37 意地っ張りですね?

 どんな合図が有るのかと思ったら、リルはピヨピヨと笛を吹いた。

 どこからか、ピヨピヨピーと返ってくる。


「……20分くらいで来る」


 リルが、得意げに言う。

 それは良いんだけどさ……。


「ギルドチャットじゃ駄目なの?」

「……駄目。気分が出ない」


 そういう問題なのか。

 揃いの黒鎧とか、のめり込み系のギルドだという疑いが深まる。

 ね? 隠れ里みたいの作ってたりと、別な方向性で楽しんでるよね、彼ら。


 そんな風に考えてるから、現れたハーディさんを生暖かい目で見てしまう。

 あはは。変な顔してる。


「何でゴーレムまで連れてるんだ?」

「リルが鉱山に採掘にいかなきゃならないの。ついでに私も行くから、あなたも付き合え」

「いきなり命令口調って……」

「捨て猫の責任は、元飼い主も取るべきだ」

「……べきだ」


 すっかり私側についているリルに、顔を顰める。

 猫は3日経つと、飼い主を忘れるのよ!


「しゃーねえーな。……それから、紹介しておくわ」


 気分を出してか、木の陰に隠れていた二人が姿を現す。

 ノームの斥候っぽい人と、おお……ウンディーネ仲間。

 ニコッとリルが微笑んだから、ウンディーネさんには懐いてる?


 連絡役のノームの人がバウさんで、ウンディーネさんは副長のフロリナさんだそうな。

 バウさんに、注文の品のジュエリーの箱を渡す。……実はこれがメインの用事だ。受け取って、先に隠れ里へ帰った。

 フロリナさんは、坑道に付き合ってくれるそうな。

 ウンディーネダブルのパーティーも、珍しいかも。

 暑いせいか深緑の髪をポニーテールにしてる。私は暑さに負けて、ざっくりとリアル通りのショートボブにしちゃってるけど。耳は出す主義。


「どうでも良いが、ジュエラーは和風という決まりが有るのか?」


 揃いの色違いの浴衣姿の私たちに、呆れられた。


「違う違う。これは紬さんの趣味。今日は町から出るから白足袋ブーツだけど、普段は駒下駄でカラコロ歩いてるよ?」

「平和というか、何と言うか……」


 もう呆れられるのには、慣れたよ。

 涼しいし、可愛いし……気に入ってるから良いもん。

 リルも今日は、フロリナさんに懐いてなさい。久しぶりだろうし、心細かったろうし。

 のんびりと鉱山へ向かう。


「マジで強えな……こいつ」


 キャトル君の強さに、ハーディさんが呆れる。

 速いし、強いのよ。

『俺ら、いらなかったんじゃね?』と目で訴えるけど、実は見せておきたかった。


「強いでしょ? 私の従者」

「これが噂の『古代の叡智』ってやつなのね」


 フロリナさんも感心してる。

 味方にすると、心強いんだけど……ね。


「ウチだけが、島の探索をしてるわけじゃないと思うから、他の勢力……特に魔族側からは出て来る可能性が高いのよ。気を付けてね」

「前に定時会議でも言ってたっけな。だから、前線に出していないって」


 改めてキャトル君の動きを見て、眉を顰めた。

 フロリナさんは現実的に、質問してくる。


「実際に、使われた時にはどうすべきかしら?」

「防水加工はされていないみたいだから、海に落とすのが一番。……私達は、それで一体やっつけたもん」

「倒したのかよ……?」

「命懸けだったし……防水加工されてたら、危なかったよ?」

「とんでもねえな、『エコーズ』の猫共も」


 なっちょさんの猫拳は凄かったよ。

 とても、肉球ぷにぷにハンドとは思えない。


「近場に水場が無かったら、どうするよ?」

「シールって、塩水出せる?」

「出せねえよ。ウンディーネじゃあるまいに」

「使えないなぁ……。その場合は、誘導していなしつつ、私とキャトル君を呼んで。一度しか使えないけど、対策があるから」

「……どんな?」

「その時が来たら、リーダーさんにだけ教えるよ。本当にワンチャンスな作戦だけど、ハマると大きいと思う」

「そうならないことを祈るけど……こんなのチマチマやって、ダメージを積むぐらいしか手がないだろう?」

「あ、ダメージ再生するから気をつけてね?」

「マジかよ!」


 マジなのよ……。

 あまりフラグ立てみたいなことはしたくないけど、伝えることは伝えておかないとね。

 多分……公平に置いてあると思うから、2体出て来るなら、相手は倒していないはず。

 まともに戦わずに、キャトル君を待ってくれた方が吉。


 さて……坑道に到着したから、採掘採掘。

 リルは初めて、銀とか翡翠とか採掘できてニコニコ顔。

 私の方は……金属はプラチナ止まりだね。宝石は、ルビーとサファイアが両方来た。次でダイヤかな? レベル10になる時には、全てを使いこなせとか言われそう。

 その頃には、工房に籠もるようかなぁ……。

 石磨きの工程短縮が望める、砥の粉が追加されたのはせめてもの救いだね。


「ねえ、『ブレイク・ライン』は、まだ騎兵隊続けるの?」

「悪いかよ?」

「好きにすれば良いと思うけど……最近は調理ギルドが頑張ってるよ?」

「関係ねえだろう?」

「美味しいのに、ねぇ? 焼きそばとか、たこ焼きとか、カツスパとか……ピザも本格的らしいよ?」


 物静かなリルが、盛大に頷く。

 アトリエに籠もってる私だから言うけど、お山に籠もっていると損するよってくらいに美味しいんだよ?

 しかも、ここはゲーム世界。いくらハイカロリーなものを食べても、太らない。

 一瞬、ピタッとフロリナさんの足取りが止まった。


「買ってあげるから、お土産に持って帰る?」

「お前なぁ、胃袋でメンバーの引き抜きを図るな!」

「良いこと教えてあげる。……黒鎧着てないと『ブレイク・ライン』だって、バレないよ?」


 複雑な顔してる。特にフロリナさん。

 ゲーム中の装備なんて、ワンアクションで着替えられるからね。

 それに何より、最近の騎兵隊活動で、前よりも全然『ブレイク・ライン』に顔を顰める人はいなくなってるんだから。気にしてるのは、本人ばかり。


「あと、ウィスキーとかは醸造が足りてないけど、ワインやビールは結構イケるとか」

「お前は未成年だろ?」

「うん、だから呑まずに他人の評価を伝えるのみ。私としては、クラフトソーダ製造を提案中だよ」

「それは、どうでもいいけど……」


 そろそろ町に帰り着くとあって、リルがフィッと消えた。

 ああ、きっと先に戻ってお土産を買い漁っているな。

 焼きそば一辺倒だったけど、この前の素敵イベント以来、いろいろ食べ歩きの楽しみを覚えたみたいだから。


「お前、飼い慣らし過ぎだろう……」

「本人の資質もあるから。きっとあの娘、美味しいもの好きよ」

「……でも、好みが酒の肴系なのよね」


 ポツッと、フロリンさん。……やっぱりね。

 町の入口に、リルが両手に料理を抱えて待ってた。

 持ち物欄でやり取りすることは出来るけど、この方が美味しそうに見えるものね。

 それから、何か訴えるように私を見る。


「……みんな、探してる」

「私を? 何で?」


 首を傾げたら、キラキラ~っとピノさんが飛んできた。


「サクヤ。大変だよ……第3集落の防衛戦に、魔族がゴーレムを持ち出したって!」


 あちゃあ! フラグ回収ってやつかな?

 あんな話をしていたら、これだ。


「じゃあ、用事が済んだら、リルは追いかけて来て。私はこのまま行っちゃうから」

「私達も追いかけるよ。一応ゴーレム退治の経験者だし」


 猫さんクッションをお尻に敷いて、キャトル君の肩に飛び乗る。

 キャトル君は第3集落へと、走り出した。

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