メルバーンからの救援要請

二、戦火のともしび


「これはよくないね」と、フラウが新聞をわきに折りたたんで置いて、クラリスに向かって言った。

「どうしたの、フラウ?」そういうララのお腹は、まだ目立っていないが・・・。

「メルバーンが救援要請を、帝国の政府に出してきたらしい」と、フラウが言った。深刻そうな顔だ。

「ハシントの国から、侵略宣言を受けたそうだ!なんてひどいことを!!」と、フラウ。

「つまり、戦争が起きる、ってこと?」と、ララ。

「そう、それに近い」と、フラウ。

「でも、メルバーンにも魔法使いはいるし、ハシントの魔法使いにだって、負けないんじゃないかしら」

「それが簡単にそうとも言えない」と、フラウ。

「ハシントの国には、悪神・シェムハザと通じている魔法使いも大勢いて、闇の魔術を使っている奴らが多い。そういうやつらは、オークやトロール、ゴブリンと言った、悪鬼たちを使うんだ」

「・・・・」ララには、言葉が出ない。

「ララにはちょっと怖い話だったかな」と、フラウが言った。だが、口元は笑っていない。

「ミディ・・・無事だといいけど。姉一家も」

「お姉さまの家は、メルバーンの東部だと聞いたけれど?」と、ララ。

「そう、皇国より、ね」と、フラウ。

「ララ、僕、ちょっと早めに仕事に行ってくる。仲間から、詳しい情報を聞きたい」と、フラウが言った。

「え、ええ・・・・フラウ、行ってらっしゃい」と、ララは少々の不安感を覚えつつ、フラウを見送った。

 日に日に、ハシントがメルバーンを攻めてくる、というニュースや人々の噂話は、町に買い物に歩いているララの耳にも入るようになった。

 と同時に、町の中で、「メルバーンを救え!義勇隊員募集中!」という運動をしている人々を見かけることも多くなった。マグノリア帝国にも軍隊はあるが、(メルバーンにはない)、自国守備のためにも若干以上は残しておかなければいけないし、そこまで軍隊も大きいわけではない。

 ガーレフ皇国は、メルバーンとは仲がいいとはいえない。今回も、「我が国はメルバーンを助けているヒマはない」などというような内容の公式文書を発表し、国際社会から非難をあびたばかりだった。

「ララ、落ち着いて聞いてくれ、」と、フラウが言った。

「僕は、この戦争、職場の仲間とともに、義勇隊に出願しようと思ってる」

 と、フラウが食卓でララに告げた。

「フラウ、何を言っているの、」と、ララが涙をにじませて言う。

「そんなこと・・・あなたまで。町の人の運動に影響されたの?」と、ララ。

「・・違うよ、ララ。ただ、僕は、ミディと姉の夫婦のこともあるし、同盟国・メルバーンのために、魔法学校を出ていることだし、戦ってこようと思う。なに、前線は軍隊が行くから、そこまで危険はないだろう」と、フラウが沈んだ顔で言う。

「ミディのように、避難できない人たちもいるんだ」と、フラウ。

「でも・・・でも、お腹の子のことはどうするの、フラウ??あなたに万が一のことがあったら??」と、ララが、一粒の涙をつつーーーっと流す。

「ララ、泣かないで聞いてほしい、」と、フラウ。

「ハシントの目的は、メルバーンのいくつかの州を併合することにあるが、その次は帝国にも圧力をかけてくるだろう。悪神・シェムハザが、ハシントの後ろでについている。ここは、最初に食い止めることが肝心なんだ!」と、フラウ。

「だからって・・・あなたまで・・・。あなたはギルドの人でもないじゃない。星の研究者よ?」

「ギルドの人たちは、軍隊に交じって、前線で戦うそうだ!僕らはそのバックアップも含める。戦うこともあるだろうが、なに、僕だって、成績はよかったんだ、オークなどの悪鬼の軍隊には負けないよ!!」と、フラウが笑顔で言った。

 クラリスの胸に、どうしようもない不安が広がった。

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