第29話 赤い石

 カスウェルはローブを被った男を連れ牢の前を歩く。


 「あれと、それ。これも良さそうだ。」


 ローブの男は見張りの兵に指示を出すと兵は鍵を開け中の犯罪者を連れ出した。


 「さあ、これを見ろ。」


 男の手には不気味に輝く紫色の水晶が嵌まった箱のような物。

 それを囚人の方へ突き出すと囚人は紫の光に包まれた。


 「うわっ!」


 その光景を見ても衛兵は何も反応しない。それどころか何処か虚ろな表情でそれを眺めている。


 光が収まるとそこに立っている囚人は衛兵と同じ虚ろな表情となっている。


 「いつ見ても恐ろしい魔道具だな。」


 「便利でしょう?」


 「確かに便利さは随一だ。これでもう少し融通が効けばな。」


 「仕方ありません。何せ思考能力を奪う魔道具ですからな。」


 「そうだな。思考能力が残ったままでは言う事を聞かないか。」


 「その通りでございます。」


 「お前が俺の仲間で良かったよ。しかし、お前のその才能がいつ俺に魔の手を伸ばすか、それが恐いな。」


 「はははっ。それはあり得ませんな。あなた様に私めは忠誠を誓っておりまするゆえ。」


 「その言葉信じるぞ。」


 「それはもう!私はカスウェル様の忠実な下部でございます。」



 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「はあ、もう少しでイクトに会えるのね。」


 最初にトラブルこそあったものの旅の工程は半分を過ぎ予定では後3日程で戻る予定となっていた。


 「明日にはヒュストブルクの領地を抜けます。今日はヒュストブルク最後の村での宿泊ですね。」


 村での宿泊と言っても村の中で場所を借りるだけで宿に泊まる訳ではない。

 防衛の為の壁があるだけだ。なので見張りの人数を減らせるだけで野営とあまり変わりはなかった。


 この後も宿への宿泊はありません。全てをこの馬車の中で済ませられます。

 ユイナ様が外へ出てイクト様に見つかる心配は無いと言っても良いでしょう。


 それにしてもイクト様のユイナ姫への執着。あの日から変わりはありませんね。


 イクトは事あるごとにユイナ姫の乗る馬車を気にしている。

 どこにユイナ様=ユイナ姫と疑う要素があったのか分かりませんが、イクト様がそれを疑っているのはもう間違いないでしょう。


 「これからの対応は難しくなるでしょうね。」


 「ん?ファナ何か言った?」


 「いえ、何でもありません。」



 それから数刻後、明るい内には村へ辿り着き、ガストンが村長へ挨拶を済ませると村の1角で野営の準備が進められた。


 「おーい!」


 そこに村人が走って来た。


 「すまんが回復魔法を使える人はいないか?」


 「どうされました?」


 それにガストンが対応をする。


 「何か分からんが、この村にずっと走っておったのか裸足で足の裏も擦りきれボロボロになって来よった者がおるんじゃ。」


 「何かに追われて来たのかも知れんな。しかし済まないが我々は騎士団。回復魔法を使える者は連れていない。」


 これは嘘である。ユイナ姫は回復魔法も使える。しかし無闇に姫に頼る訳にはいかない。


 「あ、僕が行きましょうか?回復魔法も少しなら使えます。」


 そこに近くで聞いていたイクトが手を上げた。


 「ふむ、ならばイクト殿。それと、誰か手の空いている者はいるか?負傷人がいるらしい。見に行くので数人着いてこい!」


 ガストンが叫び村の入り口なね向かって歩き出す。それに続きイクトと3名の騎士が付き添った。



 村の入り口では着る物もボロボロで全身も傷だらけとなった男が横たわり荒い息を吐いていた。


 「大丈夫ですか?すぐに回復魔法を……。癒しの奇跡よ。この者を癒したまえ。ヒール」


 淡い光が男を包むと、男の傷がみるみる消えていく。


 「何かに追われていたのか?」


 ガストンが男に声をかけると男は目を見開き


 「ランティア騎士団?」


 「ああ、そうだ。我々は国に帰る所だ。もし何かに追われているのならば協力できるかもしれんが?」


 「ランティア騎士団。ランティアきしだん。見つけた!みつけた!ミツケタ!」


 「な!?何を言ってるんだ?」


 男は懐から何かを取り出した。


 「何だ?」


 それは不気味に赤く輝く小さな石。


 「ミツケタらコレを」


 男ほそれを飲み込んだ。


 「何をやっているんだ!吐け!吐き出せ!」


 明らかに食べれるような物でない物を男が飲み込んだ為にガストンは慌ててそれを吐き出させようとする。

 男は下向きに吐き出そうと


 「オ!オエッ!ガハッ」


 すると男の口から


 ズルリッと鱗に覆われた手が生えてきた。


 「は?」


 男がその手を口から生やしたまま天を仰ぐと手は一気に勢いを増し男の口から飛び出した。


 「リザードマン!?」


 前身を鱗に覆われ緑色をした体で2足歩行をするトカゲの魔物。


 「オッオッオッオエッ!」


 男はまだえづいている。男の口から犬の顔が生えたと思うとそれは一気に姿を現す。


 「コボルトだと?」


 次々と多種多様な魔物が男の口から産み出されていく。


 「何だこれは!?どうなっていやがるんだ!」


 リザードマンが獲物を求め傍に居た村人を襲おうと手をのばす。


 「させないよ!」


 イクトは剣を抜きその手を切り落とした。


 「ガストンさん!」


 「おお!そうだ。呆けてる場合じゃない。全員抜刀!1匹も逃すな!」


 魔物は既に群れと化している。いや、それどころかまだ増え続けているようだ。


 「早くあの男を止めないと。」


 しかしどうやって?飲み込んだ赤い石を吐き出させる?

 いや駄目だ。あの男の口からはどんどん魔物が溢れ出している。その中であの石を吐き出させるのは無理だ。

 ならばどうやって……。


 ヤオの言葉が思い出される。


 殺すしかない……覚悟を決めろ!魔物はどんどん溢れてきている。

 止めれる可能性はあの男からあの石を取り出す事だけだ!


 魔物が次々と襲いかかってくる。騎士達もそれに応戦しながら近くの村人を守る。


 「早く逃げてくれ!」


 その声に反応し、茫然としていた村人が逃げ出す。

 それを追いかけようとするコボルトの前に土壁アースウォールを唱え村人の安全を確保した。


 出て来るのはコボルトやゴブリン等の低ランクばかりなのでなんとか対応出来てはいるがそれも時間の問題だ。


 「増える方が早いな。」


 「魔法で一気に殲滅します!土よ集いて石となれ!」


 イクトの前に土が集まり巨大な石柱が完成する。


 「巨石礫メガリスバレット!」


 それが魔物の群れを目掛け飛んでいく。

その柱の先にいた魔物は石柱に引かれさの身を擦り潰された。


 イクトはすかさずその石柱を追いかけ魔物を吐き出し続ける男へ迫る。


 が、そこへ男口から巨大な手が現れた。その巨大さにそれまでなんとか耐えていた男の顎が千切れてしまう。

 そしてその手はまだ全身を現してないにも関わらずイクトに殴りかかる。


 イクトは咄嗟に後ろへ飛びその衝撃を和らげるが後ろへ派手に吹き飛ばされた。


 「くそっ!」


 体勢を立て直し改めて男の方を向くとそこには巨大な2足歩行の牛、ミノタウロスが現れていた。


 「イクト殿!」


 ガストンがイクトの元へ来て叫ぶ。


 「馬車へ撤退しユイナ様に伝えて欲しい。……お逃げ下さいと。」


 「え?」


 「ミノタウロスまで現れてはもう勝ち目はない。この魔物の量はスタンピートに匹敵する数となる。逃げて王に知らせて欲しいと!」


 「ガストンさんはどうするのですか!」


 「誰かが少しでも時間を稼がないといけない。」


 「それなら僕も!」


 「若い奴を道連れには出来ない。逃げて生き延びろ。頼んだぞ!」


 そう言うとガストンは魔物の群れに向け走って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る