第27話
「これがドラゴンの爪痕……」
ここは城壁のすぐ外側に位置する場所にあり観光名所となっている場所である。
高さが5メートルはある巨大な壁に3本の斜めに抉られた傷が目立つ。それ以外にも多くの傷がついていて戦いの激しさを物語っている。
元々は城壁の1部だったらしいのだが、ドラゴンの侵攻で大半は破壊され残った物をドラゴンの脅威を忘れない為に残したのがこれだそうだ。
「あの爪痕でも3メートルほ有りますよ。」
「そうネ。あんな攻撃を人間が喰らったら一撃でお仕舞いネ。」
鎧などは役に立たないだろう。それ程迄に爪痕は大きく深い。
「この痕を残したドラゴンはどうなったのですか?」
「何でも街の人口の1/3、約1万人を食らい満腹になったからなのか去っていったそうネ。」
「え!?」
これだけ激しい痕が残る戦闘でもドラゴンにとっては単なる捕食行為でしかないのか……
「戦ったつもりなのは人間だけなのかも知れないネ。」
ドラゴンにとってここは餌場であって人間の攻撃は羽虫が纏わりつく程度だったのかも。
「そのドラゴンは今も?」
「たぶん生きているネ。生態がどうとか分かってないけどドラゴンは長い間眠りについて腹が減ると起きて食事をする。この周期で生きている。と言われているヨ。」
「だとすれぱこの国にまた」
「たぶん来るネ。その周期が分かれば何か対策できるかもだけといつ来るかは不明ネ。」
「恐ろしいですね。」
「そうネ。けどそれを恐れて生活は出来ないネ。」
「そうですけど、違う場所に移り住む事も出来たのでは?」
その言葉にヤオは首を振る。
「当時の人達がどう考えたかは分からないネ。けれど生まれ育った所から離れたくない気持ちは分かるネ。」
「それは……。」
「それにこの国は強いアル。この国には騎士団は存在しない。」
「え!?騎士団が?」
「代わりに軍という物があるネ。」
「軍ですか?」
「そう。騎士と言うとどうしても剣にこだわりを持つネ。」
「はい。確かに。」
今までに会った騎士も剣の道を進んでいた。
「そのこだわりを捨てる為に敢えて騎士を名乗らず軍と名乗っているそうヨ。」
「どういう事ですか?」
「やはり大きいのは魔道具。これの軍事利用を主としてドラゴンにも通用する兵器の開発を目指しているヨ。それもあって市民は暮らしているネ。」
「ドラゴンに通用する魔道具。どんな物かも想像つきませんね。」
「そうね。それがどんな物か公表されてないけど、実験で山に穴を開けたって話しは聞いた事有るネ。」
「山に穴を……。だとすれば魔法の効果を上げる感じの物でしょうか?」
「さあ?それはさっぱり分からないネ。あくまでも噂は噂ネ。」
しかしドラゴンに通用する魔道具か……。
やはりそういうのが無いとドラゴンと戦うのは不可能なんだろうか?
イクトは小さな頃にいつかはドラゴンを倒すと言っていたのを思い出した。
果たしてドラゴンに通用するような冒険者に僕はなれるのだろうか?
無邪気な子供ではなく、現実として考えるようになった今。こんな巨大な爪痕を残すような生物と相対して勝てるとは到底思えない。
それでもドラゴンを倒すというのは冒険者としては憧れである。
「強くならなければ。ヤオさん!修行をお願いします!」
「え?イクト。せっかくだから観光をちょっとくらいは……」
いや、イクトのあの目。凄くヤル気になってるネ。
ここで水を差すような真似は師匠としては出来ないアル。
「分かったアル!イクトに内浸攻を教えるヨ。早速修行出来る場所へ移動アル!」
「はい!」
ーーーーーーーーーー
「内浸攻とは気によって打撃の衝撃をズラす技ネ。やってみせるから見てるヨ。」
そう言ってヤオはおもむろに近くの巨石に拳を叩き込む。
ガァァンッ
数瞬遅れてから岩に亀裂が入り岩が崩れ落ちた。
「ま、こんな感じネ。気光砲のように外に気を出す必要があるネ。打撃の衝撃を気で包んで?それを先でそれを開放する?ネ。」
「何で疑問形なんですか?」
「理屈はだいぶ昔に習ったきりでうろ覚えヨ。それにこういう説明は苦手ネ。それよりもギュッとやってガッと殴って先でパッとする。って言った方が分かり易い思うヨ。」
「いや、何か分かるような分からないような?」
「ま、とにかくイクトもやってみるネ。」
「分かりました。」
「まずは手を強化して……」
パンチの衝撃を気で包み飛ばしてから開放する。果たして出来るだろうか?
手近な岩にイメージをしつつパンチを繰り出す。
バカァァン
派手な音と共に岩が砕け飛び散った。
「駄目ネ。衝撃を気で包めてないネ。それじゃ気で強化された打撃ネ。」
「難しいですね。どうすれば出来るかのイメージすら出来ません。」
「練習あるのみネ。何度も挑戦し、試行錯誤するネ。これが出来れば気の操作をマスターしたと言っても良いレベルネ。」
「それだけ難しい技術なんですね。」
「そうアル。正直言ってイクトにはまだ早いネ。だから気長に練習するネ。イクトなら絶対できるようになるアルネ。」
「はい!頑張ります!」
「そこまで気合い入れなくて良いアル。今日明日で身に付くような技じゃないネ。けど技の原理は知っていて損はないアル。」
イクトは見よう見まねで気光砲を使ってみせた事もあるヨ。
イクトのセンスならきっと教えておけばその内にきっと使いこなすようになるネ。
「イクトの事ネ。練習し過ぎて体を壊さないようには注意しないと駄目アルよ?」
「あはは、気をつけます……」
そう言いながらも次々と岩を殴っては粉々にしているイクト。
それを見ながらヤオは
「このままだとやり続けて1日終わりそうアル。……仕方ない。それがイクトらしいネ。」
一生懸命に練習を続けるイクトをいつまでもヤオは見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます