必ず戻ってくる

結局、その後クラリスがどんなに止めても、フラウは聞かなかった。「僕だけじゃない、職場の仲間も志願するから」というのが、フラウの言い訳だった。

 そして、とうとう、1か月後、フラウは、「より南部に家族ごと逃げようと思う。ミディがいるから、限られてくるが、」という姉からの手紙を受け取ったのち、ついに義勇隊として出征した。

「ララ、必ず戻ってくる」というのが、フラウの最期の言葉だった。

「愛してる。必ず、戻ってきてからでいい、僕らの子供を、一緒に育てよう」そう言って、フラウは家を後にした。

 いつまでも玄関の戸口にたたずみ、その姿を見おくるララをあとにして。


 フラウ戦死の知らせが、手紙として政府から送られてきたのは、それからひと月と3週間後のことだった。


三、戦時のフラウ


「なぁ、フラウ、お前妊娠してる奥さんがいるんだって?本当に来ていいの?」と、フラウの職場の仲間が、戦地に送られる幌馬車の中で聞く。

 幌馬車の中には、20名前後の男性が、ごった煮で押し込まれている。みな、マグノリア帝国の軍服を着ている。

 幌馬車の列は延々と続き、50台以上の幌馬車が、一般人は封鎖になった街道を駆けてゆく。中は少し蒸し暑い。

「ダーフィト、僕は死なない」と、フラウが笑いもせず、いつもの淡々とした口調で言った。

「ダーフィトにだって奥さんいるじゃないか。確か、下の子はまだ2歳だろ?同じじゃんか。みんな、家族を残して軍に志願した。僕だけ逃げるわけには行かないよ!」と、フラウがそっぽを向く。

「ララはそんなに弱くない。万が一の時があっても・・・」

「おい、そんなんでいいのか?」と、ダーフィト。ダーフィトは、出身学校こそ違ったが、職場の仲のいい同僚の一人だった。

「ララなら大丈夫」と、フラウが言った。

「それに、繰り返すが、僕は死なない」と、フラウが笑顔を見せた。

「あのな、ダーフィト、お前は知らないだろうけど、フラウには車いすの甥っ子さんが、メルバーンにいるんだよ」と、同僚のエーミールが言った。エーミールは、フラウと幼少期から付き合いのある友人だった。

「逃げられない子もいる、って俺、相談受けたわ。お姉さまの夫婦もメルバーンからあまり動けないようだし。フラウは、その子と仲がよかったんだ。生まれたころから」

「そういう事情もちかよ」と、ダーフィト。

「んだよ、フラウ、それなら最初から話せばいいじゃん」と、ダーフィト。

「・・・そうなんだけどね、」と、フラウが言った。

「ミディのことは、少しの人にしか話してないんだ。本人、男なのに車いすってことで、かなり気にしてるから」

「そうか・・・」と、ダーフィトが遠い目をして、手を頭の後ろで組み、壁に寄り掛かった。

「食うか?」と、ダーフィトが乾パンを取り出して、フラウに差し出す。

「うん、ありがと」と、フラウ。

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