08

「千夏さんまだ起きているかな?」

「……あんたがそうやって話しかけてきていたらいつまで経っても寝られないわよ」


 ここでも嫌がらせをしてくるなんて――なんてのはいいとしても先程からずっとこれで寝られないのは確かなことだった。


「あはは、ごめんね」

「謝らなくてもいいけど、なに?」

「倉本さんのことを考えて黙っていたわけだけどちゃんと言えばよかったなって、だって本当に気にしてもらいたいのは千夏さんにだったんだからさ」

「はいはい、夜中まで頑張ろうとしなくていいから」


 そんなの朝とか昼でいいだろう。

 ここで頑張ったところでそういう時間に眠気がやってきて本当にしたいことができなくなるからやめておいた方がいい。


「ううん、頑張りたい、だって十日も一緒に過ごせていないんだよ?」

「私は暇人で拒絶していたわけじゃないからあんたのせいだけどね」

「だからこそだよ」

「あんた――それはありなの?」

「一緒に寝たい」


 ま、これでなにかが満たされて話しかけられなくなるならいいか――などと考えられていたのはここまでで実際は我慢してきたものを全て吐き出すかのように話しかけてきて結局寝ることができなかった。

 徹夜なんてもうしないと決めていたはずなのにまたすることになってしまった、自分の意思でしたわけではないことがいいことなのか悪いことなのかどちらなのかがわからない。


「いっぱい喋っちゃったね」

「あんたがね、歯を磨いたりしたいからこれで帰る――あんたそんなのも持ってきたの?」

「お母さんが言う前に渡してくれたんだ」


 なにか勘違いされていないといいんだけどね。

 私達は別にただ友達というだけで好き合っているとかではないのだ。

 しかもこの子ときたら前に想像していた通り、こちらが期待をするようになってから放置する酷い子だ。


「ご飯は外に食べにいこう」

「パンでいいわよパンで、貰うのも悪いから家に帰って食べるわ」

「それなら菓子パンなんかを買って公園で食べよう」


 意地を張りたいお年頃か。

 ま、一人でいてもつまらないから利用させてもらおう。


「これ、美味しいから千夏さんにも食べてほしかったんだ」

「嫌いな物じゃないならなんでも美味しく感じるけどね」


 まあ、悪くない。

 壁やテレビなんかを見ながら食べる食事もいいけど外で食べるのもいいかもしれない。

 真夏でもこれぐらいの時間帯なら暑いわけでもないし、また誘われたら付いていこうと思う。


「千夏さん」

「なによ?」

「僕は千夏さんのことが好きなんだ」


 またそういうのか。


「はぁ、寝るときもそうだけどちょっと我慢をするということができないの? 食べながら言うことではないでしょう?」

「だってこれを食べたら帰っちゃいそうだったから」

「こうして付いてきているんだから付き合うわよ、昨日のはあまりにも酷すぎたから帰ることを選んだだけでね」


 これを信じられないならそこ止まりだ。

 好きというのもただの勘違いで他の子に対して時間を使った方がいいということになる。


「食べ終えたら海にでもいきましょ」

「え、いく!」

「水着も持ってね、一回ぐらいはそういうのがあってもいいでしょ」


 ちゃんと飲み物も忘れずに持って歩こう。

 今回は急いでいきたかったのか別行動を望んだからささっといって持ってきた。


「じゃーん!」

「あんたの家の前なんだけど」


 こうして全く関係のないところで脱いでいるのを見ると痴女に見える。

 ただ友達にそうはなってほしくないから止めるだけだ。


「いやせっかく買ったからまたこの姿になれる機会をくれてありがとうって言いたくて」

「いいからちゃんと服を着て、脱ぐなら向こうで脱いで」

「はーい」


 海に着く前からハイテンションすぎて疲れてしまうなんてこともなくそう体力も消費しないでいくことができた。

 人が少しいるから逆に落ち着ける、着替えるのもそう難しくはないからささっと着替えた。


「じゃあもう一回、じゃーん!」

「いいじゃん」

「あっ、ふふふ、珍しい千夏さんを見られて幸せ~」

「やめて、謝るからそんなことを言わないで」


 おかしいのはこちらも同じか。

 入ることはしないままで水に触れていると段々と落ち着いてきた。

 終わるまでにこうして一緒に過ごせてよかったかなと、そう思えてきた。


「でも、ちょっと流されかけたって聞いたけど」

「ん? いまこうしてあんたの前にいるじゃない」


 実際に流されていたらこんなに悠長にはしていられない、それはもう酷い顔になって助けてくれと叫んでいることだろう。

 でも、一瞬の恥よりも助かって生き続けることの方が大事だからそんなのはどうでもいいことだ。


「倉本さんから細かく教えてもらったんだよ、そうしたら流されかけていたって」

「結愛と尚代次第だって言ったのは本当のことね」

「そう考えると倉本さんに自由にやられてしまった感じだよね」

「それはそうよ」


 岡田があのタイミングで突撃してきていなかったら本当にどうなっていたのかはわからない。

 最悪の場合は結愛に敵視だけされて終わるなんて可能性も……うぅ、夏なのに寒くなってきた。

 とはいえ、水着姿で肌を晒しているのもあってすぐに暑くなって日陰に逃げたけど。


「つかあんたもなに言うこと聞いて距離作ってんのよ、好きならちゃんと側にいなさいよ」

「安心できない?」

「そうよ、安定して一緒にいられないと嫌よ」

「これからは絶対に離れない、トイレにも付いていくから安心してね」


 それぞれの家で暮らしている限りは、自由に外出もできる限りは裏でなにをされているのかなんてわからないままだから駄目だ。

 ずっと見ておく必要がある、それを叶えるためには、


「ならもう家族になりさいよ」


 これしかない。

 私のことが好きならずっと一緒にいられるようになるわけだから抵抗したりはしないはずだ。


「家族だったらお付き合いできないから嫌ー」

「結局それぐらいの覚悟だってことね、もういいわ」

「帰ろうとしないでー」


 相変わらず力が強い。

 この暑さにも負けずにちゃんと食べられているようで安心できた。




「おかしい、もう夏休みが残っていないよ?」

「そうね、制服を着て出てきているのにおかしな発言ね」

「うわーんっ、なんでこんなに短いんだー!」

「短くしたのはあんただけどね」


 今日は始業式だけだからさっさと連れていってしまおう。

 教室からもわざわざ離れたりはしないで大人しくしていたらあっという間だった。

 ご飯をどうするのかで悩んでいたときに後ろから急にぎゅっと抱きしめられて意識を持っていかれる。


「あ、ごめん、抱きしめるつもりはなかったんだけどね」

「尚代か、久しぶりじゃない」


 腕の時点で違う気がしたからこれについては違和感もない。


「お祭りの日から会っていないだけだから久しぶりでもないでしょ」

「それよりあんたよくもやってくれたわね」

「はははっ、あともう少しだけ時間を貰えれば伊波を奪えていたんだけどね、ヒロインが頑張っちゃったみたいで失敗しちゃった」

「あんた結愛が来るかもしれないこんな場所で――」


 ひぇぇ、無表情でこちらを見てきている、あと味方をしてもらおうと思っていた岡田も真似をしている……。


「千夏さんは尚代ちゃんと仲がいいよね」

「ゆ、結愛、誤解しないでよ?」

「別にいいよ、私は尚代ちゃんに自由に行動してもらいたいからね」


 目が笑っていない……。


「あ、でも、薫ちゃんが困っているみたいだから相手をしてあげたらどうかな?」

「そ、そうね、お腹も空いてきたし岡田と帰ることにするわ」

「また明日から頑張ろうね」

「ふぅ、そうね、暑いけど頑張りましょ」


 やられる前に離脱できてよかったとかなんとか考えつつ転びそうになったアホな人間がここにいる。


「私は獲物かなんかなの?」

「……浮気した」


 こっちが好きだとぶつけている状態でも――いやそれでも勘違いはできないはずだ。


「あんた見ていたんでしょ? だったら私の意思でああなったわけじゃないことがすぐわかるでしょ」

「尚代ちゃんに甘くない?」

「名前で呼び始めたの? あんたまたこそこそしてんのね」


 それこそ誤解をされたくないのならそういうことをやめるべきだと思うけど。

 というか、まだ一ヵ月も経過していない状態でよく似たようなことをできるものだ。

 私が傾きかけているみたいな想像からの余裕だとしたらそれは間違っているとしか言いようがない。


「本当はこそこそと尚代ちゃんと仲良くしているんじゃないの?」

「結愛がいるのにそんなことできるわけがないじゃない。いいからいくわよ、なにか食べにいきましょ?」

「それなら僕が作るよ」

「いいの? それなら食べさせてもらおうかしら」


 と言いつつもお世話になりすぎているから家に来てもらって食べてもらうことにした。

 食べさせてもらう側よりも少し緊張するけど自分の家の食材だから気にせずに食べられることが大きい。


「いっただっきまーすっ、あむ!」

「いただきます」


 なにか食べられればすぐに食欲なんか収まるから飲食店にいってお金を消費するよりもいい時間となった。


「美味しいっ――ふと気になったんだけど千夏さんの誕生日っていつ?」

「八月五日ね」


 全く繋がっていないけどそういうことになる。

 母が美味しいご飯を作ってくれたからいい一日だった、あの日は岡田のことも忘れて楽しんでいた。


「ぶへえ!?」

「あんた汚いわよ……」


 一応言っておくとその日だって家にいったのに無理だと断られたことになる。

 誕生日云々の前に門前払いを食らえばそこで終わりだ、これは私にはどうしようもなかった件だ。


「え、じゃ、じゃあ……尚代ちゃんとの約束を守ったことでそもそもお誕生日がいつなのかも知ることができずに一年目のそれを終えてしまった……と?」

「そうなるわね、そもそも来年のこの時期に一緒にいるのかどうかもわからないけど」

「なにをやっていたんだ僕は!」


 だから尚代との約束を守ってこちらの誘いを断っていたわけで。


「いまだから言うけど放置されて寂しかったわねえ」


 実際は断られて寂しかっただけでそこまでではないから安心してくれていい。

 強がりでもなんでもなくあのまま結愛を選ぶようならおめでとうと言わせてもらっていた。

 だって最初から岡田がどうこうではなくて結愛がどうこうという考えでしかいなかったから。


「ぐばあ!?」

「ま、もう終わったことだからそれはいいわよ」


 明日から普通に授業ありの学校だからちゃんと休んでおきたい。

 暑くても弱ることなく七、八月は乗り越えられたから九月も頑張る。


「よくないよっ、食べ終わったらお店にいこう!」

「いかないわよ、もうこうして休んでしまったら動きたくないもの」

「駄目だからねっ、洗い物はちゃんとやるから言うことを聞いて!」


 いやそれでもいかない、だって私は文房具セットしかあげられていない。

 自分の誕生日のときにもっと欲を出してくれていたらそれでもよかったけどそれがなかったのだからとにかく駄目だ。

 洗い物をやらすと負けて許したみたいに見えるからそれすらもやらせず、終わったら床に寝転んでいかないことを行動で示していく。


「いーくーよー」

「無理よ」

「じゃあもう帰るからっ」

「お好きにどうぞ」


 学校が始まったいまとなってはちゃんと登校をして授業を受けられればそれでいい。

 最近は暑いとか関係なく放課後の教室に残っていたいから一人になった場合気にせずにゆっくりできることがいい。

 いまとなってはもう結愛に対して頑張ることはできないけどまたすぐに気になる存在というのは現れるだろうから少し待っておけばいいのだ。


「もう怒ったからっ」

「で、ここからなにをするつもりなの?」


 こんなに至近距離で見つめたってなにかが出たりはしない。

 出ても二酸化炭素ぐらいか、木でもないからなにも生きないし無駄な時間にしかならないと思うけど。


「もうこうなったらキスをして決めちゃおうかな」

「やってみなさい――んー!?」


 ちゅ、躊躇がなさすぎるっ。

 慌てて押しのけて距離を作ると「煽っておいて被害者面は駄目だよ?」と真剣な顔で追加攻撃をしてくれた。


「さ、さっきっ」

「うん、キスをしたね」


 物忘れをしやすい人だってこの一瞬で忘れたりなんかはしない。


「そうじゃなくて、ご飯を食べてから歯も磨いていないでしょうが馬鹿!」

「ぶへらあ!?」

「もう知らないわ!」


 と、落ち着け落ち着け、自分のペースをちゃんと守ればいい。

 一つ深呼吸をして落ち着かせる、廊下に出て距離ができたのもあって間違いなく効果はあった。


「落ち着いたわ、叫んだことでお腹が空いたからお菓子でも食べましょ」

「えぇ」

「私に期待をして求めすぎないようにね、そんなことをしてもがっかりしてどうでもよくなっちゃうだけだから」


 お菓子は凄く美味しい。

 ご飯を食べたばかりなのにこれだと過剰だけどまあこれから頑張らなければいけないからと正当化して食べ続けていた。

 そうしたらお客さんの彼女の分も食べてしまったから買うために家をあとにする、自然と岡田は付いてきてくれたから欲しい物を聞いて会計を済ませた。


「えっと、名前なんだっけ?」

「え、薫だ――」

「そう、薫よね。これからは名前で呼ぶわ、あんなことだってしたのにここで抵抗をしていてもただの馬鹿だからね。あ、ただ言っておくけどね、あんなことをしておきながらいまから他の子のところにいったら怒るからね? それだけはちゃんと守りなさい」


 よし、これでいい。

 立っているだけで汗をかきそうな気温だから固まっている彼女の手を掴んで家まで移動した。

 ソファに座らせて今回は床に寝転ばずに横に座る、そのまま見つめていると「ちゃんと守るよ」と返してくれたから頷く。


「今度の土曜日、涼しそうな場所にいって夕方まで喋ろうよ」

「いいわよ」

「よしっ、それなら土曜日までまず頑張りますかね!」


 出会った頃と変わったようなそうではないような。

 でも、元気なところはそのままだからその点は安心できた。

 それとは逆にどこまで歩くことになるのだろうと不安になっている自分もいた。

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