ユニコーンへの転生


五、ユニコーンへの転生


「拝啓 愛しいフラウへ

 フラウ、どうして私に手紙一つ、くれなかったの。

 私のこと、愛してなかったの。

 私、あなたが帰ってくることを信じ、待っていたのに・・・。

 どうして私を裏切ったの。

 私一人で、この子を育てろというの。

 私にはできない。あなたの面影を宿すこの子とともに、死ぬまで、あなたと会える日まで、待ち続けるなんて、私にはできない。私はそんなに強くない。

 フラウ、許して下さい。

 私も、あなたの後を追います。

 天国で、あなたに会えますように・・・。

                                          クラリスより」



 気づくと、クラリスは、白い衣服を着させられ、白い床に倒れていた。

 お腹はふくらんでいない。

「目覚めなさい、クラリス・アレクサンドリア。元クラリス・ロナセン・マクリーン」という声がした。

 その声に、朦朧とした意識から目が覚め、クラリスはゆっくりと身を起こした。

 見上げると、声の主がいた。

 同じく、白衣の長身のドレスを身にまとった、少し厳しい顔をした女性がいた。髪が長く、金髪だ。

「クラリス・アレクサンドリア。あなたは、夫を失った悲しみから、生まれてくるべき一つの命を殺しましたね」と、その声の主が言った。

 あまりの言葉に、ララは言葉がでない。

「私は、この世界アラシュアで、夫婦の絆を管轄する神々の一人、ラーホルアクティ神です。あなたの境遇には同情すべき点もありますが、この世界の法にのっとり、あなたには、特別な理由もあるので、ユニコーンとして転生し、しばらくの間、人間を助け、見守る責務、仕事を授けます。それが終わり次第、天国へ行け、夫である、テイト・フラウ・アレクサンドリアに会えます」と、女神が淡々という。

「そ、そんな・・・!そのお仕事って、一体どれくらい・・・?」と、ララが言葉を詰まらせて言った。この女神が恐ろしかった。

「あなたの犯した罪により、約100年間、責務についてもらいます。その後、きちんと罪をつぐなって真面目に働いていれば、テイト・フラウのもとへ、天国へあげてあげます」と、ラーホルアクティ神が言った。

「・・・100年間も!!」と、ララが悲鳴のような声をあげる。

「あなたはまだ軽い方です。重い罪を犯し、自殺した者の中には、500年や1000年間、ユニコーンとしての仕事につく人間もいます」と、ラーホルアクティ神。

「・・・」

「では、あなたを、ユニコーンに転生させましょう。安心なさい、痛くもないし、怖くもありません。仲間もいます。じき、その生活にも慣れるでしょう」と、ラーホルアクティ神が言った。

「その最期の手紙は、」と、女神が言った。

「天国にいるテイト・フラウに届けておきましょう。私が、じきじきに、ね。だから安心して、任務につくのです、クラリス・アレクサンドリア」と、ラーホルアクティが目をつむって言った。

「・・・・」ララは、昔受けた学校の授業を思い出した。ユニコーンという伝説の生き物は、リラの奥地に住み、なんでも、自殺した人間の魂が宿るユニコーンたちもいるという噂を、思い出していた。

「せめて、」と、クラリスが泣きたいのをぐっとこらえて言った。

「せめて、夫の最期の言葉を、教えていただけないでしょうか・・・!!フラウは、手紙一つくれず、戦死したんです!!」と、クラリスが悲痛な叫び声をあげる。

「それは、」と、ラーホルアクティ神が言った。

「いずれ、次期に・・・・あなたのもとへ、来るでしょう。時を待ちなさい」と言って、ラーホルアクティ神は、右手をララの額にかざし、「我、律法(トーラー)によるもの、ヴェ・ゲドゥラー、このものをユニコーンへと昇華させよ」と言った。

 とたん、強い光に包まれ、クラリスは手で目を覆い、意識を失った。

 遠いところ・・・光の向こうで、「ララ、ごめん・・・」というフラウの声を聞いた気がした。

 きっと、それがフラウの最期の言葉だったのだろう、とララは自然と悟った。


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