第26話 パーティー
パーティーの開かれる会場にはすでに大勢の人が各々話をしたりしていたが、ユイナが姿を現すと会場がどよめいた。
その大半が見慣れぬユイナの美貌に
「あの美しい方は誰だ?」
と騒ぐ声が大半だ。
するとそこへ
「やあ!よく来てくれた!ユイナ姫よ!」
国王が姿を現した。
「皆に紹介しておこう!彼女は我が同盟国であるユータランティア国の第3王女。ユイナ ユータランティア姫だ。」
ユイナは外交にはほとんど出ない為に他国でその姿を知る者は少ない。
しかしその才能は噂され国外でも知られている。
若くして内政を行い数々の改革を行ったり、魔術に優れ上級魔法を使いこなす。等噂は様々だ。
なのでどうにかその恩恵にあやかりたいと貴族達はどうにか話しをする機会がないかと様子を伺っていた。が、
パーパラッパー
突然ラッパの音が鳴り響き
「王子の入場です!」
奥の扉が開らかれそこから煌びやかな衣装に身を包んだカスウェルが現れる。
「うわっ……」
その姿なのユイナは思わず声を出してしまったが幸いにして誰にも聞かれてはいないようだ。
何あの格好?いかにもお金かかってますみたいに無駄に宝石をちりばめられた服は?趣味の悪い服ね。
王子は周りに片手をあげ軽く応えながら国王の元へと向かう。
「父上、本日は私の為に開催頂きありがとうございます。」
そう言い深々と頭を下げた。
「なに、本日の主役はお前じゃ。存分に楽しむが良い。」
「ありがとうございます。そこでお願いがございます。」
「何じゃ?改まって?」
「私にはまだ婚約者がいません。」
「そうじゃのう。しかしそれはお前が頑なに決めようとせんからじゃろう。」
「はい。そうです。しかし私は今日運命の出会いをしました!」
周りがざわざわとざわめく。
「ついにカスウェル様が」
「お決めになられたの」
「ふむ。相手は誰かの?」
「ここで婚約を申し出てもよろしいでしょうか?」
「ここに居るのは身分も確かな者ばかり、何よりお前が選んだ相手というのが気になる。よかろう。」
「ありがたき幸せ。」
そう言いカスウェルは辺りを見回すとこちらにまっすぐ歩いて来る。
え?ちょっと嫌な予感しかしないんですけど?
王子は止まらない。まっすぐにユイナの元へ歩いてくるとユイナの手をとり
「ユイナ姫。初めて会った時から貴方しかいないと思っていました。どうか僕の妻になってくれないか?」
いやいやいやいや、ちょっと何を考えているのよ?馬鹿じゃないの?こんな所で他国の姫に告白?振られるとは思わない訳?
「お言葉は大変嬉しく思います。しかし私も1国の姫。簡単にはお返事は出来ません。持ち帰らせて頂きお父様に相談させて頂きます。」
どうやって断るかを。
「……そうですよね。ユイナ姫も身分のあるお方。簡単には返事は出来ませんよね。……いろよい返事をお待ちしております。」
そう言うとカスウェルはユイナの手の甲へキスをした。
「さあ!皆さん!今宵は私の誕生日に伴侶となるべく人が見つかった善き日だ!今日という日を精一杯楽しもうではないか!」
カスウェルは片手でユイナの肩を抱き寄せもう片手を広げそう宣言した。
はあ!?伴侶となるべくぅ?何を聞いてたんだお前は!
誰がお前なんかと一緒になるもんですか!
部屋に戻るとユイナはグッタリとベッドに倒れこんだ。
「お疲れ様でございました。」
「ほんとっーに疲れた。何よあの馬鹿は?あり得ないわよ。」
「そうでございますね。」
「途中何度殺してやろうかと思ったか。」
「よく我慢なさいました。」
「……ファナ。手の平から血が出てるわよ。」
「申し訳ありません。私もあまりの事態に力が入り傷が入ってしまいました。」
ファナは会場内でユイナ付きのメイドとして振る舞っていたのだ。
当然カスウェルとの出来事も見ていたので、その行いに殺意を抑える為に拳を強く握っていた結果だ。
「ふふっ、仕方ないわね。手を見せて。」
「はい。」
ファナがユイナに手を差し出すと
「癒し《ヒール》」
ファナの手の平についた爪の傷が瞬く間に消えていく。
「ありがとうございます。」
「これくらい構わないわよ。それに私の事でファナがそれだけ怒ってくれていた事が嬉しいし。」
「ユイナ様……。」
ドンドンドンッ
突然扉が荒々しくノックされた。
「ユイナ様?」
「嫌な予感がするけど出ない訳にはいかないわよね……。」
「そうですよね……」
ファナは扉へと向かい
「はい、どちら様でしょうか?」
扉を開けずに応対した。
「カスウェルだ。開けたまえ。」
ファナはユイナに目配せをすると。
「開けて差し上げて。」
嫌な予感は当たるものね。
ファナが扉を開くとカスウェルがズカズカと入って来た。
「どうかされましたか?カスウェル様。」
酒の臭いを漂わせながら入って来たカスウェルに対しユイナは嫌悪感を表に出さずに応対した。
カスウェルはファナの方を見ると
「ユイナと2人きりになりたい。出ていってくれ。」
ファナが殺気だつが酔っているカスウェルは気付かない。
「申し訳ありませんがメイドを下げる訳にはいきません。このような時間に男性と2人きりになる訳にはまいりませんもの。」
「ふん。なら2人まとめて可愛がってやろう。」
「え?」
「どうせお前達ユータランティア国はお前を差し出すに決まっているんだ。所詮は人口5万にも満たない小国。それを第2王子とは言え我が国の王族が正妃に迎えるのだ。これ程名誉な事はあるまい?」
「はあ!?」
「父上は情けで同盟国としているが、所詮は属国に過ぎないのだ。それを自覚しろよ。そうだ、あの場でも泣いて喜べば良かったものを!」
駄目だ。怒りを通り越して呆れてしまう。
「後になろうが今だろうが大差は無い。今晩は精々可愛がってやるからな。」
「お言葉ですが、私は貴方の物にはなりません。」
「本気で言ってるのか?馬鹿なのか?」
「私の好みは我が父のように強い人です。」
「そうか、だがいずれは俺が最強だ。俺は今はまだ勉強中だが軍のトップに立つ男だ。我が軍の力を知らぬ訳はないだろう?」
「確かにこの国の軍は強い。しかしそれはあなた個人の力ではない。国の力です。」
「はん!生意気ばかり言うな。ならば我が軍でお前の国を蹂躙してやる。」
「酔っているとは言え何て事を仰るのか……。」
「だが、ここでお前が裸になり許しを乞うのなら許してやらない事モッ!」
カスウェルは後頭部にファナからの打撃を受けそのまま倒れた。
「ファナ……。」
「ユイナ様。お許し下さい。この男の限度を超えた物言いに我慢出来ませんでした。……王族に手をあげたのです。私はこのままこの国で処刑されます。」
「駄目よファナ!こんな男の為にあなたが死んでは駄目。……幸いかなり酔っていたのだからこのまま外に放り出して転んで頭を打った事にしましょう。」
「いや、しかし!」
「それらしい状況さえ用意すればきっとそうなる筈よ。」
「誰かに見られたらお仕舞いです。そんなリスクをユイナ様が背負う必要はありません。」
「大丈夫。きっと上手くいく。」
「ユイナ様……」
ーーーーーーーーーー
隠蔽工作は上手くいった。
中庭の花壇の縁に頭を乗せ、周りに酒瓶を散りばめておいた。
「後はどの程度記憶があるか。まあ覚えていてもお酒のせいに出来るし問題はないでしょう。」
「そうでしょうか……」
「そうよ。それにファナがやってくれてだいぶスッキリしたわ。あのままだったらわたしが爆裂魔法を使っていたもの。」
「それは誤魔化しようがありませんね。」
「でしょう?だからファナがやってくれて助かったわ。」
「でももし!もしもの時はどうか私を切り捨てて下さい。私の願いはユイナ様の幸せです。ユイナ様が幸せになる事こそが私の全てです。」
「それなら良い案があるわ。」
「良い案?」
「私の幸せを願うのなら、イクトを連れて逃げましょう。そうすれば全ての問題点は解決よ。」
「それでほ駄目です!何の為に今まで努力なさったのですか?」
「イクトと結ばれる為よ。私はファナを見捨てるくらいなら国を捨てるわ。私が居ないとなればカスウェルも無茶はできないでしょう。」
「しかし国王や王妃は?ユイナ様のご家族を放っては行けないでしょう。」
「大丈夫よ。私が居なくなるくらい問題ないわ。お父様なら分かってくれるわ。お母様はどうか分からないけど。」
「それよりも戻ってからが大変よ?どうやって断るかを考えないといけないもの。」
「断れば戦争になるのでは?」
「大丈夫。あいつはまだ実権を握ってない。だっていずれはトップに立つと言っていたもの。いずれなんだからまだそうはなっていないって事だもの。」
「それはそうでしょうが……」
「もし戦争になったら私がそれまでに極大魔法を覚えてそれで国ごと滅ぼしてあげるわ。」
「ユイナ様……」
ーーーーーーーーーー
「それでは国王様。失礼いたします。」
「うむ、また何時でもいらしてくれ。今度は是非とも吉報を持ってな。」
「うふふ、ありがとうございます。」
「それにしてもカスウェルの奴め。ユイナ姫の出立というのに来れずとは申し訳ない。」
「いえ、問題ありません。噂は聞きましたので。」
「すまないな。どうにも昨日ははしゃぎ過ぎていたようで中庭で大量の酒瓶と共に倒れているのが発見された。飲んで倒れて頭をぶつけたようでな。大事をとって休ませておる。」
「仕方ありません。何せ昨日のパーティーの主役ですもの。」
とりあえずは上手くいってるわね。このままカスウェルが妙な真似をしなければ問題ないのだけど。
「そう言って貰えるとありがたい。」
「それでは失礼いたします。」
「うむ。」
ユイナは頭を深々と下げ謁見の間を後にした。
「はあ、やっと開放された。」
「怒濤の1日でしたね。」
「そうね。問題は山積みだけどさっさと帰りましょう。解決するにも戻ってからでないと進められないわ。」
「そうですね。」
「それとやっとイクトの姿を見る事が出来るわ。」
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