20. 【ロークスユルム】鬼ごっこと問答と
「あの野郎!何処に行った!」
逃げ出したホワイトを追い、ニクギュウ国王は街中を探し回っていた。
その様子をホワイトは遠く離れた建物の屋根の上から隠れるように覗いていた。
「しつこいなぁ」
かれこれ一時間程度逃げ回っているが、全く諦めようとしない。
もう少し王都で情報収集をしたいのに、これでは誰かに話を聞くことすらままならない。
「出てこーい!勝負だ!」
その勝負に挑み勝利すれば他の人と同じく色々と教えてくれるかもしれないが、それと引き換えにこの国の王にされてしまう可能性を考えると決して挑めない。
「(王になれば国を変えられるならまだしも、無限に挑まれるだけだもんな)」
それがどういうことなのかは、現国王の様子を見れば良く分かる。
「ニクギュウ王!覚悟!」
「ぬ、かかってくるが良い!」
街を歩いているだけでひっきりなしに戦いを申し込まれるのだ。
国を治めるどころか、国民に反逆され続けるとかどんな国王だ。
「フレイムランス!からの、ライトニングボルト!」
「ほう、二属性を使いこなすか。やるではないか」
国王に挑んだ男性はリング・コマンドを駆使し、炎属性と雷属性の魔法を放った。
属性切り替えの流れはかなりスムーズで、リング・コマンドの使い方をかなり練習したのだろう。
「(練習のおかげで戦争が遅れたけど、今度は練習成果を試すために戦争したいだなんて、良かったんだか悪かったんだか)」
ロークスユルム王国がいつも通りサンベール王国に戦争を仕掛けようと思ったところ、リング・コマンドの情報が入ってきた。もっと強くなれると歓喜したロークスユルム王国民は戦争を取りやめ、リング・コマンドの修練に勤しんだ。
そしてある程度使い慣れたことで、今度はリング・コマンドを活用して戦争に挑みたいと考えている。
「だがまだ甘い!メガトルネーーード!」
「ぎゃああああああああ!」
「(おお、中々やるじゃん)」
巨大な竜巻はダイヤが演じた威力の低い
「(アレで喜ぶのもどうかと思うよ)」
完膚なきまでにやられた男性が愉悦の笑みを浮かべていて超気持ち悪い。
「(負けても喜ぶとか、どうしようもないな)」
勝てばもちろん嬉しいが、負けるのもまた嬉しそうにする。
強敵に出会えた嬉しさか、まだ強くなれる余地があると思っているのか、あるいはただのドMなのか。
「(そういえば最初に戦った男の人も負けて悔しそうだったけど、どことなく嬉しそうでもあったな)」
彼らが勝敗に限らず戦いそのものを楽しんでいることは確実であり、ホワイトは深い深い溜息を吐くのであった。
「見つけたぞー!」
「げ!なんでこの距離で見つかるんだ!?」
かなり離れた上で物陰に隠れながらこっそりと見ているにも関わらず、国王は何度もホワイトの居場所を特定して追ってくる。魔法を使っている形跡は全くないので、異常なまでの野生の勘が働いているとしか思えない。
「ああもう面倒臭い。だれかアレを何とかしてくれ!」
嘆きながらも今度こそしっかりと撒こうとホワイトはその場を離れるのであった。
「や、やっと撒けた。まさか王都の外まで追ってくるだなんて思わなかった」
どこに隠れても必ずホワイトの居場所をかぎつけてやってくる国王がウザくなったホワイトは、一旦王都から出ることにした。しかし国王はそのことにも気付いて単身で追ってきたのだ。
「アレと遊んでいる間に情報収集を終わらせないと」
現在国王は王都の外でホワイトが生み出した魔法生物と戦闘中。
とはいえ良い感じで時間が稼げそうなことに変わりはないので、ムッキムキ同士がバトっている間にと、ホワイトは王都に戻ってきたのだった。
「あれ、女の人だ」
王都は男性だらけでむさ苦しいのだが、珍しく女性が大通りを歩いていた。
他の農村とは違い、流石に王都には少しは女性がいるということなのだろう。
「女の人なら戦いを挑まれないはず」
ただしナンパと勘違いされる可能性があるかもしれない。
いや、この国ならそもそもそういう概念が無さそうなので大丈夫か。
「あの、すいません。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
「あら、わたくしですか?」
「(おや、高貴な感じがするぞ)」
蛮族、もとい戦争好きが集まる国の女性としては珍しく貴族風な反応で珍しく感じた。
「はい。お時間はよろしいでしょうか」
「あらあらまあまあ」
少しおっとりとした感じの女性は、何かに驚いているかのような仕草だ。
「(驚くようなことってあったっけ。この国の男性は女性に興味が無さそうなのに話しかけられたからかな。もしかしたら外国の人ってバレてしまったかも)」
などとホワイトは警戒を強めたが、その女性が驚いたのは男性に声をかけられたからではなかった。
「わたくしの旦那が探していたお方ではありませんか」
「え、旦那?」
「ええ。ニクギュウという名前です」
「(妃様だった!なんでこんなところをうろついてんだよ!)」
そして何故、初対面なのにホワイトがニクギュウの探している人だと知っているのか。
ニクギュウが誰かを探しているのはあれほど騒いでいたから耳に入ってもおかしくは無いが、ホワイトの容姿については分からないはずなのだ。
「ど、どうして私だと?」
「うふふ。なんとなくそうかなって思いまして。わたくしも旦那も勘が良い方なのです」
「(勘が良いってレベルじゃないぞ!)」
野生の勘だけで見破られたらたまったものじゃない。
だが彼女も魔法を使っている形跡が見当たらないので、本当に勘なのだろう。
ホワイトが反応に困っていると、女性は自己紹介をしていないことに気が付いたらしい。
「あら失礼しました。わたくし、ニュウギュウと申します」
「これはこれはご丁寧に。私は歴史学者のグレーと言います」
「うふふ。どうして嘘をつかれるのでしょうか」
「なんのことでしょうか」
「あらあら、わたくしは勘が良い方と申し上げたはずですのに。でも良いわ。理由があるのでしょう。深くは聞きません」
「(もしかして私の正体まで見破っているのかな。そこまでで無かったとしても侮れない。もしこの国が真っ当な国づくりを目指したらかなりの強国になるんじゃないか?)」
物事の真実を『勘』だけで突き止めることが出来ると言うのはあまりにも強い特異技能だ。
上手くいくか失敗するか、勝利するか敗北するか、稼げるか稼げないか、成長するか成長しないか。
それらを『勘』で判断できるのならば何をやっても上手く行く。
しかもあの国王の熱血破天荒さが国民を先導し、冷静な妃がサポートするとなれば万全の態勢だ。
「それほど勘に優れているのなら、今回の戦争の危険性もお気づきになられているはずでは?」
ホワイトは最大限警戒すべき相手と判断したが、まずは率直に意見をぶつけて反応を見ることにした。
「うふふ。危険だなんてそんな。たくさん戦争が出来そうなすばらしい機会じゃないですか」
「…………なるほど」
だから敢えて世界大戦が起きそうなタイミングで戦争を仕掛けてくる。
単にリング・コマンドの成果を試したいだけではないということだった。
「でもそれで多くの人が苦しむことになるのですよ」
「戦争なのだから仕方ないことではなくて?」
ニュウギュウは本気でそう思っているようだった。
戦争だから誰かが傷つくのは仕方ない。
でもその戦争は楽しいから止められない。
それならやはり誰かが傷つくのは仕方ない。
「仮に……仮にですよ。この国が食糧が豊富で、隣国が飢饉に喘いでいるとしたらどうします?」
「支援をするに決まってますわ。人として当然のことでしょう」
「戦争で苦しむ人がいるのは気にしないのに?」
「戦争なのだから仕方ないでしょう?」
「戦争しなければ苦しみませんよ」
「戦いは人として当然のことですから仕方ないことですわ」
「そう……ですか (理屈ではないんだな)」
誰かが苦しむことはダメだと言うのに、誰かを苦しむ戦争を仕掛けようとする。
その大きな矛盾は論理的に説明できるものではない彼ら独特の感性、価値観によるものだ。
ゆえに一般的な倫理観を用いて論破しようとも出来ないし、全く意味が無い行為だ。
彼らが彼らである以上、戦争好きの考え方は変えられない。
「(もうこのくらいで良いだろう)」
彼らの考え方は十分に知識として得られた。
後は戦争を止めるための最後のピースを埋めるべく、目の前の女性から情報を引き出そう。
「妙なことを聞いてしまい申し訳ありません」
「いいえお気になさらず。わたくしも久しぶりに外の方とお話しできて楽しかったですわ」
「(やっぱり外の人間ということはバレてるか。勘とか関係なくこんな質問をしていれば当然か)」
戦争を否定するような人間はこの国内には北部の極一部を除いて居ないのだから。
「そう言ってもらえると助かります。ではお言葉に甘えて、もう一つお聞きしたいことがあるのですが」
「あら、何かしら」
「どうして国境に兵士などを配置していないのでしょうか。あのままでは攻められ放題ですよ」
それこそがホワイトが王都で一番確認したいことだった。
「うふふ。そんなの決まってますわ。攻めてくれれば戦争出来るじゃないですか」
なんと戦争を誘発するために国境をフリーにしているのであった。
そうではないかとホワイトも周辺国も薄々感じてはいたが、実際に断言されると『頭おかしいんじゃないかこいつら』と改めて思ってしまうのであった。
「では迎撃戦も好みと」
「戦争が出来るのであれば形は好みませんわ」
「なるほど、ありがとうございます」
「良く分かりませんが、お役に立てたのであれば良かったわ」
「はい、とても役に立ちました。私だけでなく、皆さんにとっても」
「?」
これでこの国を止めるための道筋が見えた。
後は急いでその準備をするだけだ。
しかし。
「見つけたぞーーーー!」
「うっそ、まさかアレ倒したのか!?」
「あなたー!」
ボロボロになった国王が王都に戻り、また追いかけっこが始まってしまうのであった。
「わたくしもお手伝いいたしますわ」
「やめてー!」
しかも鬼が二人に増えてしまうのであった。
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