07
「ごめん、今日も難しいかな」
「そう」
夏休みに入ってから既に五回も断られている。
〇〇だから無理ではなく今日も難しいだけで終わらせてしまうからこちらとしては片付けづらい。
なにか理由があってくれた方が、仮に人と会っているのだとしてもそれをはっきりしてくれた方がよかった。
「あ、伊波だ」
「あんたこんなところでなにしてんの?」
「だってここが私の家だから」
「そういえばそうだったわね」
無理だった場合には家がすぐ近くでこっちの方が楽だな。
地味に距離があるから微妙な状態で歩かなければならないのは避けたいけど家の場所を簡単に交換できるわけではないから我慢をするしかない。
「結愛のところにいくために出たわけじゃないのね」
「うん、伊波と過ごすために出たから家に近づく前に本人がいて驚いたよ。ただ夏休みなのにそんなに暗い顔をしてどうしたの?」
「暑いからよ、晴れの日も雨の日と同じぐらい好きだけど気になるときはあるわ」
「それなら家に上がる?」
「それもいいわね、お邪魔させてもらうわ」
あ、まあごろごろはできているからそれは悪くない。
あと一緒にいたくないのに我慢をして一緒にいられるよりはマシだ。
だから強がりに見えてしまうかもしれないものの、そう気分は悪くない状態だった。
「はい、この前こればっかり食べていたから伊波が来たときのために買っておいたんだ」
「悪いわね」
なんか恥ずかしい。
なんでもそうだけどもっとバランスよくやれよという話か。
「それで本当のところを話してくれると嬉しいんだけど、暗い顔をしていた理由は暑かったからじゃないんだよね?」
「だから――岡田の家までいって誘ったんだけど断られてね」
五回目なのは言わないでおく。
だってそれまで言ってしまったら自由のはずなのに矛盾してしまうから。
「天邪鬼なのかな、こう……誘われたら断りたくなるみたいな」
「はは、誘うまでもなく自然と参加していたから可能性はゼロではないわね」
「お、笑った」
「そりゃ私も人間なんだから笑うわよ」
今回のこれは笑えなくなったりするレベルではない。
ある程度のところで終わらせて自由にしてあげるのも友達として大事なことではないだろうか。
あと今更になって結愛から尚代を取ってしまっている気がしてきて駄目だった。
「うっ、お腹が冷えたから痛くなってきたわ、流石にトイレを借りてするわけにもいかないからこれで帰るわね。これありがと」
「伊波って下手くそだね」
「ぐはっ」
なによりも真っすぐなそれが突き刺さる。
バレバレだったとしてもそこはいつも通りのソレで気が付かないふりをしてほしかった。
縮んでいる私に「結愛のことを考えてそうしようとしたんだよね?」と追加攻撃……。
「結愛とはちゃんと過ごしているから大丈夫だよ」
「そ、そうなの?」
「うん、だって昨日までずっと家に泊まっていたからね。これは本来、岡田が伊波に対してしていなければならないことなんだけどそれすらもなさそうだね?」
「ま、その通りよ」
家に泊まってくれているならわざわざ相手の家に誘いになんかいかなくていい。
そうか、私が一人で出ている時点で誰でもわかることだったのか。
わかっていなかったのは馬鹿で一人になりかけている私だけ、なんか恥ずかしいとかではなくてただただ恥ずかしい。
「もう伊波は私が貰おうかな」
「それは結愛が可哀想でしょ」
「お、はは、ちょっと変わっているね?」
「まあ、安定して一緒にいられると違うわよね」
とにかく岡田は極端だ、急に消えたかと思えば急に何回も来る子だ。
「あ、結愛からだ――あ、いま岡田が来ているんだって」
「そういう作戦じゃ――本当ね、結局そこが繋がっているってこと?」
「わからない、ただ何回も誘われたみたいだね」
それならそれでいいか。
少なくともなんの理由も伝えられずに終わる毎日よりは遥かにいい。
とはいえ、尚代のことが大好きな結愛が変えるかどうかか。
「結愛もわざわざ私に連絡をしてくるところが面白いよね」
「はは、あんたに止めてほしいんじゃない? あ、私と一緒に過ごしていることもちゃんと話しておきなさいよ?」
あっさり変えて受け入れたりしたら結愛に言葉で刺されてしまう、最悪の場合は殺人事件に発展……なんて可能性もゼロではない。
「止めたりはしないよ、全部結愛にどうしたいのかを聞くだけでしかない」
「で、あんたと過ごしたいって言ったら受け入れてあげているの?」
「うん、それはね」
「だったらちゃんと見てあげないと駄目じゃない、そういうことをしつつ他の人間とも仲良くしていたら駄目よ」
全部自分に突き刺さっていく。
「ならやめれば伊波は私を見てくれるの?」
「岡田と結愛次第ね。ごめん、本当にこれで帰るわ」
「わかった、それなら送らせてほしい」
「あ、まあ……帰らせてくれるなら」
結愛に合わせる顔がないな。
だから一層のこと岡田と仲良くしてくれた方がよかった。
「やあ」
「もう夏祭りの日ね」
「もうすぐ夏休みも終わるけどこういうイベントがあるだけマシだね」
そうだ、一日ぐらいこういう日があるだけで全く違う。
「結愛は?」
「今日も岡田と過ごすんだって」
「いよいよかしらね」
私が一緒に過ごせている相手から影響を受けているように結愛もそうだということか。
ま、一方通行で終わらなさそうならそれがベストだ、関係が変わったらなにも気にせずに言っておきほしいかな。
「ま、そうなったら伊波みたいに応援をするだけだからいいよ。夕方になったらいこう」
「そうね」
好みは知らないけどこの前お世話になったからこちらもお菓子を出しておいた。
その結果お世辞マシーンになってしまったから困った、時間の経過だけは体感的に早かったからなんとかなったけど。
「ちょ、なんで私がこんな……」
浴衣とか人生で一度も着たことがなかったのにまさかここで経験することになるとは。
「浴衣、似合っているよ」
「それならあんたもそうじゃない」
「はは、それならよかった」
さ、服装なんか忘れて楽しもうと倉本家を出たところで岡田及び結愛ペアと遭遇した。
尚代の方を見てみると「実は結愛から誘われていてね」と……。
「あんたやってくれたわね」
「ごめん、だけどみんなで見て回るのはいいことだと思ったから断る必要もないと思ってね」
え、なんか気まずいんだけど。
でも、まだはっきりとしていない状態で尚代にくっついているわけにもいかないから最後尾を陣取っていた。
幸いなことに三人は楽しそうにお喋りをしてくれているからより酷くなったりはしていない、あとは賑やかな音と美味しそうな匂いがしてきたこともいい方向に働いた。
「安定して美味しいわね~」
いまなら独り言を言い放題、ただしやりすぎると通報されかねないから気を付けなければならないのは普段と変わらない。
さて、どうするか。
いまは食べ物パワーがあってもすぐにお腹の限界とお金の限界がきてそれにも頼れなくなる。
そうなればあの三人に黙って付いていくしかなくなるわけだけど人が多いのもあってそう離れるわけにもいかないから距離が近くて微妙だった。
特に岡田とは近い状態は避けたいところ、結愛だけなら気にならなかったのにやってくれるものだ。
「あれ?」
いや、そもそも声をかけずに食べ物を買うために並べばこうなることは必然か。
これでは逃げたかったようにしか見えないけどまあいいか。
その後もポテトだったりかき氷だったりを買って過ごしていたものの、合流することができなかった。
都会の祭りならともかく小さな祭りなのに意外だ、そもそも最初から一人で来ていた感じがするぐらいにはね。
「あ、すみま――なんだ岡田か」
かと思えば急に遭遇することになる。
なんでこうもついていないのか、ここは尚代の方がよかった。
「これまでどういう風に過ごしていたの?」
「あんたにも言っていた通りごろごろして過ごしていたわ、尚代が来たときだけはちゃんと起きていたけどね」
「倉本さんはやっぱりまだ諦められていないの?」
「さあね」
おお、普通に喋ることができた、基本的に失敗をしてばかりの私だけどここだけは褒めてあげてもいい。
「寂しくなかった?」
「ま、応援するって言ったのは私だからね」
「僕は寂しかったよ」
「は? っと、こんなところで立ち止まって話していたら邪魔ね」
危ない危ない、またすぐに失敗となるところだった。
ただ寂しかった発言はどうかしている、これは尚代が聞いていたって同じような感じになるだろう。
「しつこく誘って結愛ちゃんには迷惑をかけちゃった」
「迷惑かどうかなんてあんたにはわからないでしょ」
「結愛ちゃんの場合ならわかるよ、だって倉本さんと過ごしたいって顔に出ていたからね」
「はは、あんたそれをわかっておきながらしつこく誘うなんて酷いじゃない」
これはなんの時間なのか、私を探しに来たわけではないのか?
自由に行動した結果偶然遭遇することになったのなら少し話をしただけで終わらせればいいのにそうする気配も伝わってこない。
「やっぱりそうだ」
「は? あ、なに?」
「やっぱり僕にとっての理想は伊波さん――千夏さんだよ」
ばーんと後ろで効果音が鳴った気がした、ではない。
来たら来たで急になんなのか、それこそ彼女だって矛盾してしまっている。
「あんたそれはないでしょ、前もそうだけど自分の行動で示しているじゃない」
「ううん、だっていまもちゃんと言ってくれたでしょ?」
「あんた拘りを捨てたんでしょ? だからそういう面で見ないで単に魅力的かどうかで見なさいよ」
「だから千夏さんがそうだよ、そもそも結愛ちゃんは倉本さんが好きなんだから無理だよ」
なんだこいつ……だったらもっと来いよと言いたくなる。
距離を置かなくたって一緒に過ごして喋っている間に本当のところはすぐにわかるだろう。
「はぁ……とりあえず尚代達と合流しましょ」
「待って、そうやって逃げようとしても駄目――」
「逃げていたのはあんたでしょ、少しは言うことを聞きなさい馬鹿」
もう振り回されるのはごめんだ。
浴衣なんか着てこなければよかった、これさえなければ走り帰ることだってできたのに。
「あ、お姫様を見つけられたんだ」
「うん、簡単だったよ、それでも十五分はかかったけどね」
「は? あんた私を探していたの?」
「一緒に来ているんだから当たり前でしょ?」
それなら見つけられたときは嬉しかったでしょうね、ではない。
「私なんか放置して二人といればよかったのよ」
「あれ、珍しく千夏さんがマイナス思考だ」
「珍しくなんかないわよ、私なんかいっつもこうなんだから」
まだ祭りは終わらないから返すこともできない。
つまり帰ることはできないから黙って見ておくことにした。
既にお腹の方はあれだから元々付き合えないというのが大きいけど。
「倉本さん、約束通り千夏さんは返してもらうからね」
「約束ってなんの話よ」
「あーそれは――」
「私が言うよ。私が岡田に頼んで伊波との時間を作ってもらっていたんだよ、簡単に言うと我慢をしてもらっていたということだね。これは結愛も知っていて結愛も納得してくれたからできたんだ」
「なによそれ……」
いやもう怒る気にもなれない。
ただもう我慢はできそうになかったからちゃんと言って帰ることにした。
「あの、もう帰っていい? 浴衣なら今度ちゃんと返すから許してよ」
「それならもうここで帰ろう」
「え、いや、結愛を優先してあげなさいよ、我慢をしていたのは結愛だって同じでしょ?」
「私は尚代ちゃんといられるならそれでいいよ?」
「ほら」
じゃあ……帰るのが一番だ。
当然のように岡田は付いてくるみたいだったからとりあえず尚代に浴衣を返しておく。
本当なら洗って返すべきだったけど失敗をして縮んでしまったりしたら嫌だからちゃんと謝りつつそうしておいた。
「ふへへ」
「もうあんたも尚代も私で遊びたいだけよね」
「大人の対応をしてくれたから少しぐらいならいいかなって思ったんだ、だけどまさか千夏さんがあそこまで影響を受けているとは思わなくて……いまとなっては反省しているよ」
「そもそも一番は尚代よ、ちゃんと言いなさいよ」
内側では間違いなく笑っていた。
簡単にあんたでいいとか言わなくてよかった、岡田には既に言ってしまっているようなものだからせめて一人ぐらいには失敗しないで対応をしたかった。
まあ、計算されたそれに自由にやられていたわけだから結局は失敗ということになるのかもしれない。
「二人きりでいられているときは自分だけが独占できて嬉しくて言い出せなかったんじゃないかな、だから決して隠して遊ぼうとしたわけじゃなかったと思うよ」
「もういいわ、浴衣も返せたから私は帰るから」
「絶対に付いていくから」
「もう自由にすればいいわ、そのかわり寝るのを邪魔したら怒るけどね」
お金もわかりやすくなくなって長く起きていても損しかないからさっさとお風呂に入って寝てしまおう。
でも、自由にすればいいというそれを勘違いしたのか着替えすら持っていくことができずに彼女の家のお風呂場にいた。
「ノーブラノーパンで過ごせってこと?」
「千夏さんが入っている間にお母さんに頼んで取ってきてもらうから大丈夫だよ」
「それならいかせてよ」
「駄目、それじゃあゆっくり入ってて」
いや、なにが悲しくて同性に下着なんかを持ってこられなければならないのか。
ただ、こんなところで一人で待っていても岡田のご両親に迷惑をかけるだけだから入ってしまうことにする。
「ただいま!」
「……夏だからいいけど冬だったらいまので凍死よ?」
「大袈裟だなあ――あ、ここに下着と僕の服を置いておくからね」
「いやなんで服も持ってこないのよ」
「そんなの僕の服を着てほしいからだよ」
もうやだ、さっさと出て寝よう。
まあ、これだって言っていた自分が決めた夏休みのルールなのだから開き直ってしまえばよかった。
エアコンの風みたいな不自然な感じはなく、窓の外から入ってくる生温い風が逆に心地がよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます