第30話 発覚

 「おや?どうやら始まったようですね。」


 「追いついたという事か。ならば今は……端の村の辺りだな。どうせなら向こうの領地に入ってからが理想だったが仕方ない。」


 「では私は見に行くとしましょう。」


 「やれやれ、物好きだな。」


 「やはりどうなっているかをこれからの研究の為にも見ておきませんとね。」


 「どうせなら発動が分かるだけでなくその状況も分かるようにすれば良いのだ。」


 「そうしたいのはやまやまですが、なかなか上手くはいかないのですよ。」


 「そういう物なのか?俺には分からん。」


 「実験とはトライ&エラー。その実験の機会や資材を与えて下さるカスウェル様には感謝しかございません。」


 「おべんちゃらなんぞ要らん。俺が求めるのは結果のみだ。」


 「はい。心得ております。」


 「ユイナ嬢の断末魔。しかと記録して参りましょう。」


 そう言うと男はローブを翻すとその姿はかき消えた。



 ーーーーーーーーーー

 「ん?何アル……?」


 ヤオは遠く離れた村の入り口の方へ視線を向ける。

 ゾワッとした感覚が背筋を突き抜け焦りを覚え、近くの騎士へと声をかける。


 「今すぐに出発の準備をするネ!」


 「はあ?何を言ってるんだ?」


 そしておもむろに近くの壁を馬車が通れる広さに破壊した。


 「ちょ!?お前は何をやってるんだ!」


 「まだ分からないアルか!」


 ガストンやイクトが向かった村の入り口の方を指差す。


 流石にそれで気付いたのか、村の入り口の方からはただならぬ空気を感じたようだ。それを見て


 「スタンピートネ。どういう訳か村の中で魔物が湧いているヨ。あの方向にはイクトや騎士が向かったアル。私はそれを助けに行くネ。」


 「我々も行く!」


 「駄目ネ!もう既にこんな少人数でどうにかなるレベルを超えているネ。あんた達は姫の護衛があるヨ。姫を連れてすぐに逃げるアル。……イクト達は私が連れ出すネ。」


 「待ちなさい!私も行くわ!」


 王族の馬車。ユイナ ユータランティアの馬車の扉が開きユイナがその姿を現した。


 「……やっぱりユイナだったか。」


 「いつから気付いていたの?」


 「最初からネ。知った気配をずっと馬車の中に感じていたネ。」


「そう……。黙ってくれてたのね。」


 「何か事情がある思ったネ。」


 「ありがとう。」


 「けど、駄目アル。正直に言って助けれる可能性は低いアル。魔物はどんどん増えているネ。それに……行けばバレるネ。」


 「構わない。そうしなければイクトが危ないもの。イクトが死ぬような事があったら……。それに私は魔道士よ。足は引っ張らないわ。」


 「……分かったネ。一緒に行くアル。けど自分の身は自分で守るアルよ。」


 「もちろんよ。私の実力見せてあげるわ。」


 ヤオが走り出す。


 「先に行きます。」


 それに遅れてファナが。


 「身体強化ブースト


 ユイナは自らの肉体に強化魔法をかけると走り出した。


 更にそれに遅れて


 「ユイナ様が出陣なされた!我々騎士団も遅れるな!続け!」


 騎士達も慌ててそれを追いかけて行った。



 ーーーーーーーーーー

 「くそっ!」


 ああは言ったもののイクト殿を逃がす隙も無い。


 騎士達は魔物なの囲まれ退路を絶たれていた。そして増え続ける魔物は獲物を求め村中に散らばり始める。


 包囲されながらでも持ちこたえているのはひとえにイクトによる魔法で一気に多数を蹴散らせている事が大きい。


 彼が居なければとうに全滅していた。

彼は救えなかったがどうか他の者が気付いてユイナ様を逃がしてくれていた良いのだが……


 「Gmooo!」


 巨大な鳴き声と共に巨大な戦斧が魔物を切り裂きながら横凪に振られた。ミノタウロスの一撃だ。


 それをなんとか避ける。反撃に出たいがミノタウロスとの間には魔物が多数いてとてもじゃないが攻撃は出来ない。


 「GmoooooO!」


ミノタウロスがひときわ大きな雄叫びをあげるとそれまで散発的だった魔物の攻撃がまるで壁のように迫る。


 もう駄目か!?


 「突風ウィンドブラスト


 魔物が突風に煽られ宙に舞った。


 「気光砲ネ!」


 それを巨大な光が貫き魔物を蒸発させる。


 「イクト!無事アルか?」


 「ヤオさん!」


 吹き飛び蒸発したのは後ろの方にいた魔物だけ。ミノタウロスは健在だ。


 「Bmooo!」


 ミノタウロスが斧を振り上げた。渾身の一撃が来る!


 イクトは身構えるがその一撃は来ない。

 ミノタウロスはそのまま後ろへ倒れるとその頭が胴体から離れ転がった。

 そしてその傍にはユイナのメイドである


 「ファナさん?」


 後ろを振り返るイクト。するとそこには居ない。存在してはいけない姿。


 「ユイナ……」

 「ユイナ姫!」


 イクトと同時、ガストンが叫ぶ。


 「お逃げ下さい!我々だけでは勝てません!騎士団が時間を稼ぎますゆえ!」


 「なりません!王族が他国と言えど民を見捨てて逃げる事などあってはならない事です。ユイナ ユータランティアの名においてここで全てを討伐します!」


 ユイナの口がハッキリとユイナ ユータランティアと名乗った。

 ユイナのそっくりさん?いや、違う。僕がユイナを見間違える事なんて無い。

 ならばやっぱり。そうかもと思っていたのだけど……

 ユイナはユイナ ユータランティア姫だったのか……。


 その事実にガックリと肩を落とし地面を見つめ項垂れる。

 ユイナは今まで僕を騙していたんだね。

 王族と平民。どう足掻いても結ばれる事などない。


 「イクト!」


 その声にハッとする。

 目の前にはコボルトの持つ剣が迫っている。

 剣で弾く!いや駄目だ間に合わない。


 「俊足アクセルブースト


 何かがコボルトに体当たりをしコボルトと一緒に倒れ込む。


 「ユイナ様!何て無茶を!」


 コボルトに体当たりをしたのはユイナだった。


 「ユイナ。何故君が?」


 「ごめんなさい。後で説明する。だから今は協力して!この魔物の群れをどうにかしたいの!」


 確かにそうだ。今は魔物を退治して生き残らないと。


 「姫様が無茶するネ。」


 「攻撃魔法だとイクトを巻き込むしあれしかないかなって……。」


 そう話すユイナはどこかぎこちない。


 「イクト!何を考えてるか知らないケド今は戦闘中ネ!集中するアル!」


 「……はい!」


 「それにしてもどんどん数が増えるネ。あれは何か関係あるか?」


 ヤオが指差す先は魔物の群れに隠れて見えないがあの男がいた場所だろう。


 「あそこに赤い石を飲み込んだ男がいます。その男の口から魔物は溢れ出してきているんです。」


 「何それ?気持ち悪いアル。」


 「ならその男が原因かな?その男を殺せば?」


 「いや、たぶん男はもう死んでる。赤い石こそが原因だと思う。」


 「ならそれを男の体内から取り出し破壊しないと駄目アルな。」


 「しかしこの魔物の数で近づく事さえ出来ません。」


 「そうアルか?確かに数は多いけど雑魚ばかりネ。何とかなると思うネ!」


 言うが早いがヤオが走り出す。


 「本気でいくネ!ハアアア!」


 次々と魔物を殴り蹴っては蹴散らしていき、群れの中に飛び込むと


 「昇り瀑布ばくふ!」


 ヤオの飛び込んだ場所が激しく滝が昇るかのようにヤオの気が昇るとそこにいた魔物は全て消し飛んだ。


 「凄い!これなら!あっ!」


 ヤオの動きが止まっている。中心で肩で息をし動けない。

 そこへ魔物が殺到し始める。


 「ヤオさん!」


 ヤオの放った気は上空で雲のように広がっている。


 「昇った水(気)は上空で冷やされ落ちてくるネ。ひょう


 上空にまだ漂っていたヤオの気。それが固まり加速しまるで弾丸のように落ちてきた。

 

 ドドドドドド


 轟音と共に降り注ぐ。


 「今日の天気は雹。所によって血の雨が降るネ。」


 この攻撃によってかなりの数の魔物が減り男の姿が見えた。


 「あれネ。気持ち悪いしさっさと片付けるとするネ。」


 ヤオがその距離を縮めると男からまた巨大な手が現れ、ヤオに向けて拳を放つ。


 「おっと危ないネ。」


 それをバックステップで避ける。

 

 その隙に一気に魔物が姿を現す。


 「ミノタウロス。流石にこれと力比べする気にはなれないネ。」


 ヤオが距離をとった。


 「ほお、面白いね。ちょっと聞きたいのだが先に現れたミノタウロスももしかして誰かが近付いた時に出現した?」


 「え?あ、はい。」


 唐突の質問にイクトは答えた。


 「え?」


 声のした方を見るとローブを着た年老いた男の姿。


 いつの間に?


 「こんな所に居ては危険です。逃げて下さい。」


 「いやー、君って優しいね。敵である私の心配をするなんて。」


 「え?」


 「しかしどうやら周りの状況を認識して出す魔物を変えているようだな。どうやって認識しているのか?あの男の頭部はもう無くなっているから男の視覚を利用してる訳ではなさそうだか?」


 「敵?」


 「ん?ああ、気にしないでくれ。それとも私の話しが聞きたいかね?」


 「え?いやその……」


 「はっはっは。やはり研究者としては自慢したくてね。どうだい?アレは?なかなか苦労して作りあげたんだよ。しかし機能としては魔物を生み出すしか出来てないのでダンジョンコアとしては失敗だな。」


 「え?ダンジョンコア?」


 「そう。私の研究成果だよ。人造ダンジョンコア。」


 「人造ダンジョンコア?」


 この人は何を言っている?ダンジョンコアと言えばダンジョンの中核だ。

 それを人工的に作った?あり得ない。


 「いつかは完全なるダンジョンをこの手で造りだしたいものだよ。お?」


 ローブの男が何かに気付いた。


 「どうやら魔力切れのようだ。」


 見ると魔物を吐き出し続けていた男が干からびたかのようにその身が痩せこけ萎んでいる。


 「うーん、困ったな。このままでは君達は生き残ってしまうな。仕方ない。切り札を使うか。準備があるからここで消えさせて貰うよ。」


 「な!待て!」


 ローブを翻すと男の姿はかき消えた。

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