第28話 襲撃
「くそっ!」
誰も居ない部屋の中でカスウェルは悪態をついた。
確かに昨日は飲み過ぎていた。
ユイナの部屋へと行った事も覚えている。そしてそこで言うべきではなかった事を言ってしまったのも覚えている。
何をやられたのかまでは分からないがユイナの魔法か、メイドに何かやられたのか……。
朝になった時には中庭でメイドや衛兵に囲まれ周りには酒瓶。こんな醜態をさらして更にはユイナにやられたなんて言えば軍人として恥もいいところだ。
まだ酔って中庭で寝ていたの方がマシだろう。
「しかしこのままでは終わらせないぞ。ユイナ……。」
ーーーーーーーーーー
ユイナ達はイクト達ラピスと合流し、無事に出国しユータランティアへ向けて進んでいた。
「はあ~、イクトぉ。」
ユイナは魔道具である遠見を起動しイクトの姿を見ていた。
「近くにいるのに直接見れないなんて……。なんて生殺しなの。」
「ユイナ様……。もうしばらくの我慢です。それにイクト様はユイナ様の姿を見る事すら出来ないのですよ?」
「う、そうね。そうよね。けれどこんなに近くにいるのに触れる事も出来ないなんて。」
「はあ、」
それよりも気になるのはイクト様の持ち物。何故か手の平大の石を沢山持っているようですが?
あ、叩きましたね。石が粉々です。何か新しい修練を始めたのでしょうか?
「ねえファナ?イクトのあれは何をやっているのかしら?」
「何やら新しい修練を始めたようですね。」
イクト様の打撃はかなりの高速でしたが見逃していないとは流石ですね。
「石を叩いて砕くのが?」
「はい。格闘家としての技術でしょうから私には何の修練かは分かりませんが。」
「ってちょっと!ヤオ!近い近い近い近い!もっと離れなさい!」
映像を見るとイクトに肩を並べてイクトの胸に頭を預けるような形でヤオがイクトの手を覗きこんでいた。
「私が近くに居ないのを良い事に!まさかっ!昨日に街に着いたのからと言ってイクトを宿の部屋であんな事やこんな事を!」
イクト様の様子から新たな技術を教わっていたのだと思うのですが……。
ファナはユイナの様子を眺めながら
面白いので黙っていましょう。
ひとしきりグチグチと文句を言いそれが2周目に入った所で
「ユイナ様。それはそれとしてカスウェルへの対応。どうされます?」
「そうねぇ……。お父様に話す前に具体案を考えていた方が良いわよね。」
「はい……」
ドンドンドン
扉が荒々しくノックされた。それに慌ててファナが応じる。
「この先におそらく盗賊が待ち構えています。」
「盗賊が?何故分かったの?」
「ヤオ殿が索敵されて不自然に広がる人の為ならず反応があるとの事でして。」
こんな場所で盗賊?まだ街を出てから大して進んでいない。
しかしヤオの索敵は間違いない。遠く離れた所からゴブリンの集落を見つけるくらいだ。
「ユイナ様。どういたしましょう?」
「盗賊を放置する訳にはいきません。ここで討ちましょう。各員油断しないように。」
「はっ!かしこまりました!」
ユイナの一行は不自然なのならない程度にゆっくり進む。その課程で戦いの準備を整えていた。
「あと10メートル程に3人居るネ。」
ヤオが声を潜めガストンに言う。
道の脇には背の高い草むらが広がっており身を隠すには最適だ。
盗賊としては馬車を取り囲む形にしたいだろう。
しかしそれは存在を気取られていない場合。先に分かっているのに先手を打たない手はない。
「ヤオ殿。どこかね?」
「右手の草むら。そこネ。」
ヤオが指さす先をガストンが剣を抜き横一閃に切り開く。
草が舞い上がりそれと同時に血飛沫きが飛び散る。
それが開始の合図だ。
盗賊達が次々と草むらから姿を現した。
「出てきた奴が全てじゃないネ。まだ草むらの中に隠れてるヨ。」
「ランティア騎士団!抜刀!行くぞ!」
ガストンの合図で騎士達が現れた盗賊に斬りかかる。
イクトとヤオの姿はガストンと共に姫の乗る馬車の護衛についていた。
「イクト。無理はしないネ。人を斬るのは初めてダロ?」
「大丈夫です。やります!」
そう言いながら剣を持つイクトの手は震えていた。
「もっと力を抜くネ。ここまで来る可能性は低いネ。」
「はい!」
駄目ネこれは。
魔物を斬るのと人を斬るのでは違う。生き物を殺すという点では同じだが、人を殺すにはその覚悟が必要ネ。
「イクト。」
「はい?」
「怖いか?」
「……はい。」
「正直でよろしいネ。冒険者として生きる以上で今回みたいに対人戦は出てくるネ。」
「……はい。」
「絶対とは言えないけど人を殺す必要は出てくるヨ。殺したくないのは分かる。けど、ここで盗賊を見逃せばこの盗賊は違う人達を殺すヨ。それがイクトにとって大事な人かも知れない。」
「はい……。」
「覚悟ヨ。覚悟を決めるのヨ。今でなくても良い。けど、必要な時に必要な覚悟を決める。それが出来ないのであれば残念だけど冒険者はやめるヨロシ。」
「……」
「それだけは覚えておくネ。」
戦況は一方的だった。騎士達が次々と盗賊を斬り倒していく。
「……妙だな?ヤオ殿。盗賊の動きは?」
「どうしたアルか?」
「いや、盗賊だが我々騎士団がいるのに襲ってきたのもおかしいのだが逃げ出す奴がいない。これだけ劣勢だと普通は逃げ出す者がいるはずだが。」
「そう言われればそうネ。気配でみてる感じだと逃げ出す奴はいないネ。」
「何故だ?まるで死を恐れていないような。」
次々と斬られてはやられていく盗賊達。ものの5分もしない内に
「盗賊っぽい気配は全て無くなったネ。」
「誰か1人街へと戻り衛兵に連絡しろ。俺達はこのまま先へ進む。」
ガストンがそう指示を出すと騎士達が素早く行動を開始する。
死体を1ヶ所に集めておき見張りを1人配置する。そして1人が街へと向かった。
「それでは我々は先に進む。」
「はっ!我々も終わり次第すぐに戻りますゆえ。」
「無理して合流する必要はない。しかし、その心意気は覚えておこう。それでは王都でまた会おう。」
残った騎士が敬礼をし、それに見送られつつも旅路を再開した。
ーーーーーーーーーー
「どうやら失敗に終わったようです。」
「はっ、所詮は捕縛されるような盗賊か。数だけいても役に立たんな。」
「向こうが先に出ている以上追いかけるのは厳しいかと。」
「そうだな……。いっその事これを使うか……。」
男は机の中から小さな赤く輝く宝石のような物を取り出した。
「それはまだ実験段階で到底制御出来るような物では……」
「制御の必要はないだろ?どこかの村に逗留する筈だ。そこで発動すれば良い。どうせ道中にある村なんてたかだが知れている。」
「村ごと滅ぼすつもりですか……。」
「そうだ。これの実験にもなるし、後で魔道部隊に討伐させれば魔道部隊の実績にもなり国民も安心するだろ?」
「恐ろしい事を考えなさる。」
「ははっ、言うではないか。お前はそんな事思ってもない癖に。」
「実験を重ねてこその研究です。その為には多少の犠牲は必要でございます。その犠牲の提供。ありがとうございます。」
「やはりお前の方こそ恐ろしい考えよな。」
「それではまた新たな駒を用意して頂きたいのですが?」
「もう無いのか?」
「はい、盗賊に含めて全部出してしまいました。」
「そうか。使ってしまったか。前の盗賊は纏まった数が手に入り良かったのだが次はどうするか……。」
「折り入ってお願いが。」
「何だ?」
「怪力のバーンズが檻の中に居ると聞きました。」
「ああ、仲間殺しで捕まっているな。」
「それを使わせて下さい。」
「なるほど。それを洗脳しこれを持たせて行けば面白くなるかも知れんな。良かろう。手配する。それと何名かを見繕うが良い。」
「ありがたき幸せ。」
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