戦時のフラウ
(ララ・・・)と、取り残された妻と、お腹にいる子供のことを想いながら、フラウは差し出された乾パンを、一口かじった。生きるために。
帝国を抜けたあたりから、街道がややでこぼこ道になった。雨の日もあった。フラウたち義勇兵は、人間としての最低限の扱いを受け、戦地へと、早く、早く、ということで運ばれていった。
一週間ほどで、帝国を抜け、メルバーンの西部についた。
そのころには、ミニチュア魔法もできていたのだが、賞味期限の問題があった。なので、食事はそこまでいいとは言えなかった。
チフスなどのはやり病が流行って、寝込んでいる一隊の幌馬車もある、と聞き、それは噂だったのだが、フラウやダーフィトたちを震撼させた。戦争で戦う前に死にたくはなかった。
家に残してきた家族に、手紙を書く兵士たちもいた。
幌馬車が止まって、休憩となったときに、小鳥を探して、足に括り付けて飛ばすのだ。
フラウも書こうかと思った。だが、それは最後にしようと思っていた。つまり、戦いを終え、帰るとき、に。もう、十分、別れの言葉は、家で言い聞かせてきた。
「さあ、戦いの時間だぞ、兵士ども!!」と、将校と思われる、立派な軍服を着た男性が言った。
10月のやや肌寒いある日、フラウたちは幌馬車から降ろされ、戦地へと降り立った。
「女神ザドキエルのご加護が、君たち諸君にもあらんことを!全員、魔法を使える、立派な帝国男子!!命をとして戦うように!!」と、将校が剣を頭上に掲げる。
「おおー―――!!」という雄たけびが、集まった兵士たちからあがる。
「今の状況は?」と、フラウが、バタバタと忙しく走り回っている兵士たちを横目に、同僚のダーフィトに聞く。
「僕、さっきの将校の説明、一部群声のせいで聞こえなくて」
「もう、ハシントとメルバーンの国境付近まで、オーク軍が侵攻してきている。その後ろには、それを従える魔法使いの軍隊と、トロールの軍隊がいるそうだ!!今、メルバーンのギルドの軍隊と、帝国の正式軍隊が、オーク軍と連日戦っている。俺らは、支給物資の補充係だ!!水や食料をはこぶぞ!!!それから、おれらは医療魔術師じゃないけど、医師は負傷者の救護にあたっている」と、ダーフィトが真剣みを帯びた顔で言った。
「ほら、そこの補充員、この食料の革袋、荷車に積んでくれ」と、先輩の兵士が、ダーフィトとフラウに言う。
「は、はい、分かりました!!」と、二人が、ミニチュア魔法でいっぱいの革袋の束を、何往復もかけて運ぶ。
「一般人が襲われるのも時間の問題だから、その場合は優先して助けるように!」という、将校の不吉なセリフだけは、フラウも聞き取れていたのだが・・・・
イマイチ、戦場の熱気についていけない。
フラウたちは、一日中雑用で働かせられながら、戦況の変化を恐れてもいた。
万が一、救援が足りなくなったら、駆り出されるのが、義勇兵だ!
だが、それも覚悟の上で、フラウたちは出征したのだった。
ある日、フラウたちは、幌馬車で、前線にほど近い村へと運ばれた。
大砲の鳴り響く音などが、遠くから聞こえてくる。
(逃げ遅れた人たちが、こんなにたくさん・・・)と、フラウは思った。
連日、町から避難する人たちの群れで、街道はいっぱいだ。
馬の荷車に、家財などの荷物を運び入れ、みんな家族で逃げている。
エーミールとは、そこらへんで別れた。別の前線へと送られたのだった。ダーフィトはフラウと一緒だった。
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