38 ゴーレム同士の戦いですか?

 到着した第3集落は、町というよりは村な感じ。

 周囲は畑が多く、家屋が纏まった集落は、今も築いている最中の土壁に守られている。

 ゴーレムのキャトル君の肩に乗った私を、『エコーズ』のギルド長である、ラドリオさんが迎えてくれた。


「あまり被害が出ていないようですが……」

「最前線は、ずっと魔族領側だからね。ここを拠点に戦線を押し上げたから、第3集落は妖精族が安心して暮らせるようになってるんだ」

「……だから『集落確保』なんだ」

「第2集落の方はまだ、集落の所で押し留めているから。ここまで発展はしていないよ」


 鍛冶師や、服飾師たちが、工房や食堂を構えて、装備のメンテや修理をしている。

 いい匂いがするから、調理人たちもこっちに来ているのかな?


「非戦闘員が安心して過ごせるようにするのが、俺達の役目さ」

「私も、非戦闘員なのに……」

「そこは申し訳ない。相手がゴーレムだとな……」

「何体投入してきたの?」

「2体だ。同じ型の、赤いのと黒いの」

「ウチと同じだね……。ウチは1つ壊しちゃったけど」

「実際に当たってみて思うけど、アレを壊しただけでも凄いよ」

「地の利があったから、なんとか」

「こいつ1体だけで、大丈夫か?」

「上手くハマれば。……『エコーズ』に暗殺者アサシンっていますか?」

「そいつは、レアな職業だぜ?」


 1体だけなら、リルに任せちゃうんだけど……2体だものね。

 もう一人欲しい。


「何か、手が有るのかい?」

「たぶん一回こっきりの手。上手くすれば脅威排除。失敗したら全力土下座」

「自信は有る?」

「有るわけ無いよ。机上の空論だもん。……私、宝石職人だよ?」


 ああ、頭を抱えちゃった。

 私に頼る方が悪い。戦闘に向かないのは、みんなに知れ渡ってるじゃない。

 息も乱さずに、リルが到着した。さすが。


「ねえ、リル。あなたの仲間にもう一人、暗殺者っている?」

「……いる。でも、きっと来るのを嫌がる」

「お願い。絶対必要なの」

「……チャットで呼んでみる」


 しばし、リルが口を噤んだ。

 珍しそうに、ラドリオさんが眺めてる。


「これか、噂の捨て猫って?」

「そうだよ。真面目で可愛い」

「どこの所属だよ?」

「今はウチのアトリエだけど……」


 今日は完全に戦闘態勢で来ているだけに、リルは黒いソフトレザーを着ている。

 それを指差すだけで、顔を顰めつつも察したみたい。

 そう『ブレイク・ライン』のメンバーです。


「……嫌がってる」

「もう、誰よ。この非常時に。……私の知ってる人?」

「……ハーディ」


 あの人、暗殺者だったの?

 前は堂々と指揮してたから目立ったけど、本職はそっちか。


「じゃあ、言ってやって。私のゴーレム対策に興味有るでしょ? それに、来てくれなかったら、この先ずっとキャラ名でなく本名で呼んでやるって」

「……言ってみる」

「お前なぁ!」


 訊くまでもなく、本人が現れた。

 一応心配して、リルと一緒に来てくれてたみたい。ちょっと感謝。


「お前にはプライバシーって言葉はないのか? そっちも本名で呼ぶぞ?」

「どうぞ。私はあまり気にしないし、できれば苗字の方でずっと呼んでくれても良いよ?」


 やーい。言葉に詰まってやんの。

 私とハーディさんとの言い合いに呆れつつ、ラドリオさんが首を傾げた。


「お前ら、どういう関係なんだ?」

「それは……」

「偶然バイト先で、一緒になったの。目付きの悪さが記憶にあったから、訊いてみたらビンゴだった」


 爆笑されたよ。

 ハーディさんは苦り切った顔をするけど、詳細に話すと、お互いに身バレしちゃうから、このくらいで言うしか無いじゃない。


「サクヤさんの宝石注文を、何で? と思っていたけど、お前たち用か?」

「手を貸すのは、これっきりだ……」


 ぶんむくれるハーディさんと、ニマニマするラドリオさん。

 お互いに初めてこのゲームで出来た友人だと言ってたから、無理矢理引っ張り出したけれど、私悪くないよね?



       ☆★☆



 魔族側のゴーレムは、数は同じでもデザインは違った。

 キラーマシンっぽいキャトルくんと違って、メカゴジラ? そんな感じで怪獣っぽい。

 精霊軍は遠巻きに攻撃したり、罠を仕掛けたりして、ゴーレムをいなしている。

 それでも、ここぞと攻める魔族の大群に、ジリジリ後退を余儀なくされている形だ。


 戦場は、丘陵地。

 ちょっとゴルフ場みたいに、高低は有りつつも、短い草に覆われていて見晴らしが良い。

 おあつらえ向きの場所だ。

 キャトル君の到着に、劣勢を強いられていた精霊軍は沸き立つ。

 警戒して、魔族軍もゴーレムを呼び戻した。

 2対1か……。性能も似たようなものだろうから、キャトル君には苦労をかけるね。

 私に出来ることは、アレキサンドライトの指輪を、嵌めてやる事くらいしか無い。

 一応マジックアイテムだから、私の指でも、キャトル君の指でもジャストフィットするよ。

 これの効果は、HPと、攻撃力、防御力、魔法防御力、素早さにプラス1だ。

 全ステータスプラス1だけど、魔攻とかは関係ないから。

 私の周囲は、ラドリオさんを始め、なっちょさん、トロさんに、魔法使いのシルフさんが固めてくれている。


「行けっ! キャトル君!」


 ドタドタと敵陣に近づくキャトル君を牽制するように、2体のゴーレムが前に出た。

 こうなると友軍を巻き込むことを恐れて、ゴーレムに魔法攻撃をしづらくなる。

 そこだけ、別空間の殴り合いだ。

 他は矢を射たり、魔法を放ったりと通常戦闘に戻った。

 パワーは指輪ブーストもあって、キャトル君が上っぽい。

 力の劣る黒いゴーレムを、蹌踉めかせる。

 だけど、向こうは2体だもんね。ずるいよ。

 ガツンと殴られたキャトル君は、よろっと後ろに下がる。

 手甲を上手く活かして、ガード専念。

 隙を見つつ、ローキックをいれるけど、手の数が半分だもんなぁ……。

 防戦一方のキャトル君の姿に、魔族軍の士気が上がる。

 頑張れ、キャトル君。

 隙を見てカウンターのストレート! 相手のヘッドパーツが飛んだけど、すぐに再生する。ずるいなぁ……。でも、やっぱりか。


「大丈夫なのか、サクヤ?」

「キャトル君の強さを信頼してよ。一緒に戦った仲でしょ?」


 心配そうなトロさんに、発破をかける。

 キャトル君の見せ場は、これからだよ。

 ジリジリと下がってゆくキャトル君は、精霊軍の陣内にまで来てしまっている。

 慌てて布陣が割れるが、何とか魔族軍の進軍は食い止めた。いい感じ。

 ガン! と、相手の赤い奴のハイキックに、よろけたキャトル君は坂を転げ落ちてしまう!

 追撃すべく、ゴーレムたちが突出する。

 突出したのは、ゴーレムだけではない。当然、指輪の再生効果範囲ギリギリにいたはずの、ゴーレム操者のパーティーも突出しなくちゃならなくなる。


 ちゃんと、見ていたよね?


 その千載一遇のチャンスに、風のように暗殺者二人が忍び寄る。

 次の瞬間、ゴーレムたちの動きが止まった。

 そして、キャトル君に構うことなく、背を向けて走り出した。

 再び、動きを止める。そう……主人が変わったのだ。

 私はそぉっと、キャトル君の再生範囲に入って、ボコボコのボディを治してあげる。

 痛かったよね? 無理をさせてごめんね。

 2体の竜型ゴーレムが前に進み、前進していた魔族軍の前衛に襲いかかった。


 私と違って、今のその2体の御主人様は、戦闘に躊躇いどころか、容赦も無いぞ?

 何しろ、PKギルドだった『ブレイク・ライン』のリーダーと、そのメンバーなんだから。


「まさかの、ゴーレム横取り作戦とは……」

「ハーディさんたちがいてくれたから。二度と出来ない作戦を、バッチリ決めてくれた」

「愉快なことを考えるなぁ……」


 頼みの秘密兵器だったゴーレムが、いきなり敵に回ってしまっては、どうにもならない。

 一気に盛り返した精霊軍が押し返し、魔族軍は退却せざるを得なかった。

 目一杯頑張ってくれたキャトル君は……見せ場は無くなっちゃったけど、君は私の守り役だもん。むやみに戦わなくて良いよね?

 猫さんクッションを出して、キャトル君の肩の上に座る。


 もはや戦況は動かない。

 魔族軍は、取り返しのつかないほど大きく戦力を失った。


 ……もう帰って良いかな? 戦場は居づらいよ。

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