05

「あれ、加藤は?」

「今日は呼んでいないかな」

「え、いや、あんた誕生日なのよ?」

「うん、だから伊波にだけ来てもらったんだけど」


 はぁ、意地を張ってそんなことをするなんてどうかしている。

 私ならちゃんと最後までいるから呼んであげなさいと言ってみても彼女は首を振るだけだった。


「まあ、とりあえず誕生日おめでとう。ケーキを買ってきたわ」

「ありがとう」

「本当はケーキだけじゃあれだからなにかいい物を探していたんだけど……結局見つからなかったの」


 だから今度本人を連れていって欲しい物を選んでもらうつもりでいる。

 ただ岡田が全く来なくなっていることからそれすらもできないままで終わるのではないかと不安になっている自分もいる。


「いいよ、それより伊波は、さ」

「ああ、尚代って呼べばいいのよね? はは、名前が好きなのね」

「両親がつけてくれた名前だからね――あれ、誰か来たね」

「加藤でしょ」


 寧ろ来てくれないと困る、だってやっぱり心の底から求めているのは加藤からの祝福だろうから。

 そういうのもあって自分の家でもないのに代わりに出てみるとそこにいたのは加藤ではなく岡田だった、何故……?


「伊波さんが帰ってしまう前でよかったよ」


 一旦家に帰ってケーキを持ってきたから私的にも着いたばかりで帰るわけがない。


「いやあんた尚代のお祝いをしたかったの?」


 それよりも前に誕生日を知っていたのか。

 加藤と尚代は友達でも尚代と岡田は前々から友達ではないと考えていたから意外だった。

 加藤すら遠ざけるあの子がわざわざ岡田に誕生日を教えるとも思えない。


「ひ、尚代!?」

「きゃっ、いきなりなによ」

「本人から許可を貰えていないけど上がらせてもらうね!」


 この反応を見るに自分が一番最初に名前で呼びたかったというわけではないだろう。

 そもそもそういうところでは加藤に勝てないからこれは私が呼んでいるからか。


「ケーキを買ってきたよ」

「そんなに食べられないよ、そもそもどうして岡田がここに……?」

「結愛ちゃんが今日倉本さんの誕生日だって教えてくれたから来たんだ」

「結愛が」

「うん、お祝いしたかったって言っていたよ?」


 そりゃそうなる、加藤の誕生日がいつかはわからないけどお祝いをしてもらっている状態なら尚更ね。


「それなら呼んでいいよ」

「わかったっ、仲間外れにはしたくないから呼ぶね!」


 これだと岡田に言われたから許可が下りたように見えて複雑な気持ちにならないだろうか――ではない。

 四人で集まってしまえばまた前回のようにおまけの存在になってしまうから微妙だった。

 というか、岡田に尚代にと加藤が中心人物すぎるというか……。


「これも伊波さんのおかげだよね」

「どこがよ、私のせいでこうなっているんじゃない」

「でも、尚代ちゃんの気持ちもわかるから、中途半端にやっていたらいつまでも仲良くはなれないからね」

「や、そこまでじゃないから」


 これぐらいの年齢のときによくある悪い症状が出たというだけの話だ。

 それこそはっきり言われたって否定どころか黙って受け入れるしかないのにこの子達ときたら。

 あとはそういうところで岡田に切られたということをもう忘れてしまったのだろうか。


「なんか極端よねえ」

「はは、前とは全く逆の形だね」

「あんたはいいの? 加藤を気に入っていたのに主役だから譲るってわけ?」

「うん」

「わからないものね」


 まあ、自分が入っていないなら見ているだけでいいから楽ではあるか。

 三角関係になろうが関係ないなら楽しめる。


「そうだ、ここに来る前に蝉の抜け殻を見つけたんだ。えっと、あ、はい」

「あんたよくそういうのに触れるわね」


 抜け殻でも無理だ、虫全般に触れることができない。

 だからもし部屋に所謂Gが出てきたら逃げ出す自信しかなかった。

 なんであんなのがいるのか、向こうからしたらこちらがそうかもしれないけど到底許せる存在ではない。


「ゴキブリだっていけるよ?」

「あんた持ってきたら怒るからね?」

「はははっ、嫌ならやらないよー」


 って、Gのことなんていまはどうでもいいか。

 それより加藤だ、幼馴染かどうかは知らないけどしっかり尚代との関係も保ちつつ岡田とも上手くやるなんてすごすぎる。

 小さいくせに能力は大人並みにあるなんて……。


「夏休みになったら伊波さんに家に来てもらうって話、忘れたりしていないよね?」

「いまだったら加藤に頼めば叶いそうね」


 加藤がいれば尚代も参加するだろうから三人で盛り上がればいい。

 私は夏休みになったら毎日ごろごろとして過ごす、夜ご飯だけは両親のために作るだけの毎日だ。


「伊波さんに頼んでいるんだけど」

「でも、結局すぐにこうして集まることになるでしょ?」

「ふふふ、僕と二人きりがいいの?」


 おっと、ここでからかうような笑みだ。

 でも、四人で集まるよりはまだなんでここにいるのか感が薄まるから私からしたらその方がいい。

 会うなら二人きりでだ、二人きりが嫌ならそもそも受け入れなければいい。


「集まるならね、おまけ的な存在になって黙っておくことしかできないのは嫌なのよ」

「あ、あれ」

「ま、あんた次第よ」


 なくなっても本当に一緒に過ごすことになってもマイナスなことはないからぶつけてくればいい。

 気分がよければ虫集めにも付き合ってあげられるかもしれない、川とかは危ないから止めさせてもらうけど。


「や、やっぱりおかしい、倉本さんの存在が伊波さんをここまで変えたってことなの……?」

「違うわよ、私自身があんたと過ごすことになっても嫌じゃないからよ。あんたが言っていたじゃない、絶望的に合っていなかったら一緒に過ごしていないと思うけどって」

「期待しちゃってもいいの?」

「ま、こうして口にしているのに受け入れないで終わったら人として終わるからね。私は自分を守るためには一生懸命に動くわ、だから無駄にはならないんじゃない? つか、逆にあんたに聞きたいんだけど、加藤だけがいてくれればいいんじゃないの?」

「え、僕のどこをどう見たらそうなったの?」


 は、こいつ……鈍感系でみんなに優しいタイプだからこうなってしまうのだろうか?


「あんたあれだけ加藤を優先しておいてよくそんなことが言えたわね、こっちはもういらないとばかりに露骨に加藤とばかりいたじゃない」

「あー……それはほら、変な拘りで切っちゃったところがあるからいまになって申し訳ない気持ちになったというか……」

「それで加藤が勘違いしていたらどうすんの? また傷つけるわけ?」

「え、結愛ちゃんはそんなことにならないよ」


 急に変わることがあるなんて自分を見ればすぐにわかるだろうになにを根拠にそんなことを言っているのか。


「あんたは加藤? 絶対なんてないんだからわからないじゃない」

「こ、ここだけの話だけどね、結愛ちゃんは――あ、駄目か」


 ふぅ、なんとか止められた。

 吐くにしても私のことか自分のことについてだけ吐いてほしいところだ。

 勝手に知ることになって恨まれたりしたくないのだ、私は全力で私を守るだけで相手のことを考えているわけではないのが大事なところだ。

 なにかといいことをしている風に言ってくる加藤が相手だからより気を付けなければならない。


「そもそもいま聞いたところで信じられないから止めただけよ」

「ううん、結愛ちゃんのことを考えてしたんだよね」

「全然違うけどまあ、自分の意思で言うのならともかく他人経由で勝手に聞かれたくないでしょ」


 全ては私がそうだからで片付けられることだった。




「いい天気ねえ」

「伊波さん」

「あれ、加藤も来ていたのね」


 ただの廊下だけど本当に落ち着くからここにいきたくなる気持ちはよくわかる。

 晴れの日が好きな岡田と尚代のコンビは夏だからなるべく動きたくないとかキャラに似合わないことを言ってばかりで付き合ってくれないから残念だ。

 岡田こそ暑さとか関係なくハイテンションでくるものとばかり思っていたのに変だ。


「そう警戒しなくても大丈夫よ、岡田と尚代なんてずっと加藤と一緒にいるじゃない」

「薫ちゃんとのことでお礼がしたかったの」

「あ、そういうやつ? それだったらどっちも楽しそうで見ているだけで落ち着けるから既にお礼をしてもらったようなもの――待って、距離が近いわ」


 じりじりと近づいてくるなんてそんな岡田ではないのだからやめてもらいたい。


「あとは私だけ伊波さんと仲良くなれていないからかな」

「待って、実は岡田か尚代とか……あるわけがないか」


 後ろを見てみても着ぐるみみたいになっているわけでもない。

 加藤は真顔で「うん、加藤結愛だよ」と答えてくれたけど……。

 一緒にいるだけでここまで似るものなのねえと内で呟いてそれからは意識を逸らす。


「それで私はなにをすればいいの?」

「まずは一緒にご飯を食べにいきたいかな」

「いいわよ、それなら放課後にいきましょ」

「あ、二人きりだからね?」

「わ、わかっているわ」


 え、困ったらあの二人を召喚するとか思われているの? 全くもって違っていないけどなんか怖い。

 それこそどちらもメインだったことが一度もないのになんか色々とわかられていそうだ。

 尚代が原因なのだろうか?


「伊波さーん」

「今日は予定があって無理なのよ」

「誰との予定?」

「ぎ、あーお母さん……かしら」


 馬鹿、二人きりがいいと言われただけで嘘をつく必要もないのになにをしているのか。

 本当に最近の私はどうかしている。


「嘘だよね、結愛ちゃんと一緒にご飯を食べにいく約束をしているからでしょ?」

「し、知っているならなんでいちいち聞いたのよ」

「二人きりに拘っていたみたいだからね、だけど伊波さんには正直に話してほしかった」

「それは……悪かったわよ、だからその怖い顔をやめてちょうだい」


 あとなんでこんなに影響を受けているのか。

 あくまでおまけなのに一人勝手に気に入ってしまっているだけだとしたらどうすればいいのか。

 加藤や尚代がいなければ素直になっているところではあるものの、二人がいるのが現実だから失敗するところしか想像することができないのが寂しいところだった。


「それなら明日予約ね、お金に余裕がないなら来週でもいいよ」

「それなら来週でお願い、あとそのときはあんたちゃんと欲しい物を言いなさいよ? 誕生日プレゼントをまだあげていなかったからね」


 これはナイス、もう自分一人で選ぼうとするといつまで経っても渡せないからこの形の方がいい。

 同時にやるときっと怒られるから一人ずつやる、安い物であってもなにか無料で貰えたら損なこともないからいいはずだ。

 それでも受け入れてもらえなかったら食べ物かなんかを無理やり渡して終わりにすればいい。


「え、一緒に過ごしてくれたうえにケーキをくれただけで十分だよ。あれだって計算して買ってくれたんでしょ? 伊波さんがもったいないことを積極的にするわけがないからね」

「あんた……なんでもわかって後から口撃してくるのやめなさいよ」

「はは、僕も関わっていたいんだよ。だけど結愛ちゃんも来たみたいだから今日のところはここでやめておくね。気を付けて、あと楽しんで」

「あんたもね」


 ふぅ、いまのを聞かれていて言葉で刺されることもなく飲食店までも緩い雰囲気のままだった。

 お財布事情的にもお高いお店とはならずにファミレスになったから料理とドリンクバーを頼む。


「私は伊波さんと薫ちゃんに上手くいってほしいんだ、だからこれは二人がお付き合いをする前に仲良くしたかったから誘わせてもらったの」

「尚代はいいの?」

「……尚代ちゃんは取られたくない」


 あれ、あ、これがこの前岡田が言おうとしてやめたことか。

 意外というより私が勝手に勘違いをして一人で盛り上がっていただけのことか。

 仲直りができればそれでよかったのだ、ここで嘘をつく必要はないから悪いのは私だった。


「あー……加藤は尚代が好きってことよね?」

「お、おかしいかな!?」

「しー別におかしくはないわよ、だって岡田とよりもずっと前から一緒にいるんでしょ? そうよね、だったら慌てる必要なんかないわよ」


 曖昧な状態でいられるよりもずっとありがたい。

 尚代次第で安心して応援することができる、あの子もそろそろ通常の状態に戻っただろうから彼女を悲しませてしまうようなことには繋がらないはずだ。


「でも……伊波さんのことが気になっているんだよね?」

「あれを意地を張っているだけよ、二人きりに拘ったのはこの話をしたかったからなのね?」

「うん、だって伊波さんはライバルだったから」

「ライバルじゃないから安心しなさい」


 本気で尚代のことが好きで自分からライバルと言ったところで自称の域を出ないから。


「でも、それが全てじゃないんだよ? 伊波さんとも仲のいいお友達になれたらいいと思っているの」

「それなら結愛って呼んでもいい? 結愛も私のこと千夏って名前でいいから」

「うん。ち、千夏さん」

「はは、呼び捨てでいいわよ」


 今度こそちゃんと本命がいるからあれだけどちょっといい感じだと思った。

 これをあと岡田と尚代相手にもできれば私はそれだけで十分だ。

 あ、でも、これを知ってから動くのは意地悪をしているように見えてしまうから少しやりづらくなってしまったかもしれない。


「りょ、料理も美味しいね」

「そうね、私的にはこれぐらいで十分だわ。そうだ、結愛は作れたりする? それなら今度食べてみたいわね」

「そ、そういうのは薫ちゃんが相手のときに言いなよ」

「なんでよ、友達として気になるじゃない」

「友達……」


 え、いや、ここでまだ友達ではないとか言うのはやめてもらいたい、せっかく気分がよくなっているところに水を差してくる子ではないと思いたい。


「もっと早くから千夏さんとお友達になりたかった」

「あ、それは浮気じゃない」

「でも、そうなっていたらどうなっていたのかはわからないよね?」


 やめてやめてと止めておく。

 尚代に対して一生懸命になってくれればそれでよかった。

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