ユニコーン・コロニーへ


                  *


 気が付けば、ララは帝国にはもういなかった。天界のような真っ白な空間にもいなかった。そこは、山奥の、見知らぬ土地だった。雪がしんしんと静かに降り積もっている。

「新しいお仲間かい」と、一人の男性・・・15歳ぐらいに見える・・・が、ララを見おろして言った。

「あなた・・・誰??」と、ララが言う。

「目が空色をしている。ユニコーンの証だ・・・。こんな寒い中そんな恰好で放り出されたわけ、ね・・・ほら、靴下、貸してあげるよ」と、その男性が言った。

「僕?僕はシェオール。待ってて、今すぐ仲間を呼ぶから」と、シェオールが言って、ぴゅーーっと口笛を吹いた。

 18歳で、157cmあったクラリスは、今や13歳の少女のような体になっていた。自分で、自分の体を眺める。真っ白な服を着ているのは、相変わらずだ。寒さで、思わずぶるっとなる。

「・・ったく、しょうがないな、これを着な」と、シェオールが、外套を貸してくれた。「ありがとう、」と言って、クラリスはコートを羽織った。

 以前は、クラリスは青色の瞳をしていた。それが今、なんと「空色」の瞳をしているらしい。ララは驚きが隠せなかった。

「君、立てる?」と、シェオール。

「え、ええ・・・」ララは、困惑を隠せない。

 しばらくして、蹄の駆ける音が、樹々の向こうからしてきた。よく見てみると、白い雪に紛れて、真っ白な気高いユニコーンが一頭、やってきた。

「クリスティーナだ。君を家まで運んでくれる」と、シェオールが言った。

 クリスティーナが近くまで駆け寄ってきて、その空色の目でじっとララを見つめた。ララはその目から目をそらせない。

「さ、彼女に乗って」と、シェオールがララの背中に手をやる。ララは、シェオールの外套をきたままだ。

 ユニコーンは意外と大きかった。(?)ララはその温かい背中に乗ると、必死にその肩や首の部分に抱き着いた。

「クリスティーナ、後は頼むよ!この子、新しい僕らの仲間みたい。そもそも、僕らの住むここらには、結界が張ってあるしね!はいれてるってことは、そうだろ?俺は荷物持って、後からいくから」と、シェオール。

 返事の代わりにいななきをあげ、クリスティーナはララを乗せたまま、シェオールの指示通り、「家」へと向かった。

 ララは、振り落とされないように必死にしがみついていた。

 それをじっと立ったまま見送り、シェオールはふうと言って薪ひろいを続けていた。

 数分で、ララはそっと目をあけた。クリスティーナが走るのをやめ、ひひーんと鳴いて、立ち止まったからだ。

 その次の瞬間、すっとクリスティーナの姿が消え、ララは雪の地面にがしゃんとしりもちをつく。

「わっ・・・」と、ララ。

 見上げると、クリスティーナ・・・ララとそう変わらない背丈で年頃・・・の綺麗な女の子が立っていた。

「あなた、大丈夫??」と、クリスティーナが手を差し伸べる。

「わ、わたし・・・?私は、クラリス・アレクサンドリア。ありがとう、クリスティーナさん・・・」と、ララが差し伸べられた手を握り返す。

「ユニコーンに苗字はいらないんだけどね」と言って、クリスティーナが苦笑した。

「そうなんですか・・?」

「ええ、人間出身は、みんなワケアリだしね」と、クリスティーナがまたしても苦笑して言う。

「ユニコーンって、半数は自殺した人間がなるものなのよ・・・あなたも知っているかもしれないけれど・・・」と、クリスティーナ。

「クラリス、ちゃんね、分かったわ、ありがとう。さ、私たちの家に入りましょう。そんな薄着では寒いでしょう」と言って、クリスティーナがクラリスの手を引いて、家の中へと招き入れた。

 赤レンガ造りの家だ。煙突からは煙が出ている。

「やあ、君が新しい仲間?」と、テーブルに座っていた少年が立ち上がった。

「僕は、このコロニーのリーダー・カーディフ。まあ、リーダーっていっても、年齢が一番上なだけで、みんな平等なんだけどね」と、カーディフ。青色の髪に、空色の瞳をしている。青色の髪は、帝国ではあまり見かけない色だ。

「君には、明日から・・・というか、心持ちが落ち着いたら、ユニコーンとしての仕事をしてもらう。ちなみに、僕は900年間ほどユニコーンの仕事をしている。あと70年ぐらいで、天国へ行ける」と、カーディフ。

「・・・」

「君は??罰として、何年課された??」と、カーディフ。

「私は・・・100年間です」と、クラリスが俯きがちに言う。

「そうか。分かった。君もつらい過去があるんだろう。今日は、もうゆっくりするといい」と、カーディフ。

 クラリスには、それが死刑宣告のように心の中に響いた。


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