フラウのあがき
六、天国にて ~フラウのあがき~
「善なる魂よ、目覚めなさい」という声がして、フラウはゆっくりと目を開けた。
ここはどこだろう。フラウは一瞬、前世・・・下界での最期の瞬間に目を思わず閉じたことを思い出した。
トロールに・・・僕は、はりたおされて、剣で応戦しようとしたところ、敵の刺客から矢で射抜かれて死んだのだった、と思い出すのに、しばらく時間がかかった。
「私は女神ラーホルアクティ神。本来なら、貴方と会うのは、別の神々です。担当が違いますから。ただ、あなたに、私はことづてを頼まれました。貴方の亡き妻からのお手紙です」と、ラーホルアクティ神が告げた。
フラウは雷に打たれたような顔をした。
「ちょっと待って。“亡き”妻って、どういうこと??戦況はそこまで悪くなったの??ララまで、まさかシェムハザたちにやられたの・・・??」と、フラウが真っ青になって言った。
「・・・そうではなくてね。貴方の奥様は自殺なさったのです。自殺という、人間には許されざる罪を犯したのです。最期に、貴方への手紙を残してね。ガラスの破片で、心臓を突き刺したのです」と、ラーホルアクティ。
「・・・・」フラウは、あまりのことに言葉が出ない。四つん這いのまま、立ち上がろうともしない。
「そ、そんなの嘘だ・・・・うそだって、すぐに分かるんだぞ!!」と、フラウが言いながら、拳を握りしめ、ラーホルアクティを見あげる。だが、ラーホルアクティは冷たい目をして、フラウを見おろしているだけだ。なんとも冷たい雰囲気に、フラウは思わずぞっとする。
「これがその手紙です」と、ラーホルアクティがふところから一通の手紙を取りだし、フラウに投げてよこした。
フラウが、その手紙を受け取る。
「拝啓 愛しいフラウへ
フラウ、どうして私に手紙一つ、くれなかったの。
私のこと、愛してなかったの。
私、あなたが帰ってくることを信じ、待っていたのに・・・。
どうして私を裏切ったの。
私一人で、この子を育てろというの。
私にはできない。あなたの面影を宿すこの子とともに、死ぬまで、あなたと会える日まで、待ち続けるなんて、私にはできない。私はそんなに強くない。
フラウ、許して下さい。
私も、あなたの後を追います。
天国で、あなたに会えますように・・・。
クラリスより」
「なんてことだ・・・!!」と、フラウが手紙を読んだ後、涙を流し、「ララ・・・!!」と思わず叫んだ。
「その女性・・・貴方の妻・・・クラリス・アレクサンドリアは、罰として、100年間ユニコーンにする刑に処しておきました」と、ラーホルアクティ神。
「あなたと会えるのは、100年後になります。それまで、貴方は天界で待っていなさい」と、ラーホルアクティ神。
「ユニコーンだって・・・?僕の妻を返せ!!」と言って、ラーホルアクティ神に、立ちあがり、胸ぐらをつかみにかかった。
「おっと、神々に失礼をはたらくのですか??」と、ラーホルアクティ神。
「許さない・・・僕の妻に・・・・ララを、天国へ、ここへ、連れてこい!!」と、フラウがラーホルアクティ神につかみかかる。
「罪を犯した罪人は、その罪をつぐわないといけないのです、テイト・フラウ・アレクサンドリア。ここで私に無礼を働くのなら、クラリス・アレクサンドリアの刑罰期間を、300年間に伸ばしますよ」と言ったので、フラウはしょうがなく手を離した。
「フフフ・・・せいぜい自分の愚かさ、人間の愚かさを嘆きなさい、テイト・フラウ。ではね」と言って、ラーホルアクティ神は、ベールの奥へと消えていった。
フラウは、「ちくしょう!!」と叫びながら、涙を流し、手紙を握りしめた。ぐしゃっと、手紙がつぶれる。
「ララ・・・・!!僕の愛しいララ・・・!!どうして自殺なんて・・・・したんだ・・・・・いや、僕のせいか・・・」と言って、フラウは涙が止まらなかった。泣くしかなかった。
その時、背後で、歩く音がした。フラウが、はっと振り返る。
「・・誰??」と、フラウ。
「失礼、僕は、ジェハ神と言ってね。ちょっと、君たちの事情を知って、やってきた次第」と、ジェハ神と名乗る長身の神が自己紹介した。
「ジェハ神・・・!?!?誰です、あなた」と、フラウ。
「ん?僕??ちょっと、君とクラリスさんの仲に同情してね!君にちょっと協力してあげようと思ってね。どう??悪い話じゃないんだけど」と、ジェハ神。
「・・・なんでもいい、ララを救えるなら」と、フラウ。
「・・あのね、君、このままだと、他の戦死したお仲間さんたちと一緒に、天国のとある地区、国へ送られる。だけどね、そうすると、クラリスさんとは、100年間会えない。それでもいいかな??100年間というのは、そんなに長くない刑罰期間なんだが」と、ジェハ神。
「・・なら、せめて、ララの様子を見せてください。今すぐに。僕は、仲間たちと会わなくていいから」と、フラウ。
「うん、君ならそういうと思ってたよ!!なら、こっちへ来なさい」と、ジェハ神がフラウを手助けして、立たせる。
「僕の屋敷に招待してあげよう。天界にあるのだがね」と、ジェハ神が言った。
「ありがとうございます、ジェハ神」と、フラウ。
「・・・僕は、ただ、君たちのような数限りない犠牲者を見てきて、神々の一人としてうんざりしているだけ。ちょっとだけ、力になりたくてね」と、ジェハ神。
「・・・僕とララはどうなるんですか・・・??」と、フラウ。
「なに、悪いようにはしないさ」と言って、ジェハ神は暗い顔をした。
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