09
「ここ、まるで別の世界みたいね」
「うん、さっきまで暑かったのに本当に涼しい」
「なにで知ったの? ふらふら歩いていた結果?」
「ううん、昨日の夜いっぱい時間を使って調べた結果かな」
そんなデートではないのだから頑張りすぎだろう。
もっと緩くいけばいい、ちゃんと付き合うから弱ってしまう可能性を少しでもゼロにするべきだ。
「本とかも一応持ってきたけどいらないわね」
「え、それは最初からいらないでしょ」
「そう? 流石のあんたもずっと喋っておくのは疲れるだろうから持ってきたんだけどね」
まあ、ベンチもあって目の前の景色もいいからゆっくりして帰るだけだ。
あ、ご飯についてはなんか張り切って準備したみたいだからそれを食べさせてもらうことになる。
「あ、そういえば朝早くに結愛ちゃんからメッセージが送られてきていてね、尚代ちゃんとお出かけするんだって」
「あの二人なら普通に映画を観たりして過ごしそうね」
その後はご飯を食べてからウィンドウショッピング、といったところか。
あの二人は何回もお互いの家で過ごしているだろうからあっさりと外にいるのをやめて二人しかいない部屋でいちゃいちゃする可能性はある。
ただ? 一応尚代は私のことが気になっていたみたいだから切り替えるのに時間はいるかもしれない、だから尚代次第で変わってくるわけだ。
「まあ、ここはいいけど他の場所は本当に九月なのかって言いたくなるぐらいには暑いから屋内の方がいいよね。冷房なんかも効いているし、なによりトイレにいきたくなってもすぐにいける」
「ここにもあるじゃない」
「そうだけどさっきいったときにあんまり奇麗じゃないってわかったんだよ、夜だったら軽くホラーだよ」
「夜にいくことはないからね」
あ、やばい、こういうのはフラグになって彼女が「それならよるまでここにいよう」とか言いかねないから避けるべきだ。
付き合うとは言っていても限度がある、夕方頃に解散にしてもらうためにも気を付けなければならない。
「あとこれをあげる」
「全く繋がっていないけどまあ、ありがと」
い、いまどきなんでも言うこと券とか渡す子がいたのか。
仮にこれを使うとしたら……くっついてきているときに離れてほしいとかそういうことで消費すると思う、それ以外のなにかで消費している自分は想像できなかった。
「誕生日プレゼントだからね?」
「それはわかるわよ、だっていきなりそれ以外の理由でこんなのを渡されても困るじゃない」
あと既にある程度の仲だからいいけどそうではなかったら一生ただの紙切れとして存在しておくだけになったからまだマシだろう。
「え、困らないでしょ、千夏さんから貰えたらなにに使うかで悩むだろうけど」
「つか、なんで私だけさん付けなのよ? 呼び捨てかちゃん付けでいいじゃない」
「え、千夏さんは千夏さんだよ」
別に呼び捨てにされたって怒ったりはしないけどね。
それどころか一人だけさん付けで呼ばれていると疎外感があって寂しい。
結愛だって薫ちゃん、尚代ちゃんと呼んでおきながら千夏さんだからね。
「でもね、本人が望む呼び方の方がいいだろうから頑張るよ、千夏!」
「それでお願いね」
「やっぱり千夏さんは千夏さんだ」
「なんじゃそりゃ」
この子は唐突すぎるし、やはり直前のそれと繋がっていない。
でも、本人が望むなら云々はこちらもそうだからこれ以上は求められなかった。
「ね、いい?」
「手を繋ぐぐらいならね」
「うん、これ好きになったんだ」
暑いだけなのによくやる。
なにかが満たされたのか少しの間は会話がなかった。
これからもこういう時間が増えるとなるとできれば色々なところに意識を向けられる外で集まった方がいい気がする。
私の部屋でも彼女の部屋でも代わり映えがしなくて退屈とまではいかなくてもなんなのかとツッコミたくなる時間が増えそうだからね。
「好き」
「そ」
ま、手を繋いでいる状態からこれに繋がらないわけがない。
もういまとなってはアラームかとツッコミたくなるぐらいには一日に一回必ず言ってくるから慣れっこだった。
寧ろこれが聞けなくなったらそのときは終わりということだ、地味に安心できているから嫌ではないなら続けてほしいところだったりもする。
「なんか誰にも見られない場所にいきたくなっちゃった、あそこのトイレで……どう?」
「は? なんの話?」
「き、キス」
「それは駄目、だってまだ付き合っているわけじゃないでしょ」
「あとは千夏さんがはっきりするだけだよ?」
うっ、正論だからなんとも言えなくなった……。
「トイレでするぐらいならここでした方がマシね。さ、するわよ?」
「え゛」
「大丈夫、さっと終わらせればなにも問題はないわよ」
固まっている間に済ませておいた。
別に前回と同じで恥ずかしくなったりはしないけど外でなにをしているのかと言いたくなる。
こんなところを尚代達に見られていたら流石にノーダメージとは――いかなかった。
「これもあんたの作戦? って、おーい?」
「今日は薫と話し合ってこうなったわけじゃないよ」
「じゃあ偶然、というわけでもないんでしょ? 家とかで遊んでいたのならともかくこうして離れた場所にいたんだから」
「うん、結愛には話していたからそれを教えてもらったてここに来たんだ」
その結愛は? と聞いてみるとどうやら少し遅れているだけで一緒に来ているらしい。
だったらもう四人で過ごせばいいから回収してしまうことにした、何故かヘロヘロだった。
相方はヘラヘラしていたからあんたが理由なのかと聞いてみると「ただ暑さに参っているだけだよ」と、暑さに弱いことを知っているのなら考えてあげなさいよとぶつけておく。
「千夏、確かに私は千夏を諦めたけど隠し事をするのは駄目だからね? どこかに遊びにいくならちゃんと言って」
「あんたは私のお母さんなの?」
いや、母だってそんなことを求めたりはしない。
まあ、それは私がちゃんと言うようにしているからだとしてもだ。
「あなたのことが好きな友達だよ」
「ちょ、考えてあげなさいよ」
「だってこれは本当のことだから」
弱っているのをいいことに自由にやりすぎだ。
怖くなって結愛の方を見てみたら「気にしなくていいよ」と無表情で言われてしまって余計に駄目になった。
このコンビはこちらを簡単に圧倒できるのだからもう少しぐらいは気を付けてもらいたいところだ。
「や、やっと戻ってこられた、もう千夏さん!」
「あんたが求めて私は応えたんだから寧ろ感謝しなさいよ」
「そうだよ薫、外でも頼めば気にせずにやってくれるなんて幸せ者だよ、これで文句を言うなんて贅沢だよ」
「うっ……尚代ちゃんにそう言われるとどうしようもなくなる……」
だからそこについては同じということだ。
これから先、それをどうやって避けていくのかでいくらでも変わってしまうことだった。
「うぅ、どこにいっちゃったんだろう」
「あんたお母さんから貰った物を失くすんじゃないわよ」
「貰って大事な物だったからこそいつも肌身離さず持って出ていたのが逆効果になっちゃった」
この前だって「お気に入りのぬいぐるみがどこかにいっちゃった!」とか言って慌てていたのになにをしているのか。
「最近は家と学校と千夏さんのお家にしかいっていないから道路かどっちかってなるけど……」
「ならまずは私の家で探しましょ」
「うん、あるといいなあ」
鞄の中からなにか出したりするときはほとんど部屋だからまずは私の部屋を確認、
「あった!」
「あ、これ?」
するとあっさり見つかってしまったようだった。
しかもなんだこれ? となって一時間ぐらい悩んでしまったアイテムだった。
だってただの紙だったから、しかも『ありがとう』とだけ書かれた物だったから余計に気になってしまったのだ。
「これはね、僕が頑張っていたときにお母さんがくれたものなんだ」
「へ、へー」
手紙みたいになっているのならともかくお礼を言いたいだけなら直接言えばいいような……。
「ただこれ本当はもっと縦に長かったんだよ?」
「そ、そうなの?」
「うん、天井に届くとまでは言えないけど本当に長くて許可を貰ってからここだけ切らせてもらったんだ」
お、親子で似ているのはいいことではないだろうか。
あるのかどうかはわからないけど少なくとも疑う必要はなくなる、あと血が繋がっていることもいちいち正式な手段で確かめる必要もない。
「そうだっ、僕も千夏さんに手紙を書きたいな」
「書けばいいじゃない、私だって内容によってはちゃんと返してあげるわよ?」
「好きっ」
「ふっ、はいはい」
いや、こういうのも先にやられるとぐわあとなりそうだから先手を打とうか。
自分の部屋なのもあって自由に使えるからささっと書いて渡しておいた、流石に今回は恥ずかしくなってきて廊下に逃げた。
でも、キスだって平気でできるのに手紙を書いたぐらいで恥ずかしがるのは馬鹿ではないだろうか? と今回も冷静になってすぐに戻ったけど。
「ほー最初から意外と一方通行って感じじゃなかったのかな?」
「そりゃあね――あ、ただ初対面のときは意味がわからなかったわ」
「ふふ、最初はあれぐらいの方が興味を持たれやすいんだよ、計算してやったわけじゃないけどね」
「一番は褒めてくるから切ったなんて言われたときね」
「あー……あれはもうやばいよね」
普通にやばい、あとあのまま貫くようなら私とだってこうはなっていなかった。
「でも、結愛はなんで尚代なのかしら、普通は薫に対して頑張ろうとなるところでしょ?」
「僕は途中から友達になっただけで尚代ちゃんとはずっと前々からいたみたいだからね、そこでなにかがあったんだよ」
結局本人達ではないからここから変わらないか。
それでもこれからもこういう話を何回も繰り返しそうだった。
「それよりもさあっ、初めて名前で呼んでくれたよね!?」
「名前呼びでいいでしょという話をしたときに呼んでいなかったけ?」
うん、呼んでいた、そうでもなければもうそれでいいでしょなんて言っていない。
「それは流れでたまたまそうなっただけでしょ、だけど今回は違うんだ!」
「大袈裟ね――きゃ!?」
ぐはっ、地味に勢いがあって頭にダメージが……。
まああれか、私がはっきりしないでそれっぽいことばかりをしているからとうとう我慢ができなくなったということか。
これは私が悪い、だけど頭を強く打ったら最悪の場合は死ぬから好きな相手を殺さないためにも弱めるべきだと思う。
押し倒すとしても優しくやるとかね、あとは許可を取ってからやるとかいくらでもやりようはあるのだから。
「もう離さないから。しかも最後のあれ、好きだと言ってくれているのと同じだよね?」
「後頭部をぶつけたら普通に痛いんだからもうそれでいいけど押し倒すのはやめなさいよ……」
「あ、それはごめん」
「あと、キスとかだってしているんだからそりゃ私もあんたのことが好きに決まっているじゃない」
そうでもないのにしたりなんかはしない、漫画みたいに事故で唇同士がくっついてしまうなんてことは現実にないのだ。
「きゃわいい!」
「いや誰よあんた」
「岡田薫だよ!」
律儀に自己紹介をされても困る、キャラが壊れていたから言わせてもらっただけだからね。
「いまだから言うけど夏休みだって本当は寂しかったわよ」
「うっ、約束を守れたのはいいけど誕生日をお祝いできなかったことがいつまでも頭の中でぐるぐると……」
「いやそれはどうでもいいわよ」
「本人にも気を使わせてしまって悪い人間だ僕は……」
だって両親は普通におめでとうと言ってくれて美味しいご飯も食べられたから本当に気にしていない。
私が言いたいのは彼女がはっきりするまでの夏休みのことだ。
「ほら、ちゃんと切り替えて」
「うん」
「で、どうする? 大切な物も見つかったし、このままここでバカップルみたいなことをしていてもアレだから外にでもいく?」
外でも好き合っている二人がいれば変わらない気がするけど朝から部屋で甘々な雰囲気に包まれながらいるよりは健全な時間になる気がする。
「それなら手を繋ぎながら歩いてみんなに見せつけたい」
「そのみんなは全く見ていないだろうけどあんたがやりたいならそれでいいわよ」
「大好き!」
「ぐはっ!?」
なんでこう獲物を見つけた獣みたいに毎回飛びついてくるのか。
じゃれている間に至るところが痛くなりそうだった。
で、外は依然として暑いのに手を繋ぎながら歩いていても大して気になったりはしなかった。
この子が丁度いい体温なのも大きいかな。
「結愛ちゃんと尚代ちゃんに自慢をしにいこう」
「ま、ちゃんと連絡をしてからね」
「うん」
片手で器用にやるものだ。
少しでも離したくないというそれが伝わってきてなんか……。
「ぐえ、ど、どうしたの?」
「あんたと二人でいたいから今日はいいわよ」
「え、えー!?」
「ほら、それでも帰ることはしないであげるからいくわよ」
それから一時間ぐらい歩いて流石に汗をかいたから家に帰ってシャワーを浴びることにした。
シャワーのくせに二人で入るという最高に馬鹿なことをして、これならあのまま家にいた方がよかったという結果になった。
「抱きしめ合いながらお昼寝をしよー」
「じゃ、反対を向くから自由にやりなさい」
「ふふふ、無防備な背中だね、僕がその気になったらお嬢さんなんてあっという間に食べちゃうんだよ?」
「好きにすればいいわ」
「え!?」
ふっ、結局押しておけばすぐに慌てて固まるから楽勝だ――と考えれていたのはここまでで本当に自由にしてきて困った。
しかもなにがアレかって所謂いちゃいちゃしているところに早めに帰宅した母が突撃をしてきたことだ。
反省もしないで薫は母と楽し気に話をしているだけだし、一人恥ずかしい状態になった私は縮まっておくことしかできなかった。
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