06
「ふふ、いいお酒だね」
「なに言ってんの?」
「でも、一番いいのはきみさ」
「落ち着きなさいよもう」
少なくともファミレスで言うようなことではないと思う、そもそもジュースを飲んでいるだけなのになんでそんなに楽しそうなのかわからない。
「この前、結愛ちゃんとどうなったのかを伊波さんも結愛ちゃんも教えてくれなかったからね、この一週間は地獄の日々だったよ」
「一週間って結局その出かけた翌日に付き合っているんだけど」
全く時間も経過していない。
本人だって「今日でいいんだ!」と返してきてわかりやすくにこにこしていたくせにおかしくなってしまった。
この暑さが原因なのだろうか? でも、夏は始まったばかりだからいますぐになんとかなることではない。
「あれ!?」
「そういう面倒くさい絡みかたはやめなさい」
「でも、なんで今日にしてくれたの?」
「んーあんたと過ごしたかったかしら」
「え!?」
う、うるさ……。
ここはお店で平日とはいえお客さんがいるのだからそろそろ怒られてしまいそうだ。
落ち着かないようなら帰るわよとぶつけてみたら両手で口を押さえてぶんぶんと首を振っていた。
「結愛と話をしてからなんかその気持ちが強くなったのよ」
「そういえば結愛ちゃんも千夏さんって……」
「そう、私から頼んだのよ」
何回でも言うけど名前で呼び合えていた方が友達らしい感じがするから。
尚代にはできたから結愛、で、最後は目の前の彼女だ。
ただ何故かすぐに求めようとする自分がいないからまあ……そのときがきたら頑張ればいいと思う。
「待って待って、繋がっていない気がするんだけど。それだったら僕との約束なんて守らないで結愛ちゃんと過ごすところなんじゃないの?」
「名前で呼ぶことを求めたからそんなことを言っているの?」
「ど、どう考えても結愛ちゃんを求めているようにしか見えないけど……」
「馬鹿ね、だから結愛を深く求めているならこうしてあんたと一緒にはいないわよ」
少なくとも付き合えるまではその子を優先する。
まあ、実際は完全にスルーは無理だから自分からはいかないというところか。
中途半端にあっちもそっちもとやれるような能力はないのだ。
「え、じゃあ僕のことを深く求めているってこと……?」
「ま、そこはあんたが自由に受け取りなさい」
注いできた飲み物が凄く美味しくてお店から出るまでにいっぱい飲んでしまった。
正直夜ご飯を食べられるような余裕がなくてすぐには帰りたくなかった、流石に食べないと心配されるから少しぐらいは中の物をなんとかしてからではないと不味い。
「じゃ、私は軽く運動をしていくからまた明日ね」
「それなら付き合うよ。だって自分でも想像以上に恥ずかしいことを言っちゃって甘い飲み物のパワーに頼ったんだよね?」
「え、違うけど、美味しかったからいっぱい飲みたかったのよ」
いつでも自分のために動くというだけだ、あとお金を払ったからにはという考えから行動しているだけでしかない。
「え、えーあれが恥ずかしいことじゃないの!?」
「は? そりゃあんたといたいって言っただけなのに恥ずかしいわけがないでしょ」
とか言いつつ名前の件は出せないままでいるのが変だけど。
「ぐぇ」
「あ、私がそう思っているだけだから結愛とか尚代に興味があるならそれでいいのよ? あの二人のどちらかが好きなら応援するわよ」
それよりも、だ。
求めてきた物が文房具セットで誕生日プレゼントとしてどうなの? と引っかかってしまっている自分がいる。
それでもお店で言い争いをするわけにもいかないし、本人が欲しがっていない物を渡そうとしたところで微妙だったからなんとか抑えてからファミレスにいった。
だからそのつもりはなくても先程のあれはヤケジュースに見えた可能性もある。
「文房具セットを求めてきたのはその答えかもしれないわね」
「いま欲しかったんだ」
「そもそも私はあんたのことを褒めているじゃない? その時点で駄目よね」
「ちょちょ、勝手に終わらせようとしないでよ」
「そう? 私はあんたのことを考えて言っているんだけどね」
ま、いまは運動だ。
が、延々と同じところをくるくる歩いていたら三十分ぐらいで飽きてしまった。
近くにあったベンチに座って違うところに意識を向けていると「はい」と飲み物をくれたからお礼を言って受け取っておく。
突っぱねるのは可愛くない気がしたから、あとは水分補給は大事だからだ。
「もうすぐ夏休みだね」
「私はごろごろして過ごすわ」
「それは無理だね、何故なら僕が何回もいっちゃうから」
「約束通り、あんたの部屋でごろごろするのよ」
冷房なんかも効いていて多分お菓子なんかも出てきて快適な空間、時間になることだろう。
うん、これも全ては彼女次第だけど少なくとも家で一人でいるよりは楽しい夏休みになると思う。
去年なんかは母の代わりに買い物にいったり課題をやったりしただけで終わっていたからその差も大きい。
「あうぇ」
「あんたその大袈裟な反応をやめなさいよ、あと嫌なら嫌だとはっきり言って」
「だって積極的だから……」
「そうよ、もったいないことはしないわ、私は私のためになら頑張れるのよ」
だからこちらをその気にさせたのなら責任を取りなさい、なんてね。
嫌がられない程度にいくだけだった。
「あーそこにいられると岡田の家にいけないんだけど」
一緒にいけばいいのに時間差で集まれた方がいいからとか言って出ていった岡田が憎い、というのは冗談で久しぶりに尚代に捕まっていた。
結愛と同じぐらい私に対してのそれはなくなっていると思っていたのにまだあったらしい。
流石に時間が経過しているから意地を張っているだけだと判断はできない。
「いってほしくないから止めているんだよ」
「終業式の今日まで来ていなかった理由は?」
「結愛が必死に止めてきていたからかな、まさか協力して私を遠ざけようとしているの?」
「いや? それに結愛があんたといようとするなんて私が岡田と過ごすことぐらい普通のことじゃない」
待った、なんかちゃっかりしているというか……気持ちが悪いか。
なんで私もこんなに気に入っているのか、正直に言えば尚代も岡田もそう差がなかったのにいつの間にかこんなことになってしまっている。
ずっと一緒にいられたわけではなくて急に消えたりしてしまったからだろうか。
だからこそ戻ってきたいま、今度こそ同じようにはしないと頑張っているのかもしれない。
「いつの間にそんな……」
「いきたいならあんたもいく?」
「うん、参加させてもらう」
結愛ごめん、だけどこれ以上は無理だ。
中途半端にやらないとか言っておいてあれなものの、本当に悲しそうな顔をするから止めることができなかった。
家まで連れていってからマジな反応をされたくはないからちゃんと連絡をしておいた結果「連絡をしてくれたから大丈夫だよ」と岡田も大人の対応を見せてくれた。
「岡田、夏休みは伊波となにをするつもりだったの?」
「連日お泊まりかな」
れ、連日になっている。
色々と変わった私達だけど四回ぐらい遊ぶことができればいい気がした。
「それ、私も参加したい」
「いいよ、多分僕の家で集まることが多くなるだろうから倉本さんも来てよ」
「え、い、いいの?」
私がいるからというわけでもないのだろう。
元々岡田はこういう子で、一緒にいればいるほど自分との差を直視することになるのだ。
でも、そこで言い訳だけして努力をせずに逃げるよりも少しは真似をしてみようと頑張ろうとする自分が出てきてくれたら、うん、そのときはもっと自信を持って彼女達といられるようになるかもしれない。
「うん、だって倉本さんも伊波さんと一緒にいたいんだよね? 結愛ちゃんのことを考えると少しアレだけど……大事なのは本人の気持ちだから」
「じゃあ一日だけでいいよ、こんなに大人の対応をされちゃったら自由に参加できないよ」
「え、気にしなくていいって」
「ううん、一日ぐらいは一緒にいられればいいから」
なんか全部彼女に言わせてしまったのは失敗だった。
ただ急いでなにかを言おうとしても逆効果になりそうだったから黙っていた。
とまあ、こんな感じで既に逃げてしまっているわけだけど……大丈夫だろうか?
「あのことはもういいの?」
「結愛ちゃんを自分勝手な拘りで切っておいてあれだけど、そうだね」
「その方がいいよ、そんな理由で伊波を切ったりしたら流石に怒るよ」
はは、それは彼女自身が言っていたことだ。
「それは無理だよ」
「はは、拘ったままでもこうなっていたのかもしれないね、それで岡田は伊波を求める気持ちと拘りを貫き通したい気持ちがごちゃ混ぜになって大変になるんだよ」
「待って待って、なんでそういうことを言うときだけ笑顔なの?」
確かに、基本は無表情なのに最近で言えば一番のいい笑顔だった。
もっと出していけばいいのにと思う、そうすれば特に結愛になんかは効果的に働くはずだ。
「正直に言うとそれはいまでも岡田のことがあんまり好きじゃないからかな」
「うべばあ!?」
あとこの子もこの子でいちいち大袈裟なリアクションをやめることができないのだろうか。
明らかに遊ばれていることに気が付いていない、そりゃ多少は本音も混じっているだろうけどこんなのはただの照れ隠しではないかと言いたくなる。
「でも、前とはやっぱり違うよ。敵視をせずに普通に話せるようになってよかった」
「う゛っ、い、伊波さん……倉本さんってずるいよね」
「あんた影響を受けているのなら倉本と付き合えばいいんじゃない?」
「伊波さんはすぐにそういうことを言う……」
だって元々は仲がよくないどころか嫌われていたぐらいなのに少しずつ時間を重ねてそこまで戻せたのだからぽっと出の私とよりもお似合いに見えたのだ。
「私は伊波がいいよ、だけど迷惑にしかならないからここで終わらせるよ」
「悪いわね」
「ううん、だって必ず上手くいくことじゃないから、先に伊波に会われた時点で負けていたんだよ」
「や、それは関係ないと思うけど」
その後すぐに尚代とだって過ごし始めたわけだし。
「はは、じゃあ魅力で負けていたってこと?」
「あ、あんたやめなさいよ」
「ははは、ごめんね」
ここでも気持ちのいい笑顔、こんな顔をされたら続けることはできない。
岡田にだけではなく尚代にも負けた感じが凄くて微妙な状態になってしまったものの、そこはなんとか二人の真似をして出さないでいることができたからよかった。
「見てよこれを」
「いい体ね、あんたこそこそ運動とかしていたの?」
「ううん、学校のとき以外は食べて寝てを繰り返していただけだよ?」
ぐっ、言ってみたいことをさらっと……。
「それより伊波さんはなんでパーカーなんて羽織っているの? 脱いでよ」
「あーこの下はなにも着ていないから不味いの――躊躇がないわね……」
ま、このときのためにわざわざ水着を買いにいったとかではないからもっと堂々としておけばよかったか。
ちなみに彼女の方は一人でいって買ってきたらしい、そういうのだって誘ってくれれば付いていったのに変なことをする。
「普通に細いよね、それに完全に魅力で負けていまにも逃げ出したい僕はどうしたらいいの?」
「いや、逃げ出すどころか滅茶苦茶ガン見してきているんだけど?」
残念ながらお腹は出ていなくても胸も出ていないから見たところで自分のそれと全く変わらな――ぐはっ、どうして同学年なのにここまで違うのか。
これまでの私は必死に見ないようにしていただけなのだ、つまり完全に魅力で負けていていますぐにでも逃げ出したいのはこちらの方だった。
「それはそうだよ、だってこれは見ておかないと損だからね」
「そういう関係になったら見放題じゃない」
「あら、いやらしい子ね」
「あ、一応言っておくと付き合ったらってことよ? そういういやらしいことだけをする関係とかじゃないから」
「うん、それはわかっているけど付き合ったら見放題って考え方がもうね」
おいおい、なんでここでそんなに生温かい目で見られなければならないのか。
彼女は意識してかしていないのかはわからないけどダメージを与えてくるのが好きなようだ。
まだ計算でやっていてほしかった、無意識にしてしまっているのだとしたら安心して隣にはいられない。
「ここ、引っ張ってみてもいい?」
「いいわよ、なんて言うと思う?」
そんなところを引っ張れば今度こそ下にはなにもなくなる。
大きい胸だったら見られて彼女が喜ぶかもしれないけど本当にすとんとんなのだ、自分の目と脳のためにもやめておくべきだ。
「それならお部屋で」
「まあ、それだったらどうせ脱がないといけないからね」
「あべぁ」
「あんたは強いんだか弱いんだかよくわからない子ねえ」
もちろん自ら積極的に晒していくわけではない。
それでもいつまでも水着を着ているわけにもいかないから当然の話をしただけだ。
「……こんな子は初めてだよ、過去に一生懸命になった子だってこんなに大胆なことは言っていなかったよ」
「あら、本命がいたのね?」
「お、妬いているの?」
そういう存在がいたのかどうか聞いているだけなのになんでそうなるのか。
私は嫉妬したりはしない、それどころか頑張りたい相手がいるなら応援するぐらいだ。
「いや、私の友達なら過去にそういう存在がいるのが当たり前だから特になにも感じないわね。付き合った後にその子達と物凄く仲良くしていたら叩くけど」
「しないよそんなこと、僕だって伊波さんがいいんだ」
「そ、じゃあほらもっと話を聞かせなさい」
どんな子が気になるから話さないままで終わるのだけはやめてほしい。
「あ、それが告白をする前に終わっちゃったんだよ」
「なんで?」
「……男の子に取られた」
「はははっ、仕方がないわよね~」
大体それで終わるらしいからやっぱり仕方がないことだ。
だから彼女にもそういう存在が現れるまでは仲良くさせてもらおうと決めていた。
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