第25話

 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「やっと到着したわね。」

 「そうですね。」

 「さあ、さっさと終わらせて帰りましょう。予定は?」

 「今晩に第2王子であらせるカスウェル様の誕生日のパーティーが開かれます。それまでに国王への謁見ですね。」

 「謁見はいいけど、パーティーは長そうね。」

 「そうですね。」

 「はあ、今頃イクトは何をしているかな……?」

 「イクト様の事です。ドラゴンの爪痕は見に行かれるでしょうね。」

 「そうね。イクトはそういうの好きだものね。」


 あれ?


 「冒険者はラピスだけ。そして冒険者は城に入れない。となれば今イクトはヤオと2人きり!?」


 ドラゴンの爪痕がある場所は近くに恋人の丘と呼ばれる高台があるはず……。


 「ねえ、ファナ。」

 「はい?」

 「イクトは今ヤオと一緒よね?」

 「そうですね。」

 「ドラゴンの爪痕を見に行けば近くの高台にも行くと思わない?」

 「近くの高台?」

 「そう。恋人の丘へ。ヤオと2人で……」

 「それは……。」


 イクトは国から出るのは初めてでこの国の名所などは知らない。しかしヤオは違う。他の国から流れて来た住人だ。もしその存在を知っているとすれば


 「行くわね。確実に。何だかんだ言ってもヤオがイクトに好意を持っているのは間違いないもの。」

 「確かに好意を持っているでしょうが、そんなあからさまな所へ行くでしょうか?自分の好意をイクト様に明らかにするつもりは無さそうですが?」

 「そうね。けどね……ちょっとしたきっかけで一気に行くわよ。……きぃぃぃ!そうはさせないわよ!ファナ!行くわよ!」

 「何処にですか!?」

 「もちろんイクトの元へよ!」

 「駄目です!行ける訳がないでしょう!ユイナ様はこれから国王に謁見ですよ?」

 「構わないわ。イクトに比べたら他国の国王なんて些事よ。」

 「駄目です!それにイクト様を前に何て言うつもりですか?」

 「え?……会いに来ちゃった♡」


 そう言いながらユイナは両手を顔の前で揺すりブリッコしてみせる。


 「そんな可愛くしても駄目です!今イクト様に会えば姫イコールユイナ様と気付きますよ?」

 「うっ!それはマズイ……。」

 「ユイナ様は今はイクト様を信じて手早くこの国での用事を終わらせる事です。」

 「……はい。」

 「それでは謁見の前にお着替えを済ませ用意を済ませましょう。」




 ーーー謁見の間ーーー

 「本日はお招き頂きありがとうございます。」


 ユイナは王座に座る国王を前に頭を下げ口上を述べる。

 国王の右横には第1王子が並び立ち、その反対側に第2王子のカスウェルが並び立っていた。


 「堅苦しいのは無しで良い。今日はカスウェルのパーティーに出席の為に来てくれて嬉しく思う。」


 「勿体なきお言葉です。」


 「これが第1王子のマキシム。」


 右の王子が礼をした。

 金色の髪を長くし、いかにも優男な感じがした。


 「こっちが今日の主役の第2王子のカスウェルじゃ。」


 左の王子が礼をした。

 こちらは金色の髪を短く揃え、強くはなさそうだが、どこか軍人っぽい雰囲気がある。


 「いやしかしあのユイナ嬢がな。美しくなった。前に観た時はまだ5歳の頃だったか。あの小さく活発な女子がこんな大きくなるとはの。」


 「申し訳ありません。私の記憶にはございませんで。」


 「はっはっは。無理もない。あの時の君は剣を教えて欲しいと言っておっての。当時の騎士団長にせがんでおった。」 


 「まあ、そうでしたの!?それはなんとはしたないところを。」


 その頃ならイクトと出会った頃ね。きっと。


 「はっはっはっは、幼き頃には強さに憧れる事もあろう。ましてやユータランティア王の娘なら尚更であろうな。」


 「はい……父は私の憧れです。」


 「そうか、そうか。娘にそう思って貰えるとはそれはユータランティア王が羨ましい。ところで明日には帰ると聞いたが?」


 「はい。申し訳ありませんが、国内で成すべき事が御座いまして。」


 「その歳で内政にも関与していると聞く。短い時間ではあるがこの国ではゆるりと過ごされるがよかろう。」


 「ありがとうございます。」


 「なに、もし時間が許すのであれば滞在期間を伸ばしても構わぬ。」


 「勿体なきお言葉です。」


 「パーティー開始まではまだ時間もある。それまではゆっくり休むが良い。」


 「ありがたき幸せです。」


 ユイナは頭を垂れ、謁見の間を後にした。その姿をカスウェルが熱い眼差しで見ていたのだった。



 ーーーーーーーーー

 「はあ、疲れた。」


 「お疲れ様でございます。」


 ユイナは形式ばったドレスを脱ぎ捨てるとファナがそれをキチンと片付ける。


 「それにしても何だったのかしら?」


 「どうかされました?」


 「いやちょっとカスウェル様の視線が気になって。」


 「視線ですか?」


 「何か妙に熱をこもった視線を向けてきていたのよ。」


 「それってもしかして!」


 「何を馬鹿な事を言っているのよ?今日初めて会ったのよ。一目惚れとでも言うの?」


 「その可能性は有りますよ。」


 「嫌よ。私にはイクトがいるのだから他の男に惚れられても迷惑でしかないわ。」


 「それはその通りですけどね。でもそれってそれだけユイナ様が魅力的って事じゃないですか。」


 「……ファナ。あなたは何か勘違いしているようね。」


 「はい?」


 「イクトが私にメロメロになって欲しいだけで他の男なんて邪魔でしかないの!イクトさえいてくれればそれで良いのよ。」


 「はあ……」


 「あなたも本当に好きな人が出来れば分かるわ。」


 私には一生分かる気はしませんね。

何せ私はユイナ様が1番ですから。しかもその1番をイクト様と結婚させたいと思っています。


 「そういう人が出来たら教えてね。ファナにはいつもお世話になっているから精いっぱい応援するから。」


 「……はい。」


 私が見たいのはユイナ様とイクト様の幸せな姿なのですよ。

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