35.【第一章エピローグ】謎だらけっていうのは解明する楽しみが沢山あるってことだ

「それで、何か分かったことはあるか?」

「残念だけど何も」


 魔人の自爆をあっさりと耐え抜いたホワイト達は、領都の屋敷まで戻って来てリビングで先の事件について振り返っていた。


「肉片一つ残ってなかったもんな」


 カレイは爆発後の地面を丹念に調べたのだが、魔人の肉片も、生産施設の欠片も何も残っておらず綺麗さっぱり消えて無くなっていたのだった。


「実はめくらましで本当は生きているなんてことはないのかしら」


 その場に居なかった辺境伯夫人が、よくあるテンプレ展開ではないかと言う。


「いえ、確実に消滅したのを私が確認しました。自爆ではありましたが、その後の消え方は魔物と同じ感じでしたね」


 しかしホワイトは猛烈に眩しい中でも魔力の動きを把握しており、魔人を構成していた魔力が霧散したところをしっかりと確認していた。


「人が魔物になる。魔人か……そんなことが本当にありえるのか?」


 実際にソレを目の前で見た辺境伯だが、それでも本当に魔物だったと信じられない。

 あるいは人に似ている魔物が出現しただけでは無いかと思いたがっている。


「理屈上はありえなくはないです。人間もそもそも魔力を元に作られていますから」

「純粋な魔力体である人間、つまり魔人が存在する可能性はある、か」

「私としては魔力が実体化することはあっても逆は無いと思っていたのですが」


 魔力と実体の変化は不可逆であるというのがダイヤの考えだった。

 しかし今回、そのルールが誤りである可能性を見せつけられてしまった。


「魔力についてはまだまだ分からないところがあります。ですが、これは早急に調べた方がよさそうですね」

「うむ。不要な混乱をもたらす可能性が高いから、正式に公開するのも止めておこう」

「それが良いと思います」


 人が魔物になるかもしれないなどという話が広まったら、世界は恐怖で大混乱に陥ってしまうだろう。何が起きているのかが判明するまでは、限られた人の中で共有して研究されることになる。


「なぁ一つ気になることがあるんだけど」

「カレイ?」


 それは魔人とは何か、という考えとは別のアプローチからの話だった。 


「実は貴族至上主義の連中の中に、行方不明になってるやつが他にもいるんだよ」

「そうなの?」

「徹底的に追い詰めて、後は無様な姿を衆目に晒させてプライドをバッキバキにへし折った上でボッコボコにするだけってところで、不自然に消えちまったんだ。私が今回戻ってくるのが遅れたのも、また一人消えてその調査をしてたからなんだ」

「(カレイがバイオレンス過ぎて話が頭に入って来ないんですけど)」


 彼女達を怒らせてはならないと、ひっそりと心に誓うホワイトであった。


「つまり他にも魔人がいるかもしれないってこと?」

「それは分からないけど、関係を疑っても良いだろ?」

「……そうですね」


 だとすると、悠長なことは言ってられないのではないか。


 ホワイトの頭の中で、熱線を乱射するだけの魔人の姿が蘇る。


「(あの魔人は周囲の暴走した魔力を使って攻撃して来た。もしも知性が残ったままだったら、あの魔力を自在に操って熱線以外の攻撃もしてきたんじゃないか?体内の魔力属性や総量に関係なく魔法を使いこなせるとしたら、魔人はかなり厄介な敵になるかもしれない)」


 知性ある魔人が出現し、世の中を恐怖に陥れるかもと考えると、やはり急ぎ調査が必要だ。


 そこまで考えて、ホワイトの脳裏に恐ろしい仮説が浮かんでしまった。


「まさか実験してるんじゃ……」

「どういうことだ?」

「誰かが魔人化の実験をしていて、貴族至上主義の連中はそれに利用されているとか」

「なんだと!?」

「あくまでも想像ですよ」


 その実験の失敗作が熱線男で、行方不明となった他の連中も何者かの手によって魔人化の実験台になっているのではないか。想像が正しいのであれば、たとえ彼らがどれほどクズだったとしても、あまりにも非人道的な話だ。


「人を、命を何だと思ってるんだ!」

「落ち着いて下さい。繰り返しますがあくまでも想像ですよ」

「いや、お前の考えは正しい。胸糞悪いがそんな気がする。それにもしそんなクソみたいなやつらが存在するなら早めに見つけなければ危ない。少なくとも奴らは魔物生産施設を作り上げるだけの技術力があるってことだろ」

「……そうですね」


 もしそれを量産でもされようものなら、防壁が突破されかねない。

 その先に待っているのは魔物による住民たちの蹂躙だ。


 領主として、人として、そんなことを許すわけにはいかない。


「でしたら最優先でやるべきことがあります」

「なんだ?」

「彼らの謎の隠蔽魔法を解除する方法を周知させることです。魔人や魔物生産施設の動力源は暴走した魔力なので、それらが満ちているところでしか大げさなことは出来ないでしょう。ですが、もしあの隠蔽魔法が少ない魔力だけで実現できるのならば……」

「すでに国内で好き放題している可能性があるわけか!」

「はい、それに魔法学園で貴族至上主義の人々が行方不明になったのも、それが原因の可能性があります」


 カレイ達に徹底的にマークされていた連中が、誰にも見つからずに消えていなくなるなど考えられない。一人ならまだしも、数人も消えているのだ。消えるかもと分かっていて監視しているのにその目を搔い潜るとしたら、未知の方法、例えば謎の隠蔽魔法を使っているなんてことがあり得るのではないか。


「くっそー!そういうことだったのか!」

「あくまでも想像ですよ」


 悔しそうにするカレイだが、ホワイトはほっとしていた。

 その謎の技術を使い、もし彼女達がこっそりと襲われていたら、再会を喜ぶことなど出来なかったかもしれないのだから。


「(予定を変更してこっちの魔法学園に戻った方が良いのだろうか)」


 彼女達の安全のためには、きっとそうするのが正しい。

 正しいが、間違っている。


「余計なことは考えるなよ。これは私達の戦争だ」


 だから手を出すな。

 自分達を信じろ。


 そう言われてしまったら、ホワイトは信じる以外の選択肢を取れなかった。

 魔人化の原因を調査することくらいしか出来ないだろう。


「分かりましたが、一つだけお節介させてください」


 少しアドバイスするくらいは許して欲しい。


「もしも魔人化を研究する謎の人物および組織が存在し、彼らが貴族至上主義の連中を利用しているのなら、学園に彼らを入れようとしたことにも何か意味があるのかもしれません」

「ふむ、つまりそう仕向けた人物がその謎の存在に繋がっているかもしれないということか」

「はい、もう調査は終わってますよね?」

「当然だ」


 ホワイトが投獄された事件の後、外は任せると娘に言われてから徹底的に調べたのだ。

 誰が裏で糸を引いていて、どうしてこうなったのかを全て調査してある。


「だがその中には……いや、これ以上は私達の仕事だな。お前はやるべきことをやりなさい」

「……はい。でも気になるので魔人化が可能かは私の方でも調べておきます」


 西側諸国の動向調査やサンベール魔法学園での仕事などやるべきことは山積みだ。

 しかしそれでも魔人の話は放置出来ず、辺境伯達に任せながらも自分も出来る限りのことをやることにした。


 魔人についての話はこれで一段落。

 そこで辺境伯は別の話を切り出した。


「それで、お前はもう帰るのか?」

「え~もう?」


 不満の声をあげるカレイだが仕方ないことだ。

 辺境伯の依頼を受けるという本来の目的は終わってしまったのだから。


「そうですね。名残惜しいですが、このままここにいるといつまでも帰れなくなりそうですし」


 真面目な話をしているとはいえ、演技することも忘れブラックではなくホワイトモードで話をしていることから、彼らの前で気が緩んでしまっていることは間違いない。あまりの居心地の良さに延々と長居してしまいそうなため、思い切って帰ることにした。


「カレイ、くれぐれもお気をつけて」

「ああ、分かってる」


 クラウトレウス魔法学園に、もし不可視の存在が侵入しているとなれば彼女達に危険が及ぶ可能性がある。貴族至上主義の連中を排除しようと動く彼女達を疎ましく思い攻撃される可能性は普通にあり得るのだ。


「心配なら他の奴らにも会ったらどうだ?」

「え?」

「それに私だけじゃ不公平だしな」

「いや、それは……」


 今回は辺境伯からの依頼と自分の都合のタイミングが合ったから来れただけで、忙しい中で今後もクラウトレウス王国に来れるとは限らない。他の幼馴染達にも会いたいが、その気持ちだけで来るのは流石に自分勝手が過ぎる。


 と思ったのだが、ここでホワイトはあることが気になった。


「(他の辺境伯のところに何か情報が無いだろうか)」


 魔人化に関わっている謎の存在は、魔物発生装置を使い東の辺境伯を襲っていた。

 だとすると他の辺境伯にも何らかのちょっかいを出している可能性があるのではないか。


 だとすると彼らの所に向かって魔人化についての情報収集をする価値は大いにある。


「(考えてみるか)」


 最悪なのは、謎の存在によって魔法学園交流会を邪魔されて再び再会に水を差されるということだ。

 もちろんそうならないためにカレイ達が動いてくれるだろう。彼女達を信じてはいるが、念には念を入れてホワイトも情報を仕入れておきたい。


 なんて言うのは建前で、本当は彼女達に会いたいだけなのかもしれないが。


「(はぁ……やることがいっぱいだ)」


 島の中で暮らしていた時は毎日自由で、両親の仕事を手伝いながら好き放題訓練や勉強をしていた。

 しかし今は簡単にはこなせないタスクが山のように積まれていて毎日大忙しだ。


「(でも頑張ろう。頑張って彼女達に相応しい人になるんだ)」


 そのためならばこの程度の仕事量などなんてことはない。

 カレイと再会したことにより彼女達への想いが更に高まり、共に過ごし愛を育みたいという気持ちが一気に膨らんだ。


「(次はサンベール周辺の火種の完全排除だな)」


 彼女達とのイチャイチャのため、まずは何が何でも約束を果たすべく、ホワイトは新たな難題に取り掛かるのであった。




 第一章・完

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星とリングとハーレムと マノイ @aimon36

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