34. 【東の辺境】スッキリした!
「また消えてしまったか……」
ホワイト達が参加したこともあり、防衛戦は圧勝で終わった。
しかし例の魔物生産施設は、やはりいつの間にか消えて無くなってしまっていた。
防壁の上に戻って来た辺境伯は難しい顔をして魔物達がやってきた方向を見つめていた。
「いえ、ちゃんと追えてます」
「何!?」
なんとホワイトは消えたはずの魔物生産施設の動向を今も把握していた。
「魔法で隠蔽してるみたいですね」
「なるほど、戦いのどさくさに紛れて魔法で隠れたのか。だが戦いの後は看破の魔法をかけて潜んでいる魔物が残っていないか確認しているぞ?何故見つからなかったんだ」
魔物の中には自らの姿を隠してこっそりと相手を狙うタイプのものがいる。
戦いが終わった後に、そういった隠れるタイプの魔物がまだ残っていて、安心したところで不意を突かれて殺されるなんて話が昔はよくあったそうだ。そのため、防衛戦後も気を抜かずに徹底して安全確保をすることが厳しくルールで定められていた。
しかしそれでも見つからない魔物がいると言われれば、今後の防衛方法にも関わってくる重大な話だ。辺境伯はこれまで以上に真剣な顔になりホワイトに説明を求めた。
「う~ん、それは多分、この隠蔽魔法が少し特殊だからじゃないかな」
「特殊?」
「私も初めて見るケースだけど、暴走している魔力と普通の魔力が合わさった特殊な魔力を使って隠蔽しているっぽい。だから普通の看破魔法だと見つからなかったんだと思う」
「なんだそれは!?」
暴走する魔力を使うという時点でこれまでにないことなのに、それを普通の魔力と合わせるなど意味が分からない。ホワイトも同じ気持ちなのだが、実際にそうなっているのだから仕方ない。
どうしてホワイトが隠蔽している対象を追えているのかと言うと、隠蔽される前に遠くから自分の魔力を打ち込み、対象の魔力にこっそり混ぜたからだ。対象の魔力は見えないが、自分の魔力は感じ取れるため、それを追っている。
「とりあえず拠点に帰るまでは様子を見ようと思います」
「そうだな」
今すぐに対象のいる場所へと向かって撃破するのはたやすいが、隠れて移動しているということは何かしらの拠点があるのかもしれない。他にも似たような魔物がいる可能性を考えると、ここで一網打尽にしておくべきだ。
スープ辺境伯もホワイトの考えに同意してくれた。
しかし。
「ウロウロしてるだけですね……」
一日経っても対象は荒野の中をうろつくだけで、決まった方向へ向かって移動しようとしない。
まったく目的が無く彷徨っているようにしか見えなかったのだ。
「どうしましょう?もう行きますか?」
「仕方あるまい」
このまま放置しても状況は変わらないだろうと判断したホワイト達は、魔物生産施設の元へと移動することにした。
メンバーは、スープ辺境伯、ホワイト、カレイの三人。
ちなみに先生に再会して挨拶したが、隠居した身だからとサッと消えてしまった。
隠居したなら前線で暴れるなよとはホワイトの弁。
また、辺境伯夫人は今回はいざというときの為に防壁に残ることにした。
本来であれば辺境伯自らが行くなど危険極まりないのだが、ここではそれが普通であり、防衛団長の胃をキリキリさせるのであった。
そんなこんなでホワイト達は対象の元へとやってきた。
そこは変哲もない荒野のど真ん中。
隠蔽魔法がまだ発動しているからか、何かがいるようには全く見えない。
「では隠蔽を解除させます」
ここしばらくは余所行きホワイトモードが続いている。
流石に外では家族だから砕けて話せ云々とは辺境伯も言ってこない。
「(やっぱり良く分からない属性の魔法が使われてる。でも単純に魔力で覆っているだけのようだし、これなら攻撃するだけで解けそうだ)」
一気に魔法で攻撃して隠れている相手ごと倒すことは出来るかもしれないが、それだと情報が手に入らないため隠蔽バリア的なものだけを破壊する。
「リング・コマンド。炎」
炎属性の魔力を選択し、ある魔法を放つべく魔力を高める。
「フレイムクロース」
炎を薄く布状に伸ばして相手に被せ、面攻撃をする魔法だ。
それを何者かが潜んでいるであろう場所に被せた。
すると狙い通りに隠蔽が解除され、何も無さそうに見えた場所に巨大な魔物製造施設が出現した。
「(なるほど、魔力で浮かせているから移動の跡がついてなかったのか)」
巨大な施設を動かすとなれば、何らかの痕跡が地面に着くはずだがそれが見当たらなかった。
その原因は施設を僅かに浮かせて移動していたからだった。
「(しかしこれだけの物を常に浮かばせながら移動させるなんて、どれほどの魔力を使っているんだ)」
ホワイトであっても自分自身を飛ばすには膨大な魔力が必要ですぐに燃料切れになってしまう。目の前の犬型施設はどうやってかそれを可能にしていた。
「おい!あいつ!」
「誰だ!」
ホワイトが魔物製造施設について考えていたら、施設のすぐ横をフラフラと歩いていたローブを被った人物にカレイと辺境伯が気が付いた。
「あの人がこの施設を動かしています」
ホワイトが防壁の上で施設周辺の魔力を探っていた時に、魔物の中に潜んでいたこの人物と施設周辺の魔力が繋がっていることに気が付いた。ゆえにこの人物の動きをホワイトはずっとマークしていたのだ。
「どうやらあの人はどうやってか魔物と同じ暴走した魔力で体を覆い、自分を魔物だと錯覚させることで魔物達に襲われないようにしているようです」
そこまでは防壁の上で確認することが出来た。
しかしその人物が何者かまでは分かっていない。
「おい貴様!こっちを向け!」
「…………」
辺境伯の声にその人物は全く反応せず、フラフラとゆっくりと歩くだけ。
その不審な様子に三人は警戒し、その人物の正面へと回り顔を確認することにした。
「この人は!」
「こいつは!」
反応したのはホワイトとカレイだった。
「お前達、こいつを知っているのか?」
「知っているも何も……」
「こんなところに居やがったのか!」
ホワイトにとって忘れようにも忘れられない人物。
そしてそれはカレイにとっても同じだった。
「魔法学園で捕まった時、私を連行した試験官です」
つまりクラウトレウス魔法学園に蔓延っていた貴族至上主義の連中の一人だ。
彼らを排除せんとしていたカレイにとっても当然知っている相手だ。
「カレイ。この人は魔法学園でどうなったの?」
「私達が追い詰めた後、いつの間にか居なくなってやがったんだ。てっきり王都周辺のどこかに潜伏してるのかと思ったが、どれだけ探しても見つかりやしねぇ。まさかこんなところで再会できるとはな」
早速捕まえて何がどうなっているのか吐かせてやろうとカレイが一歩前に出るが、それをホワイトが止めた。
「待って。様子がおかしい」
目の前に三人がいるというのに、男は気付いていないかのようにフラフラとゆっくり歩き続けている。まるで夢遊病のようで意識が無さそうだ。
「おい!こっちを見ろ!」
試しに辺境伯が威力が極端に弱い小さなファイアーボールを放ってみた。
牽制のつもりだったのだが、男はそれをまったく避けようとはせず、右脛辺りに直撃してしまう。
「…………」
その効果があったのか、男がようやく歩みを止め、三人の方を見た。
そしてニヤリと大きく口を醜く歪めると、壊れた人形のように嗤い出す。
「カカッ……カカカッ……カカカッ……カカカッ……」
「うわ、気持ち悪」
カクカクと首を縦に横にと大きく動かしながら白目を剥いて嗤う姿は確かに気色が悪い。
「こいつ精神がぶっ壊れてるのか。これじゃあ大した情報は得られそうにないな」
辺境伯はそう言うと男から興味を失ったようで、背後の魔物生産施設を見る。
そっちを調査した方がまだ情報が得られるかと思ったからだ。
「待ってください。気を抜かないで」
しかしそんな辺境伯にホワイトは注意を促した。
「どうした?こんな壊れた奴に何かがあるのか?」
「この人はただ壊れている訳じゃなさそうです」
「と言うと?」
男の奇妙な行動に、なんとも言えない違和感。
気になったホワイトは改めて男の魔力を探ってみたのだが、その結果とんでもないことに気が付いたのだ。
「この人は魔物です」
「は?」
「え?」
ホワイトの言葉の意味が分からず、辺境伯とカレイは間抜けな声をあげてしまった。
それもそのはず、人とそっくりな魔物などこれまで出現したことが無く、それどころか目の前の存在は実在する人物なのだから。
「信じられない話ですが、人間の魔力と魔物の核となる暴走した魔力がこの人の中で同居しています。しかも体はすでに人間ではなく、魔物と同じ魔力体になっている」
「そんな馬鹿な!まさか人が魔物になったとでも言うのか!?」
「その可能性は……あります」
だがどうやればそんなことが起きるのか、ホワイトには想像もつかない。
「きぞ……きぞきぞきぞっ……きぞっく……われわ……れ……きぞっく……」
「こいつ、こんな状態になってもまだ貴族がどうとか言ってやがるのか」
「われっわれっ……こそ……しこ……う……ごみ……はっ……はいっ……じょっ……」
「危ない!」
唐突に男の目から熱線が飛び出し、ホワイトはカレイを地面に押し倒すようにしてどうにか躱した。
カレイだから守ったのではなく、たまたま熱線の方向がカレイの方を向いていたからであり、辺境伯とどちらを救うかを選んだ訳では無いことだけは補足しておこう。
「サ、サンキュ」
照れるカレイだが、今はラブコメっている状況ではない。
ホワイトに手を引かれて慌てて体を起こす。
「アレはもう魔物だからリング・コマンドとか関係なく魔法を放ってきます!気を付けて!」
人間という枷から外れた魔物、
尤も、その
「うお、アレも動き出したぞ!」
止まっていた魔物生産施設が、周囲の魔力を取り込んで魔物を輩出し始めた。
「
「よし、なら俺とカレイはあっちを止めるぞ」
「おう!」
いくら大量に魔物が出現しようとも、チート級の強さを誇るスープ父娘ならば余裕だろう。
ゆえにホワイトは彼らのことを全く気にせずに魔人に対することが出来る。
「……はいっじょ!……はいっじょ!……はいっじょ!……はいっじょ!」
「あの時は散々殴ってくれましたね。少しばかりやり返させてもらいますよ」
星剣ラースラッグを取り出したホワイトは、飛んできた熱線を剣の腹で受けて逸らす。
「(なんて量だ!)」
しかし魔人は目だけではなく、体中の至る所から熱線を放って来たため、全部を逸らしきることが出来ず躱すだけで精一杯だ。
「(避けながら強引に近づく?でも滅茶苦茶に乱射されると攻撃が読み辛くて避けられないかも)」
狙いを定めて攻撃してくれるのであれば様々な予測が可能であるが、力の限り乱射されると予測は無理だ。
「はいっじょじょじょじょじょ!」
「そこまで言うならしっかり狙って排除してくれ」
そうでなければ熱線を巻き散らすだけの暴走魔人など、誰も見向きもせず荒野に放置されてしまうだろう。
「リング・コマンド、土。からの
地面が分厚くせり上がり、ホワイトと魔人の間の強固な壁となった。
「やっぱりダメか」
しかし熱線はその壁をやすやすと貫通して来たでは無いか。
「あの防壁ですら貫通しそうだ」
もしこの魔人が防壁に投げ込まれでもしようものなら、一瞬で崩壊させられてしまいそうだ。
今のうちにここで止めておかなければ後で大惨事になってしまうかもしれない。
「よし決めた」
ホワイトは星剣を上段に構え、地面に向けて振り下ろす。
そして再び上段に構え、またしても振り下ろす。
ただそれだけの動作を、熱線を避けながらひたすら繰り返す。
徐々にその速度が素早くなり、切っ先が縦に一本の線を生み出した。
「スープ流剣術奥義・
ホワイトはその状態のまま魔人に向けて突撃した。
すると向かって来た熱線が全て真っ二つになりホワイトの身体を避けていくでは無いか。
「(だからどうしてこうなるんだろうね)」
剣をただ上下に振っているだけなので、剣閃から少しでも逸れた熱線は剣に触れずにホワイトの身体を打ち抜くはずなのだが、何故か体に当たりそうな熱線全てが分断されてしまう。
本来は正面からの水流やブレスを真っ二つにして防御する奥義であり、もちろんこれも魔法は使っていない。
「おおおおおおおお!」
大量の熱線を全て斬り弾き魔人に向かって進むホワイトは、すぐに敵の間近まで辿り着いた。
そしてそのまま魔人を斬る、のではなくその横を通り抜ける。
「喰らえ!」
背後からの回し蹴りが魔人の尻に見事にヒットし、魔人は顔から地面に突っ伏して倒された。
「仕返しはさせてもらったよ」
魔法学園で散々蹴られた鬱憤を晴らしたい。
本気で戦うならば距離をとって魔法でズドンであっさりと終わっていたところ、敢えて接近戦を仕掛けたのはこれが理由だった。
「さて、それじゃあそろそろ静かになってもらおうかな」
熱線が外に漏れないように強固な魔力防壁で魔人を包み、調査の為に拘束する。
しかしその狙いは達成できなかった。
「はいっじょじょじょじょじょじょおおおおおおおおおおおお!」
「マズい!」
地面に突っ伏した魔人が、跳ね上がるように飛び起き、全身から膨大な魔力を放ち始めたのだ。
「自爆する気か!?二人は!?」
「こっちもやべぇぞ!」
「ホワイト!」
魔人の動きに合わせて魔物生産施設の方もいかにも自爆しそうな光を全身から放っていた。
「くっ!」
慌ててホワイトはカレイのところへ移動し、魔力で防御膜を生成する。
「おいいいい!俺も入れてくれよ!」
「師匠は自力で守れるでしょ!」
「うっさいどけ!」
「うわ!強引に入って来ないで!」
「お父様邪魔!」
「娘に邪魔って言われた!」
シリアス風な状況に全く相応しくないコントを繰り広げる中、魔人達は盛大に爆発し、周囲は灰色の閃光に包まれたのであった。
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