第20話 殴り込み
「どういう事なの!」
イクトの祝いを終え城に戻り自分の部屋でユイナは荒れていた。
「何でイクトがEランクなの!実績では十分にDランクに足りているはずよ!」
「おそらく冒険者のしがらみですね。」
ベッドの枕を叩きつけるように投げるユイナを少し離れた所で眺めていたファナがそう言った。
「どういう事?」
「新人がいきなり2ランクアップすれば注目を浴びます。そうなればそれを良しとしない輩が現れる可能性が高い。それを避ける為の措置でしょう。」
「そんなのイクトには関係ないわ。そんなのが現れると分かっているのならそれを抑制するのがギルドの仕事よ。」
「それはその通りなのですが、現実的には難しいかと。」
「とにかくこのままでは気がおさまらないわ!明日ギルドへ苦情を入れに行きます。」
「流石にそれは……。」
「駄目よ。これは決定。」
「せめて先触れを出します。」
「いいえ、直接!私が!話をします!」
ユイナのその発言にファナは顔を青くする。
こうなったユイナ様は意地でも実行する。これは……私では止められない。
◇◇◇ティーダside◇◇◇
「ティーダ。すいません。」
「あれ?ファナさん。どうしましたか?」
「申し訳ありませんが、ギルマスへ面会の段取りをすぐにつけて下さい。」
「!……もしかして」
「はい。そのもしかして……です。」
「いつ来るのですか?」
「すぐにでも。」
「すぐに段取りします!」
そう言うとティーダは通路の奥へと急いだ。
奥の部屋。ギルドマスターの部屋だ。そこの扉を乱暴にノックし返事も待たずにティーダは扉を開くと
「ギルマス!」
「何だ何だ?ティー。そんなに慌てて何があった?」
「実は」
するとそこへローブを来た者が乱暴に部屋へ押し入った。
「何者だ!ここを何処だと思ってやがる!」
叫びつつギルマスは背後に飾ってある剣に手を伸ばし素早く抜刀した。
それは巨大な大剣。決して低くないギルマスの身長よりも長い刃の剣をギルマスは片手で軽々と構えた。
「
「がっ!?」
ギルマスが剣を落とす。
「無詠唱だと……」
痺れる体を気合いで動かしながらも現れた人物にどう対処するかを考える。
「控えなさい。」
「その声は……」
ローブ姿が顔を顕にした。
その姿を見たティーダが畏まり
「ユイナ様。どうして……」
「ギルドマスター。あなたにどうしても聞きたい事があります。」
緊張の面持ちで身構えるギルマス。
「何故イクトをDランクにしなかった?」
「へ?」
あまりにも予想だにしていなかった言葉に麻痺に対抗していた体の力が抜け動けなくなる。
その様子を見てとったティーダが
あちゃー。やっぱり来たよ。それも予想以上に過激に。ってかユイナ様。恐いです。
「ユイナ様。ユイナ様。あのままでは話も出来ません。」
「ん?ああ、そうね。……キュア。」
柔らかな光がギルマスを包み体から痺れが消えていく。
自由に動く体を確かめるように動かし、それからギルマスはドカッと座りこんだ。
「いきなり現れた上に魔法まで行使するとはな。」
「あなたが剣を構えなければ魔法は使ってないわ。」
「まあいい。それでイクトのランクだったな。」
「ええ、そうよ。貢献度は十分にDランクに足りているはずよね?」
「ああ、そうだな。しかし何故ユイナ様がいち冒険者にそこまで拘る?」
「あなたには関係のない話よ。」
それを聞いたティーダは
確かにイクト君をユイナ様が好きだとかなんてギルマスには関係ないわね。
「何故Eランクとしたの?」
「それは本人の為だ。目立てば良からぬ事を考える奴が必ず出てくる。」
「そうね。けど、それを抑制するのとギルドの仕事じゃないの?」
「確かにそうだ。だが、いくら注意をしたところで完全には防げない。」
「職務怠慢では?」
「そう言われても仕方ないが無理なものは無理だ。それにFをいきなりDにするなんて前例がない。」
「前例?そんなものが必要かしら?前例がないから出来ないなんて冒険者ギルドは無能の集団のようね。」
「ぐっ、いやしかし前例がないとは言ったが対応案は考えてある。」
「対応案?」
「そうだ。通常は半年以上かかるDランクへの昇格を3ヶ月で行う。」
「貢献度は足りているのに?」
「ああ、そうだ。少し遅くなるがそれが冒険者を、イクトを守る事になると思っている。それに俺個人としてもイクトならすでにCランク以上の実力だと判断している。これくらい遅くなってもあっという間にランクを上げるだろうさ。」
「……」
ギルマス分かってるじゃないの。イクトの実力をそう評価しているなんて、見所あるわね。
「よろしい。そういう事ならば今回の件は不問とします。」
「それにしてもユイナ様がそんな1冒険者をそんなに気にかけているとはな。」
「彼は登録時に有望とされた人物です。王家としても有望な冒険者を気にかけているだけですわ。」
「そうだ!それならばいっそ指名依頼を出してみては?」
「指名依頼……」
「さあ、イクト。お願いしますね。」
そう言うとユイナはイクトに背を向け着ていたドレスをはだけうつ伏せにベッドへ横になる。
そのユイナに覆い被さるイクト。
「あ、そこよ。そこ。あぁ気持ちいい。」
イクトの手が指がユイナの体をまさぐると、それに反応して声が出そうになる。
次第に荒くなる呼吸に汗ばむ体。
「あ、あっ、あん」
抑えきれずに声が出てしまう。
そんな声を出してしまう自分に恥ずかしさが混じり顔を伏せる。
「ユイナ。気持ちいい?もっと気持ちよくさせてあげる。」
耳元で囁くようにイクトが呟く。
その声に耳まで赤くなるのを感じた。
「あっ!そこはっ!」
「ユイナ……可愛いよ。」
イクトの指先が背中に沿って触れるか触れないかの距離でなぞっていく。
「ここだね。ここが気持ちいいみたいだね?」
イクトの指先が軽く私の中を探るように動く。
「あっ!イクト!そこっ!そこよ!」
イクトは言われるがままに肩甲骨の辺りを強く押した。
「あっ!」
あまりの気持ちよさに体がのけ反った。
「凄く凝ってるね。ユイナ。」
「ユイナ様?ユイナ様?」
「え?」
「どうした?心あらずな様子だったけど。」
「ああ、ごめんなさい。何でもないわ。それで何でしたっけ?」
「イクトがもう少し実績を積んだ頃に指名で護衛依頼など出しては?」
「あ、そうね。護衛ね、護衛。そうよね。指名依頼といえば護衛よね。」
「ただ、王家からの依頼を新人に出すと問題になる。だからこれをするにはイクトにもう少し実績がないと駄目だろうがな。」
「そうね。けど、検討の価値はあるわ。」
「王家の護衛を勤めれば実績としても周りに周知するとしても効果は絶大だ。」
「そうすればランクアップも早めらる……。」
ユイナ様は何でイクトのランクアップに拘る?何か秘密があるのか?分からん。
「それで用件はそれだけ?」
「そうよ。」
「なら今度からはこんな襲撃みたいな真似はよしてくれないか?こっちの身がもたない。」
「それは保証できないわ。」
「ユイナ様が拘るのはイクトだけだよな?それならば何かがあった場合は事前にティーダを通して報告する。」
「え!?」
「何だティーダ。不服か?」
「いえ、いきなりこっちにふられたのでビックリしただけです。」
でもこれでユイナ様への報告をギルドの仕事としてする事が出来るようになるのはありがたいわね。
「そうか?ならいいがな。で、どうかな?」
「それならば今日みたいな事になる可能性は減るわね。」
「無くなりはしないか?」
「それはそちら次第でしょう?」
「確かにそうか。なら気をつけるとしよう。」
「そうして下さいな。それではくれぐれもよろしく。」
そう言うとユイナはローブを被り部屋から出て行った。
「ふう、やれやれ。まさかこんな事になるとはな。」
「お疲れ様でした。」
「なあ、ティーよ。頼みがある。」
「頼みですか?」
「お前に出来る範囲でいい。イクトに探りをいれてくれ。」
「え?何故?」
「お前は疑問に思わなかったのか?ユイナ様のイクトに対しての行動はおかしい。絶対に何かある筈だ。」
「ああ……確かに……そうですね。」
そう思いますよね。知らなければそう思ってしまいますよね。けれど言えない。これは言えません。
その理由がユイナ様のイクトへの好意から来ているなんて。単なるLOVEです。
愛するが故の行動です。言ってしまえればどれだけ楽か。
「それとなく聞いたりしてみますけど、何も分からなくても知りませんよ?」
「ああ、構わない。もしかすればイクトは知らない何かかもしれないしな。」
知ってます。お互いに知ってる筈です。立場が邪魔をしているだけなんです。
しかし結局私は板挟みですか。そうなんですね。そういう運命なんですね。
ファナさんに報酬の上乗せを交渉してみましょう。
心に誓ったティーダだった。
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