23. 【ロークスユルム】岩石魔人の暴走を食い止めろ!
うねり狂う魔力はとてつもない密度となり、徐々に形を成そうとする。
「あれは金属?いや、岩なのか?」
小さな黒い岩石が宙に生成されたかと思うと、それを中心に一気に岩石が巨大化する。
人より大きくなり、木々より大きくなり、それでもまだ巨大化は止まらない。
「でっか……」
全ての実体化が終わった時、それは山ではないかと思えるほどの巨体となった。
そしてそれは奇妙な形をしていた。
超短足のド太い足があるかと思えば、頭部と思わしき部分は三角に尖っていて顔のようなものは見えない。そして何よりも特徴的なのが無数に生えた手だ。上から下まで至る所に生えているその手はとても長く、いずれも地面にまで軽く届くだろう。
名づけるなら巨大千手岩石魔人とでも言えば良いのか。
「…………」
一筋縄ではいかないと感じたホワイトは、ポケットから剣の柄のようなものを取り出す。
それに魔力を籠めると刀身が生成される。
星剣ラースラッグ。
巨大鰐を倒した星剣は実体化させてしまったため処分できず、せっかくなのでと持ち運びやすいように改良して常に携帯するようにしていたのだ。
「(おそらくだけど、あの岩は簡単には斬れない)」
超濃密な魔力により生成された岩石は、見るからに硬そうだ。
そこらの安物の剣では間違いなく折れてしまうと判断したホワイトは迷うことなく星剣を使うと決めた。
「さてどう攻めるか」
あまりの巨体であるがゆえに攻撃を当てることは簡単だろう。
しかし無数の手がそれを許してくれるとは思えない。
まずは行動不能にすべきか、手を封じるべきか、破壊を目指すべきか。
いくつもの狙いの中から方針を立てなければならない。
が、しかし。
「うわわ。なんだなんだ?」
岩石魔人が突然全ての手を暴れさせ、地面を何度も打ち付け始めた。
あまりの揺れでホワイトは立っていられず、ジャンプして空気の渦の上を跳ねるようにして退避した。
「これは迂闊に近づけないな」
暴れっぷりがあまりにも激しく、しかもランダム軌道なため攻撃の動きが予測しにくい。
近づいての攻撃は得策では無さそうだ。
遠距離から魔法で破壊を試みるべきだろう。
戦いの経験があれば誰もがそう考えるに違いない。
それなのにどうしてこうなった。
「うおおおおおおおお!相手にとって不足なーーーーし!」
「えぇ……」
近くまで来ていたニクギュウが、ターゲットを岩石魔人に変えて特攻したのだ。
しかも大槌をブンブンと振り回し、近寄って攻撃する気満々ではないか。
「まったく世話の焼ける!」
このまま見殺しにするわけにはいかず、ホワイトは慌ててニクギュウの元へと駆け寄った。
「ふはははは!我が大槌でぶっ潰してくれよう!」
ニクギュウは危険地帯へと突入し、暴れる一本の手が彼の頭上に振り下ろされようとしていた。
いくら耐久力の高いニクギュウとはいえ、まともに喰らったら死んでしまう可能性が高い。
「邪魔!」
「ぐげ!」
まさに間一髪だった。
文字通り飛ぶようにやってきたホワイトがニクギュウにドロップキックを喰らわせて吹き飛ばし、叩きつけ攻撃から守ったのだ。
「ふぅ」
ホワイトが良い笑顔なのは、迷惑をかけさせられた相手に蹴りを入れられてスッキリしたからではなく、守れたからに違いない。恐らく。きっと。多分。
「何をするんじゃー!」
「それはこっちのセリフですよ。死にたいんですか?」
「はん。俺様があの程度で死ぬわけが無いだろう!」
「お得意の勘がそう言ってるのですか?」
「…………無茶だからこそ挑む価値がある!」
「死ぬって分かってるんじゃないか!」
いくら戦争好きとはいえ度を越している。
そこまでの戦争バカだからこそ、このイカれた国で王なんぞやっているのかもしれないが。
「お、やはり貴様はあの時の!待ってろ、あのでかぶつを倒したら次はお前だ!」
「いやいやいや、倒せるって本気で思ってるんですか?」
「はっはっはっはっ!」
「答えろよぅ!」
このまま放置したら間違いなくバカ国王は無茶な特攻で死んでしまうだろう。
本人は強敵に挑んだ末の死を喜びそうではあるが、生憎とホワイトは誰かが死ぬところを見逃すような人物ではない。
「(というかこの人、なんでこんなに地面が揺れてるのに立ってられるんだ?)」
ホワイトも出来なくはないが、かなり大変なので飛んで楽をしている。
ニクギュウの足腰の強さはかなりのものなのかもしれない。
「よし行くぞ!」
「だから止めい」
「ぐげ!」
また走り出そうとするニクギュウの横っ腹を蹴飛ばして強引に動きを止めた。
このままではニクギュウの動きが気になってしまい魔物に集中できない。
「(先にこの人を無効化すべきか?)」
幸いにも魔物は出現地点から動かず、その場で暴れ狂っているだけだ。
着実に対処するためにも、先に邪魔者を排除するのは正しい手順だろう。
そうホワイトが判断してニクギュウの動きを封じようとしたその時。
「「「「うおおおおおおおお!」」」」
物凄い雄叫びがホワイトの耳に飛び込んできたのだ。
「なんだ!?」
慌てて周囲を確認すると、遠くで戦争をしていたロークスユルム軍がこっちに向かって走って来ているではないか。
「あいつを倒せば一番の大手柄だ!」
「絶対に俺が倒してやる!」
「先を越されてたまるか!」
なんと稲穂軍との戦争を放棄し、遠くに出現した巨大魔物を倒すべく方針転換したではないか。
「もうやだぁ」
目の前に敵がいるのに背を向けて他の敵に挑みに行くなど意味が分からない。
もし相手が本当の侵略軍なら背後から攻撃されて即壊滅しているだろう。
より強い相手と戦いたいという本能が彼らを意味不明な行動に誘った。
彼らがここまで辿り着いたら、岩石魔人に蹂躙されて全滅だ。
ホワイトが泣きたくなるのも当然のことだろう。
ただでさえ強大な魔物相手に邪魔なニクギュウがいてしかも制限時間まで付与されてしまった。
「はぁああああああああああああああああああ」
深い深い溜息を吐きながら、またしても抜け出して突撃しようとするニクギュウを蹴り飛ばす。
「少しだけ試してみるか」
ニクギュウが岩石魔人から離れている間に、少しだけ戦ってみることにした。
暴れ狂う手の一つに狙いを定め、それが地面を叩きつけようとするタイミングを狙って飛び掛かり剣を一閃。
ズズズウン。
腕が綺麗に真横に断ち切られ、轟音と共に斬られた部分が地面に倒れ落ちた。
「少し手ごたえはあるけど、この剣なら十分斬れる」
尋常ではないほどの硬さだったが、超高性能な星剣とホワイトの技量があれば問題なく斬れると判明した。時間があれば手をたくさん切り落として安全にしてから次の手を打ちたいところだが、後ろから
今のはあくまでも相手の硬さとこちらの攻撃が通じるかどうかを確認しただけだった。
「サンダー!」
ついでに落ちた手の残骸に向けて魔法を放ってみる。
「少し崩れた程度か。魔法抵抗も高そうだけど、効かない訳じゃなさそうだ」
となるとやはり離れた所から高威力の魔法をぶち当てるのが正しい攻略法か。
しかしそれで果たして間に合うのだろうか。
「どうしようかねっと」
「ふははは、何度も素直に蹴られると思ぶべらっ!」
また近づいてきたニクギュウをフェイントを入れながら蹴り飛ばし、攻略方法を考える。
「せめて地面が揺れて無ければ大切斬でぶった斬るんだけどなぁ」
山を斬る程の威力を誇る奥義も、足場が不安定ならば使えない。
「待てよ。あいつは一応岩なんだよな」
金属のような硬さと色合いではあるが、見た目の質感はどう見ても岩石だ。
「ならアレが効くかもしれない」
そしてホワイトには岩石系魔物用の技があった。
「問題はそれを使うまであの人が大人しくしてくれるかどうかだよなぁ」
あの巨体にその技を使うには少しだけ時間が必要だ。
間違いなくそれまでの間にニクギュウは突撃してしまうだろう。
「仕方ない、確実に動きを止めておくか」
「そうはさせん!」
「うわ!勘が良すぎでしょ!」
ホワイトが本気でニクギュウを止めようとしていることに気付いたのか、今度はターゲットをホワイトに切り替えて大追を振るって来たのだ。
「ここで貴様を倒し、あいつも倒し、俺様が最強だと証明してやる!」
「マジかぁ」
油断しているニクギュウであれば一瞬で無力化出来ると思っていたのだが、警戒されると厄介だ。何しろ相手は力と耐久力に特化させたムッキムキを倒すほどの実力があるのだ。
「(ニクギュウを止めて、あの技で魔物を倒す。それも大軍がここに来る前までに。なんでやねん)」
何度考えても、何故魔物より前に人間と戦わなければならないのかが分からないホワイトであった。
「(早く帰りたい)」
この時の経験が、サンベールに戻った後に愛しい幼馴染に会いに行きたいと思う原動力になったとかなんとか。
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