24. 【ロークスユルム】もういいや巻きこんじゃえ

足止めフットコンファインメント

「ふん!」

「デスヨネー」


 試しに足元を土で固めてみたけれど、あっさりと蹴り飛ばして脱出されてしまった。


「(仕方ない。あっちの方へと吹き飛ばすか)」


 こっちに向かっている大軍の方まで飛ばしてしまえば、魔物を片付ける時間を稼げるだろう。


激風ハードウインド


 強烈な風を起こし、吹き飛ばしてしまおうという作戦だ。


「ああああまああああいいいいわああああ!」

「うっそ。これでもダメなの」


 だがニクギュウはそれでもふんばり耐えきった。


「魔物のせいで地面が揺れてるのにすごいなぁ」


 激しい揺れで立つのもままならずふんばりなど効かないはずなのに、絶対にここを離れはしないと言わんばかりに下がらない。足腰の強靭さだけならばホワイトを越えているだろう。


「うおおおおりゃあああああ!」


 風と大地の揺れに耐えながら、ニクギュウは手にした大槌を頭上でブンブンと振り回し始めた。

 するとその大槌は猛烈な炎を纏い、まるで火の玉がグルグルと激しく回っているかのようだ。


「フレイムウウウ、インパクトオオオ!」


 ニクギュウは大槌を回転させたままホワイトに向かって飛びかかり、叩きつけようとする。


「それ炎を纏わす意味ある?」


 なんて感想を口にしながら、ホワイトはあっさりと跳んで逃げた。

 機動力ではホワイトの方が遥かに上のようだ。


 渾身の攻撃を躱されたニクギュウだが、がっかりすることなく笑顔でホワイトの質問に答えた。


「男のロマンだ!」


 ホワイトが躱したことでそのロマンを受けてしまった大地は広範囲に大きく凹んでしまっている。

 それほどの威力があるのなら、確かに炎など纏わなくても威力は十分だろう。

 ニクギュウが言う通り、なんとなく格好良いから炎を纏わせているだけだった。


「(風と炎を使えるのか。確か三属性使えるって話だし、水ってキャラじゃないから残りは土かな)」


 相手の出方をじっくりと伺って対応するのがホワイトの戦い方だが、今はそんなことを確認している暇はない。


「(というか風魔法が使えるなら遠くに飛ばしても強引に戻ってきそうだな)」


 ホワイトが得意とする追い風を使った高速移動のような繊細な魔法の使い方は出来そうに無いが、竜巻を起こしてわざと巻き込まれて飛んでくるなんて力技をやってきそうだ。

 遠くに飛ばして時間を稼ぐのは得策ではないかもしれない。


「(でもだからといって拘束しても力づくで外しそうだし、簡単に気絶なんかしてくれなさそう)」


 たった一人の動きを止めるのがこんなにも難しいとは予想外だった。


「(せめて星造魔法が使えればなぁ)」


 強い魔法生物を生み出し、相手をしてもらえば良い。

 しかし大地が激しく揺れているから空気の足場を小刻みに飛びながら常に移動しなければならず、しかもニクギュウから攻撃が飛んでくるとなると、その状況で正確に空に絵を描くのは困難だ。


「(どうしよう)」


 悩むホワイトだが、もう時間はほとんど残されていない。

 大軍がかなり近くまで迫って来て、このままでは魔物の餌食になってしまうだろう。


「(いっそのこと無視出来たら楽なのに)」


 だがそんな風に見殺しにするなんてことを、英雄を目指しているホワイトが選べるはずもない。


 ないのだが。


「(あれ?案外良い案じゃないか?)」


 別にホワイトが彼らの頭のおかしさに我慢できなくなったという訳ではない。

 ホワイトが困ってるのは、ニクギュウを放置したら魔物の攻撃を受けて死んでしまう可能性が高いからだ。


 だがそもそもニクギュウは耐久力がかなり高い。

 それならホワイトがサポートしてあげれば死なないのではないか。


「分かりました。そこまで戦いたいのであれば、アレと戦って良いですよ」

「ぬ?」

「私もアレとの戦いに専念しますから、どちらが倒せるか『勝負』しましょう」

「のった!」


 国民が国民なら、やはり国王も国王だ。

 勝負を挑まれれば受けざるを得ない性格らしい。


「その前に私からプレゼントです」

「なんだと?」


 ホワイトは警戒しながらニクギュウの背後に回る。

 やっぱり倒したい、だなどと攻撃をされなくて少しほっとした。


「リング・コマンド。『人属性』」


 『砂漠属性』『草原属性』などと同じく、レア属性の一つ『人属性』。

 この世界ではホワイト以外にも使える人がそこそこ多いこの属性は、人に関する魔法を扱うことが出来る。


 その一つが『肉体強化』だ。


「オールアップ」

「ぬ……ぬおおおおおおおお!力が湧いてくる!」


 ニクギュウの身体能力を一時的に大幅に向上させた。

 元が化け物級の耐久力があるのだから、これなら魔物の攻撃を喰らっても大丈夫だろう。


「それじゃあ頑張ってくださいね」

「うおおおおおおおお!いくぞおおおおおおおお!」


 強くなったことでテンションが爆上げしたのか、物凄い勢いでニクギュウは魔物に突撃する。


「ぶぎゃ!」


 そしてあっさりと手に叩き潰されてしまい、汚い悲鳴をあげるのであった。


「ぐっ、がっ、このお!」

「おお、大丈夫そうだ」


 何度も何度も叩きつけられたが、地面を転がって辛うじてその場から脱出する。


「今度はこっちの番だああああ!」


 しかも何事も無かったかのようにまた突撃するではないか。


「ふぅ、あれなら大丈夫そうだな」


 これでニクギュウを気にすることなく魔物に攻撃が出来るようになった。


「ギリギリ間に合いそうだ」


 大軍の位置はまだ少し離れた所で、ここまで来るにはもう少し時間がかかりそうだ。


 ホワイトは空気の渦を跳び、巨大な魔物の上部に向けて高く高く昇って行く。


「うわぁ、気味が悪いな」


 数多の黒い岩の手がウネウネと動いている姿は、見ていて気持ちが良いものでは無かった。


「さっさと終わらせよう」


 この国の国民どころか、謎の魔物にまで精神を削られてはたまったものではない。

 ここで全てを終わらせて早くサンベールに帰りたかった。


 ホワイトは空気の渦を力強く蹴り、加速する。

 何度も何度も強く蹴り、その度に徐々にスピードを上げて行く。


 右手には星剣ラースラッグをしっかりと握り、宙を蠢く無数の手に捕まらないようにとコースを選びながら超高速の移動を繰り返す。そしてそのスピードが最高潮になった時、ホワイトは空気の渦を魔物の頭上に生み出し、それを全力で蹴り飛ばした。


 空から彗星のごとく落下したホワイトは、手にした星剣、そのを巨大岩石魔物の頭上に叩きつけた。


「スープ流剣術、爆岩砕奧ばくがんさいおう・激」


 ゴーレムなどの岩石系魔物に対し、剣の柄を叩きつけることで全身を破壊する奥義が爆岩砕奧ばくがんさいおう。しかし今回の魔物はあまりにも巨大であり破壊が困難であったため、威力を上昇させるようにと超スピードを加えるようにホワイトがアレンジした。


 激突と同時に魔物の身体は崩れ始め、ホワイトは勢いそのままに魔物の身体を破壊しながら突き抜けた。


 ゴゴゴゴゴオオオオオン!


 爆岩砕奧ばくがんさいおうはただ岩を壊すだけではない。

 全身が奥まで砕け、細かな砂や石に変わってしまうのだ。


 山のように大きな岩。

 無数の手。


 それらが轟音と共に崩れ落ち、砂山へと変化する。


「な、な、なんだとおおおおおおおお!?」


 あまりのことにニクギュウが驚き、その砂山の頂点に立つホワイトを畏怖の眼で見つめている。


「…………」


 そこで勝利宣言でもすればニクギュウが大いに悔しがるだろうが、ホワイトはそんなことはしない。

 それは性格の違いによるもの、ではなくまだ警戒を続けていたからだ。


「(魔力の異常がまだ消えて無い)」


 うねるような魔力がまだ周囲に渦巻いている。

 崩壊した砂山からも強烈な魔力を感じられる。


 まだ終わっていない。

 ホワイトのその予感は正しかった。


「さっきのは何だったんだ!?」

「チッ、もう終わっちまったか」

「せっかくの活躍のチャンスだったのに!」

「あいつがアレを倒したのか?」


 大軍がついにここまで辿り着いてしまった。

 魔物が倒されたことにがっかりし、誰もが気を抜いてしまっている。


「皆逃げろ!」


 そうホワイトが叫ぶがもう遅い。


「うわ、うわわわ!」


 突然砂山が崩れ出し、ホワイトは慌ててその場から離れた。

 大量の砂が宙を舞い、ホワイトやニクギュウや大軍の周囲を飛び始める。


「これは……!」


 その勢いが徐々に早まり、彼らの全身を強く打ち付け始めた。


「いでえええええええ!」

「なんだこれは!」

「ぎゃああああ!」


 猛烈な砂嵐が大軍を飲み込み、瞬く間に誰も彼もがあまりの痛みに膝をつく。


「シールド!」


 ホワイトは慌ててシールドを張り砂嵐から身を守ったが、このままでは大軍が全滅してしまう。


「砂を相手にどうしろと!」


 剣で切れるような相手では無いのだ。

 攻撃手段が思いつかない。


「砂……砂……水で固めるのが定番か。でも固めたところでまたそれが襲ってくるだけだ。どうにかして倒さないと」


 形が変わるだけでは、ロークスユルム王国民が攻撃され続けてしまうだろう。

 いかにホワイトとはいえ、数人ならまだしも万単位の人を砂嵐から守るような方法はすぐには思いつかない。


「水がダメなら……そうだ!」


 何かを思いついたホワイトは、おなじみの空気の渦を生み出して一気に上空へと跳んだ。

 そして砂嵐が存在しないところまで辿り着いてから、その範囲を確認する。

 そして複数の空気の渦を事前に生み出し、足場を大量に用意しておく。


「リング・コマンド。水属性」


 敢えてリング・コマンドの使用を口にして気合を入れる。

 選んだのは水魔法。

 だが水魔法だけれど、生み出すのは水ではない。


 集中し、大量の魔力を練り、高め、形作る。 


「アイスコフィン!」


 ホワイトの腕から放たれた魔力が、眼下に大量の氷を生み出した。

 それは次々と大きくなり、大軍を埋め尽くすほどの砂嵐を覆ってしまった。


「さてと、ここからが面倒なんだよね」


 凍らせたことで砂嵐は動くことが出来ない。

 しかもこの氷は単なる氷ではなく、中の存在に魔力的なダメージを与えるものだ。


 暴走する魔力の化身である砂をまとめて凍らせてダメージを与え倒す。

 それがホワイトの考えた方法であった。


 だがもちろんこのやり方にはデメリットがある。


「全員を取り出さないと」


 大軍もまた氷漬けになってしまったのだった。

 幸いにも魔力ダメージは微々たるものだから、慌てずとも中の人が死ぬことは無い。


 とはいえ長時間氷の中に閉じ込められれば重症化してしまうだろう。

 先ほどの砂嵐による物理的なダメージも回復してあげなければならない。


 これが純朴な国民であれば早く救出しなければと強く思ったであろうが、相手は散々悩まされたロークスユルムの戦争バカ達。


「はぁあああああ」


 深い深い溜息を吐きながら、ホワイトはローテンションで彼らの救出作業を開始するのであった。

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