21. 【ロークスユルム】そんなに戦争が好きならたっぷりやれば良い
「久しぶりの戦争だな。腕が鳴るぜ」
「見てろよ。今回は絶対俺が優勝するからな!」
「それは俺のセリフだ。この日の為に頑張って三属性使えるようになったんだからな!これでニクギュウと一緒だぜ!」
「はん。大事なのは一つの属性をどれだけ使いこなせるかだ。中途半端に使えた所で意味ねーよ」
「なんだと!? だったら今ここで試してみるか!?」
「おもしれえ!やってやろうじゃねーか!」
「お、勝負か!いいぞやれやれー!」
「ぶっつぶせー!」
これから戦争に向かうとは思えないくらいに賑やかな大軍が、ゆっくりとサンベールに向かって進軍する。王都から出発したロークスユルム王国軍は、道中で待っている戦士達を吸収して人数を徐々に増やしてゆく。
その先頭を進むのは、もちろんこの国の国王、ニクギュウである。
「チッ」
「なんかニクギュウの野郎、機嫌悪くね?」
「なんでも強い相手を見つけたが逃げられちまったんだとさ」
「逃げるってことは外国の奴か」
「あいつがそんなに執着するってことは、かなり強いんだろうな」
「そいつ今回の戦争に参加しねぇかな。戦ってみてぇ」
「それな」
結局ホワイトを見つけられなかったニクギュウは、イライラを隠せず戦争開始を宣言した。
これだとホワイトがきっかけのように思えるが、流石にそこまで短絡的に予定を決めることはしない。
元々戦争開始の日は決まっており、予定通りに行動しただけだ。
その日こそが絶好の戦争日和であり、面白いことが起こるとニクギュウとニュウギュウの勘がそう言っている。
「そろそろか」
まだイライラは治まらないが、そろそろサンベール最寄りの村に辿り着く。
そこで最後の人員補給をしたならば、後は国境の砦に向かって突撃するだけだ。
戦略も何も無い無謀な突撃。
迎撃する方はとてもやりやすい。
だが人数があまりにも多い。
戦争好きなほぼすべての男性が参加しているのだ。
留守の間に他国から攻められる危険性なんて考えてもいない。
むしろ攻めて王都を奪われたら奪還する楽しみがあるとすら思っている。
ゆえに大軍。
次から次へと押し寄せて相手を人数差で叩き潰す。
それがロークスユルム王国の戦い方だった。
「陛下!陛下!」
「どうした、何があった」
村に着く直前のこと。
戦士の一人が血相を変えて、いや、とても嬉しそうにニクギュウの元にやってきた。
どうでも良い話だが、流石に直接話をする時は陛下呼びで丁寧に話すようだ。
「正体不明の大軍が出現しました。超強そうです!」
「は?」
ロークスユルム王国に攻めてくる国など、周辺国家のいずれかしかない。
いずれの国とも何度も戦争をしており、見間違えるはずがない。
それなのに正体不明の敵軍とは一体何のことだろうか。
「サンベールが攻めて来たのではないのか?」
「いえ違います!見たことのない紋章です!」
「なんだと?」
「あれは稲穂。稲穂の紋章です!」
「稲穂だぁ?」
もちろんそんな紋章を掲げる国など周辺はおろか大陸中にも存在していない。
「よくわからんが、そいつらは何処にいるんだ」
「村のすぐ傍です!」
「は?」
「良く分かりませんが、朝起きたらいました!」
「は??」
ということは夜寝ている間に突然やってきたのだろうか。
しかしいくら夜中とはいえ、すぐ傍まで大軍がやってきて誰も気づかないのだろうか。
戦争間近ということでソワソワして眠れなかったり早起きする男がいてもおかしくないのだ。
「まぁ良い。どこの誰だか知らんが、攻めてきたのならば都合が良い」
丁度全軍でサンベールに攻めようとしているタイミングで戦闘準備は出来ている。
彼らは戦えればそれで良く相手には拘っていないため、ターゲットをその謎の大軍に変更することになった。
「よしお前ら!ちょっと早いが戦争開始だ!つーか、あいつらぜってぇもう突撃してやがる!急がねーと活躍の場が奪われちまうぞ!」
「「「「うおおおおおおおお!」」」」
戦争好きな男達が敵を相手にじっとしていられるはずがない。
伝令に来た男も仲間内での勝負に負けて仕方なく来ただけであり、本当は今すぐにでも突撃したかった。
ニクギュウの号令により、ロークスユルム全軍が突撃を開始する。
ニクギュウを先頭に、戦功は譲らんと言わんばかりに我先に駆けて行く。
そうしてサンベール最寄りの村を通過すると、確かに報告通りに稲穂の紋章を掲げた大軍が待ち受けていた。
「へぇ、強そうじゃねーか。つーかアレ人間か?」
パッと見は明らかに人間なのだが、まるで魔法生物かのように全身が淡く光っている。
「まぁなんでも良いか」
魔法生物だろうが人間だろうが戦えるならば何でも良い。
ニクギュウは巨大な大槌をブンブンと振り回しながら稲穂軍へと突撃した。
「口上なぞ不要!行くぞおらああああああああ!」
大槌が一振りされるたびに、数人の稲穂軍が巻き込まれて消滅する。
これが本物の人間だったら一瞬で血の海になっていたであろう。
「どうしたこんなもんか!」
簡単に倒しているようだが、それはニクギュウが突出して強いから。
稲穂軍の個人の力はロークスユルム軍の強さの平均くらいであり、至る所で状況が拮抗している。
「俺と互角だと!?」
「くらえ!サンダーボルト!」
「うわわわ、シールド!シールド!」
ある者は剣を振るい、ある者は槍で突き、ある者は己の肉体のみで挑み、そしてまたある者は魔法を駆使して相手を打ち倒さんとする。
そこに戦略など無く、ただの暴力が吹き荒れているだけ。
彼らはこれを戦争などと表現しているが、命を懸けた悪趣味なケンカをやっているようなものだった。
「どうだ!俺様に勝てると思う奴はかかって来い!」
そんな中で、やや実力が高く稲穂軍を何人も撃破した棍棒使いの男が、調子に乗って相手を挑発していた。そこに一人の稲穂軍が進み出る。
「そなたに一騎打ちを申し込む!」
「よしきた!誰も手を出すなよ!」
「ちぇっ、いいなー」
「負けたら俺がやるからなー!」
本当に戦争中なのだろうかと思えるほどに呑気なことを言いながら、周囲の男たちはその場を離れて行く。
「参る!」
「来い!」
稲穂軍の男もまた棍棒使いであり、お互いに力任せに打ち合った。
「ふん!ふん!ふん!」
「おりゃ!おりゃ!おりゃ!」
どちらも技なんてものは無く、ただ力任せに殴るだけ。
しかし何度打ち合っても勝敗はつきそうにない。
「はぁ、はぁ、や、やるじゃねーか」
「ふぅ、ふぅ、貴殿もな」
実力が拮抗している強敵が相手でお互い興奮しているようだ。
少しだけ距離を取り、息を整え、次のぶつかり合いに備えた。
「ここから第二ラウンドだぜ!」
そう切り出したのはロークスユルム軍の男。
だが稲穂軍の男がそこにストップをかけた。
「待て、慌てるな」
「あぁ?」
良い感じの雰囲気に水を差されたような気がしてしまい、ロークスユルム軍の男は顔を
そんなロークスユルム軍の男を挑発するかのような表情を浮かべ、稲穂軍の男はある提案をした。
「どうやら貴殿は力自慢らしい。このまま戦い勝負をつけるのも良いが、せっかくだからどちらの方が力が上か勝負してみないか?」
「ほう、おもしれえ。だがどうやる気だ?」
力自慢の男が力勝負を挑まれたとなったら引くわけにはいかない。
稲穂軍の男の提案を喜んで受けてしまうのであった。
「少し待ってろ」
そう言うと稲穂軍の男は地面に小さな円を描いた。
「この中央でお互い向かい合って立ち、正面から両手を組む。そして相手を円の外に押し出した方が勝ちだ」
「なるほど、シンプルで良いな」
「だろ?」
そうして二人の力馬鹿は円の中心で睨みあった。
実はこのような一騎打ちが至る所で行われていた。
「お前のファイアーボール、射程が長くて精度も高い。余程修練を積んだのであろうな」
「だろだろ?」
「だが俺も魔法を飛ばすのは得意なんだ。どうだ、どっちが遠くまで正確に飛ばせるか勝負しねぇか?」
「いいぜ。絶対勝つからな!」
「剣に炎を纏わせるとは、やるな!」
「お前こそ、盾に氷を纏わせてガードするとはやるじゃねーか」
「お互いに属性付与が得意らしいな。どうだ、どっちの方が多くの物に属性付与できるか勝負してみねーか?」
「そりゃあ面白れぇ、のった!」
斬り合うのではなく、殺し合うのではなく、己が得意とすることをぶつけ合う『勝負』。
一部のロークスユルムの男達はそのギリギリの勝負に熱中し始める。
戦争で命を懸けて戦うのが快感であれば、自分が得意とするものを使って同じくそれを得意とする相手をねじ伏せるのもまた大きな快感だ。
もちろん全ての人がこの誘いに乗るとは限らない。あくまでも戦争での命のやり取りにしか興味が無い人は
だがこの戦争を経験し、こんな一騎打ちを挑まれたんだと多くの人が話題にし、興味を持ち、命の奪い合い以外にも強烈な快感を得られるようになったとするならば。
時間はかかるけれど、戦争以外の楽しみが徐々に浸透して行くのかもしれない。
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