12. 星座魔法は便利だなー
「未知の魔物が出現しました!」
ホワイトと国王の会談中に飛び込んできたニュース。
それは魔物の出現についてだった。
近衛兵等と共に会談部屋までやってきた伝令の様子は緊張感たっぷりだ。
国王と話をすることに緊張しているのか、それともホワイトと国王の会談を中断させてしまったことを咎められないかと心配しているのか、あるいは魔物について恐怖しているのか。
何が原因で緊張しているのかは分からないが、そのただならぬ様子に彼の緊張が伝染してもおかしくは無い。
だが国王は全く狼狽えることなく、伝令を窘めた。
「何を狼狽えておる。訓練通りに対処せい」
サンベール王国には魔物が出現した時の対処マニュアルが用意されており、日頃からそのマニュアルに沿って訓練をしている。これまでも魔物が出現するたびにその手順に従い対応し、被害をほとんど出さずに魔物を駆逐出来ていた。
それなのに何故慌てて国王の会談を中断させてまで報告するような事態になってしまっているのか。
「そ、それが、魔法が効かず、物理で攻撃しようにも騎士団の多くは国境付近に待機中。遊撃部隊も魔物出現場所より遠く到着に時間がかかる模様。このままでは近隣の村が襲われてしまいます!」
「ふむ、現地の住民の避難状況は?」
「は!すでに開始しております!」
「よくやった。報告してきたのは誰だ」
「ラッカス村の常駐騎士でございます! 巡回中に魔物を見つけ、即座に村人を避難させたと報告を受けております」
「さぼらず真面目に巡回をしていた成果か、後で労ってやらねば」
常駐騎士と言っても、正式な騎士では無い。
地方の村々の中で有事の際に指示する者を決め、その役職を常駐騎士と呼んでいるに過ぎない。
常駐騎士の役割は、魔物などの危険が無いかを毎日巡回して確認することや、魔物を見かけた際にその旨を支給された魔道具を使って王都に連絡することなど。農家などと兼任の者が多く、平和な毎日が続くとつい巡回をサボってしまいがちなのだが、どうやらラッカス村の常駐騎士は真面目に仕事をしていたらしい。
「だが恐れていたことが起こってしまったな」
近隣諸国との緊張が高まっているため、戦える人材は国境付近に配置しておかなければならない。だがそれでは国内に魔物が出現した時に対処出来なくなるため、遊撃部隊と称して部隊を残してあるのだが、数少ない部隊では広い国内全域をカバーすることが出来ない。そのため魔法学園と連携して、緊急の場合は力を借りることになっているのだが、魔法が効かないとなれば支援を要請する意味が無い。
「私が行きます」
「……すまん」
「謝らないでください。元々私が全部倒しきるつもりだったのですから」
とはいえ、ホワイトがサンベールで魔物を倒したのは、まだクロ学園長を助けた時の魔法師殺しだけだ。このタイミングで出現したのは単なる偶然だろう。
「しかし今から向かったとして間に合うのか?」
「間に合います」
王都から魔物出現地点まで急いで移動したとしても、魔物が人里を襲うまでに間に合わないと国王は感じていたのだが、ホワイトはそうではないと断言した。
「魔物が出現した場所を教えてください。今はまだ人里から離れた所にいますよね」
「は、はい! あれ?」
伝令は、どうして人里から離れた所に魔物がいるなどと分かるのか、と疑問に思ってしまったようだ。
その疑問の答えはとてもシンプルなものだった。
「人里の近くに魔物が出現したら分かるようにしてあるんです」
「え?」
自分が魔物を倒すと言っても、魔物が町や村の近くに出現したら、魔物出現の報告を受けるまでの間にそれらが攻撃されてしまうかもしれない。それゆえホワイトはサンベール国内の村、町、王都、そして街道などの人が行き来するであろう場所にはすべてマークをし、魔物の出現を感知したらすぐに向かえるようにしてあったのだ。
今回その感知が無かったということは、人が訪れない場所に魔物が出現したということになる。だからホワイトは全く焦っていなかった。
「何をどうしたらそんなことが。いや、今はそれよりも対処する方が先だ。詳しい場所を言え」
色々と疑問は尽きないが、今そのことについて詳しく確認している暇はない。
国王は質問しようと出かかった言葉をぐっと堪え、伝令に具体的な場所を説明するように促した。
「魔物はレイロンド湿原に出現しました」
「サンベール南西のレイロンド湿原。確かその手前にミットレッズ渓谷がありますね。遊撃部隊が到着に時間がかかるというのは、そこを迂回しなければならないからですか?」
「は、はい。そうです」
スラスラとホワイトが王国の地理について説明するため伝令は驚いているようだ。
ホワイトの頭の中にはサンベール王国の地図が叩き込まれている。それはこの国に来てから学んだことでは無く、島を出る前から知っていたこと。これもまた師匠に徹底的に叩き込まれた結果である。もちろん叩き込まれたのはサンベールだけではない。
「厄介な場所に出てきたものだ……」
レイロンド湿原は直線距離で考えると王都からそう遠い訳では無い。
しかしその途中にミットレッズ渓谷と呼ばれる深く広い谷が広がっており、西か南に大きく迂回しなければならない。遊撃部隊が現在どこに位置しているかは分からないが、少なくとも渓谷の向こう側には居ないということなのだろう。
「ホワイト殿はどのようにして現地に向かうつもりか?」
国王の質問に、ホワイトはとある要望をセットで回答した。
「飛んでいきます。大きな窓か、バルコニーはありませんか?」
「と、飛ぶ!? バルコニーならあるが……」
「ではそこから向かおうと思いますので、案内をお願いできないでしょうか」
「う、うむ」
風魔法を使えば体を浮かせることは可能だ。
だがそれを長時間続けるのは魔力がいくらあっても足りず、王都から現地どころか渓谷を渡り切るのも難しい。いくらホワイトが規格外だと言っても流石に無理だろう。
そんな国王の懸念などどこ吹く風で、ホワイトは案内に従ってバルコニーに向かっていた。
「眺めが良いですね」
バルコニーからは城下町が一望でき、屋根などの青空を遮るものは何もなかった。
ホワイトにとって、これから使用する魔法を使いやすい最適な環境であった。
「では陛下、皆さん。少々離れてください。それと驚いて攻撃とかしないでくださいね」
「は?」
抜けた声は国王のものだったのか、誰のものだったのか。
何が起こるのか分からず困惑する王城の者達をよそに、ホワイトは指先に魔力を集めて行く。
そして空を見上げると、そこに『星空』を夢想した。
昼だから見えない星空がそこにあると仮定し、淡く光る指先を星々に沿って走らせる。
その動きは時に繊細に、時に大胆に、物凄いスピードで広範囲に何かを描いて行く。
「なんだ!?」
ホワイトが空から指を降ろすと、宙に漂う魔力が燦燦と輝き出す。
それはゆっくりと色をつけ、形を成し、ついには一匹の光る大きな鳥が生み出された。
「
これこそがホワイトが最も得意とする星座魔法。
魔力を纏った指で星空をなぞり星座を作り出すと、その星座が実体化する。
夜空に浮かぶ無数の星々からは、何をイメージして何を星座とするのかは自由である。
つまり生み出せる物に無限の可能性があるということだ。
「な……な……」
あまりのことに王城の者達は言葉を失っていた。
クロ学園長も巨大な生物を魔法で生み出せると知られているが、実際に見たことがある人は少ない。
それと似たようなことをやってのけたホワイトの魔法に驚き慄くのは当然のことであろう。
「それでは行ってきます」
突如出現した巨大な魔鳥に唖然とする国王達をよそに、ホワイトは魔鳥の背中にひょいと乗った。
そしてそのまま魔鳥は大きく羽ばたき、上空へと舞い上がった。
王城の上空をぐるりと旋回していた魔鳥だが、ある程度の高度に達した後にある方角に向かって進み出した。
「レイロンド湿原はあっちかな」
空を飛べば渓谷など関係なく真っすぐ目的地に向かうことが出来る。
ひんやりと心地良い風を感じながら、ホワイトは魔鳥に乗って魔物討伐へと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます