第21話 護衛依頼

 「ファナ。イクトへ護衛依頼を出すわよ。」

 「護衛依頼?イクト様へ?」

 「そうよ。」

 「それは……不可能では?イクト様はまだEランクになったばかり。王家から依頼を出すにはランクが低すぎます。」

 「それは分かっている……そうだ!ならそれを逆手に取ればいいのよ。」

 「と言いますと?」

 「低ランクの新人に護衛任務の経験をさせるって名目よ。これならイクトに指名依頼をだしても不自然にならないわ。」

 「確かにそれならば可能かと……」

 「そうと決まれば依頼を出しましょう。」

 「しかしユイナ様。それの護衛対象は?」

 「もちろん私よ。」

 「……姫だとイクト様に教えるのでしょうか?」

 「そうだった……。すっかりイクトとの旅路しか考えてなかったわ。」

 「そんな気がしてました。」

 「けど、イクトのランクアップの為には是非とも護衛依頼はしたいわね。」

 「それでしたら依頼は出してユイナ様は姿を見せない。これしかありませんね。」

 「……そうね。それしかないわね。」

 「会う事は出来ませんけど、旅路のイクト様を隠れて見る事はできますよ。」

 「え?……それはそれでありね……」


 馬車の中の私を守る溜めに戦うイクトや、野営の最中の寝姿。もしかすれば水浴びの姿も見れるかも!


 「……ユイナ様?」

 「…何だっけ?」

 「護衛中のイクト様は見れますでしょうが、流石に寝てる姿や水浴びは無理ですよ。」

 「え?もしかして声に出てた?」

 「いいえ、そうだろうと思っただけです。」

 「心を読まないでよ。」

 「失礼しました。後はどのタイミングでするかですね。」

 「ちょうど隣国の第2王子の誕生日パーティーに呼ばれているわ。欠席するつもりだったけどお父様にも出席するように強く言われた所だしその道中の護衛として依頼を出しましょう。」

 「隣国の王子……カスウェル王子ですね。ならそのように手配致します。」

 「ええ、よろしく。」


ーーーーーーーーーーーー


 「イクト君。ちょっといい?」

 「はい?何でしょう?ティーさん。」


 イクトがギルドの掲示板で依頼を見ているとティーダに声をかけられた。


 「ティーから声をかけるなんて珍しいアルな。」

 「そうね。ちょっとイクト君達"ラピス"に指名があるのよ。」

 「へ!?まだ作ったばかりのパーティーネ。指名がくるなんて怪し過ぎアル。」

 「ま、されも含めて話をしましょう。」


 こうしてティーダに促されギルドの会議室へと案内された。


 「それでその胡散臭い指名依頼って何アルか?」

 「胡散臭くはないわよ。護衛依頼。それも王族の。」

 「「はあ!?」」

 「これはこの国の第3王女であるユイナ ユータランティア様からの依頼でね、新人冒険者の経験の為にって事なの。」

 「経験の為って。それで新人に依頼するなんておかしいアル。新人なんて身元を怪しまれてもおかしくない。暗殺の可能性を考えれば王族が新人に依頼なんてあり得ないヨ。」


 ヤオの言う事はもっともだ。なので


 「そうね。だからこそあなた達なのよ。」

 「どういう事ですか?」

 「指名依頼としているけど実はギルドの推薦なの。」

 「推薦?」

 「そう。ギルドがこの者達なら安全ですと保証しているの。」


 なんてね。そんな事なんて関係なしに単にユイナ様のご指名でーす。


 「それは……責任重大ですね。」

 「そうよ。これは私、ティーダがこの件を聞いた時にズズイっと推したんだから。」


 本当はファナさんから聞いてギルマスと相談の上でこういうテイにしただけなんだけどね。


 「ありがとうございます。」


 そう答えるとイクトはヤオの方に


 「ヤオさん。この依頼を受けても良いですか?」

 「正直に言うとどこか胡散臭いものを感じるアルがティーがこういうのなら受けても良いネ。」

 「ティーさん!ティーさんの期待を裏切らないように頑張ります!」

 「それじゃラピスは依頼を受理する方向で良いわね。」

 「はい!」

 「けど駄目よ?まだ依頼の内容は確認してないでしょ?」

 「あ、そうでしたね。」

 「まあざっと説明するとこれはユイナ王女からの依頼です。」


 ユイナ……一緒の名前だな。


 「隣国のパーティーに参加するユイナ王女の護衛をします。これには当然だけど騎士団が同行するので、イクト君達はこの騎士団から指示があるのでそれに従ってもらいます。」

 「騎士団の指示アルか。それがろくでもない指示の場合はどうするアル?」

 「それはないでしょう。」

 「分からないアルよ?騎士団の中には冒険者を嫌う連中もいるアル。」

 「この国ではそれはあり得ないわ。」


 それにイクト君に対して無礼な行いをすればユイナ様が絶対に黙ってない。


 「そうアルか?けど何かあった場合は」

 「ユイナ様の連れた騎士団よ?ユイナ様の顔に泥を塗るような真似はしないわ。もしヤオが手を出したとしてもギルドとして必ずあなた達の味方をするわと誓うわ。」

 「本当ネ?」

 「ヤオに非がない場合に限るけどね。」

 「それで十分アル。」

 「隣国まで約1週間。向こうで1泊し、帰りも護衛をする。なのでだいたい15日間の行程よ。」

 「けっこう長いんですね。」

 「まあね。隣国まで行って戻って来るのだからね。これでも短い方よ?」

 「そうですよね……」


 その間ユイナに会う事が出来ないんだな。そんなに長く会えないなんて初めてだ。


 「この国を離れるのが不安?」

 「あ、いえ。……そうですね。ここは僕が育った国で大切な人達の居る国です。そこを少しの期間とは言え……」

 「そうね。けど、この国だけに囚われずに活動してみるのも大事よ。そこにしかない物や景色もいっばい在るわ。それはここを離れなければ見れない物よ。」

 「そう、ですよね。」


 それに冒険者として大成するにはこういった経験は大事だろう。それが王族の依頼なんて普通は経験できないような事だ。

 ユイナにはキチンと話をしよう。


 「受けます!良いですよね?ヤオさん。」

 「もちろんアル。」

 「でしたら細かい事はこちらを読んで下さい。」


 そう言うとティーダは書類を渡す。羊皮紙ではなく紙だ。これだけでも今回の依頼の価値が高いと判る。


 「それを読んで分からない事や疑問に思った事は何でも私に聞いて下さいね。この件は出立まではギルド内でも秘匿されています。知っている者は極一部なので。」

 「そうなんですね。分かりました。」

 「なので、イクト君にヤオも無闇にこの件を誰かに話さないようにね。」

 「分かったネ。」

 「分かりました。……ティーさんこれを誰かに話したら罰則とかあるのですか?」

 「ん?罰則はないけど……ああ!ユイナさん?ユイナさんに言っておきたいのね?」

 「はい。駄目でしょうか?」

 「ユイナさんになら構わないわよ。私も知っている人だし、誰かに公言するような人じゃないのも知っているわ。」


 というか本人だしね。


 「ありがとうございます。」


 暫く会えなくなる事をユイナはどう思うだろうか?けれどしっかり話をしないと。



ーーーーーーーーーーーー

 「ユイナ……」

 「どうしたの?イクト。」

 「少し話があるんだ……」

 「何?何か言いにくい事?」

 「今度、護衛の依頼を受ける事になって暫くここを離れるんだ。」

 「あら?そうなの?」

 「うん……。ユイナは寂しくない?僕はユイナに会えないなんて寂しいよ。」


 あらー♡イクトったらなんて嬉しい事を。


 「私ももちろん寂しいわ。けれど冒険者として必要な事でしょう?」

 「そうなんだ。それにこの依頼はまだ秘密なんだけど王族からの依頼でね。これを受ける事でギルドからの信頼としても大きいんだ。」

 「凄いじゃない!それなら尚更その依頼を受けるべきよ。私は大丈夫。イクトを信じて待っている。」

 「ユイナ……」


 イクトはユイナの言葉に感極まりその身を抱きしめた。


 「あ、イクト……」


 ユイナはそれを受け入れイクトを優しく抱きしめ返す。

 2人は暫くそのままでいた。

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