自殺


四、ガラスの破片で


 ララの妊娠しているお腹も少しめだってきたころ、ララはメルバーンの政府から、フラウ戦死の知らせを受け取った。戦時中、フラウからの戦地からの手紙は一切なかった。

 ララもまた、フラウの迷惑になってはいけないと、手紙は送らなかった。

 ララは、そのフラウ戦死の知らせを聞き、悲嘆にくれた。

 涙が止まらなかった。

 帝国にいる、フラウの別の親族と一緒に、少しの遺骨を受け取り、一緒に泣いた。

 ララの家族もまた、ララを心配して、家に来てくれた。

「お母さん・・・フラウが・・・フラウが・・・!!」と、クラリスが、自分の母に泣きつく。

「クラリス、あんまり落ち込んじゃ、いけないよ・・・。フラウさんは、それも分かってて行かれたんだから。今は、お腹の子供のことを考えないと・・・」と、母がアドバイスする。

「でも・・・!!でも・・・・!!」と、クラリスがあまりに泣くので、家族は心配した。

 数週間がたち、クラリスは、自分からフラウへ手紙を書いてみることで、傷心の心をいやそうと考えた。

 この世界アラシュアの伝説・・・というより、言い伝えでは、善い行いをした魂は、天国で再び、近しい者と会える、という。ということは、またフラウと会える希望は、ある。

 魔法と科学の混在する、この世界アラシュアで、(と言っても、科学は主にリマノーラだったが)、ララはその考え方を若干信じていたが、学校でも教えていたので、疑うわけにもいかなかった。

(フラウは、どうして、戦地から私に、手紙をくれなかったのだろう・・・)と、クラリスは毎日のように思った。

 そっと、ふくらんできたお腹に手をやる。

 この子は男の子かしら、それとも女の子かしら、とララは思った。

「男の子ならベルンハルト、女の子ならアメーリアと名付けよう、ララ」と、生前フラウが言っていたのを思い出した。

(私、もう耐えられない)

 寒い冬の日、両親の家で保護してもらい、暮らしていたララは、思わず、そっと生家を抜け出し、今も空き家となっている、フラウと暮らしていた家に行った。そこで、こっそり隠し持っていた鍵で、そっと家の中に入った。

「ごめん、フラウ・・・」と、ララは一人呟いた。

「私、あなたがいないこの世界が絶えられないの」と言って、ララは、近くにあった、自分がアレンジして置いていた花瓶をとり、持ち上げ、ガシャンと、窓ガラスを割った。

 ガラスの破片が、床に飛び散る。

(何度も、両親の家で、夜中にこっそり、包丁で胸を刺そうとした。でも、それはできなかった。私にはその勇気がなかった。これなら、できると思うの、フラウ・・・・)

 そう思い、ララは、血の流れた手で、大きめのガラスの破片を、1片、持つと、それで、目を閉じ、

「フラウ、私もあなたのいる天国へ行くわ」と言って、心臓をまっすぐに突き刺した。

 傍らのサイドテーブルには、クラリスが先日やっとの思いで書き記した、亡きフラウへの手紙が、封蝋をしたまま、置いてあった。ララが死の寸前に置いたのだった。

 すごい音がして、ララはまっすぐに倒れた。

 即死だった。角に立っていた家だったので、運悪く、人も通らなかった。

 ララは天に召された。

 お腹にいる赤ん坊も、亡くなってしまった。


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