃魔法で圧倒してしまうとは。驚きです。


 「けれど大したダメージではなさそうね……」


 翼龍が羽を大きく広げ1度羽ばたけば炎はその風圧により撒き散らされ消えた。

 そして翼龍はそのまま飛び上がるとそのまま滑空しこちらに迫る。


 ファナが剣を構える。

 翼龍が空中で体を回転させた。滑空の勢いの乗ったドラゴンテイルだ。


 「パリィ!」


 巨大な尻尾が上に弾かれ翼龍はそのままバク転のように回転して地面に叩きつけられた。


 「一撃で……ギリギリでした……」


 見るとファナの剣は粉々に砕かれその手も震えているのが分かる。


 「ファナ、ありがとう。翼龍よ!これでも喰らいなさい!γ《ガンマ》圧縮!マテリアル化!ε《イプシロン》δ《デルタ》を連結!」


 魔力球が圧縮されサッカーボール大だった魔力球がピンポン球位まで縮んだ。


 「ε《イプシロン》よ炎に!δ《デルタ》よ!風に!γ《ガンマ》よ回転!」


 翼龍が起き上がり憤怒の瞳をこちらに向けている。


 「発射!」


 その翼龍の顔目掛けてユイナの魔力球が放たれた。


 ガキィィン!


 凄まじい音が鳴り響く。が

 翼龍は微動だにしていない。マテリアル化し、超硬質のγ《ガンマ》がドリルと化しそれをε《イプシロン》とδ《デルタ》の炎と風で押しているのに


 「翼龍の鱗にはこれでも刺さらないというの!?」


 甲高い音が鳴り響くがそれだけだ。

 翼龍は羽虫でも払うかのようにソレを首を振って払いのけるとその大きな顋を開き丸飲みにしようと迫る。


 「させません!」


 「ファナ!?」


 ファナが立ち塞がるが翼龍の大きさの前には意味を成さない。


 「ソードスラッシュ!」


 ファナの横を駆け抜けユータランティア王が剣撃で対抗する。


 がそれも翼龍を一瞬怯ませた程度だった。


 「ユイナ!フィオナを連れて逃げろ!」


 「ソード!スラッシュ!スラッシュ!スラッシュ!」


 視界いっぱいに拡がる龍の口。とてもではないが逃げる暇など無い。

 魔法も間に合わない。

 ……打つ手が無い


 「導火龍撃掌!」


 翼龍の頭部が衝撃に仰け反りそのまま後ろへと倒れ込んだ。

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