昔話寺へようこそ

あのお寺 ~前編~

 「じゃーねー!」「うん!またね~!」


 T字路で分かれる女子。田んぼの土をつつく男子。

 蝉の鳴き声が鳴り響く中、汗を流しながら5人は帰る。


「ねえ、そういえばさ、『桃太郎』って何?」

 唐突に雪菜がみんなに聞いた。びくり、ともものツインテールが揺れる。

「もものあだ名?童話の方?」

 すぐに姫芽が反応する。わかりきったことなのに聞くのは、ももをいじりたいからなのだろう。

「うーん。わかんないや。前にチャタローが言ってたけど。」

 ももも反応した。顔が引きつり気味で、『知らなくてもいい事を。まったくもう!』そんなことがほっぺに書いてある。

「ああ、もものあだ名だ!」

『うおおお糸兎!余計なことをいうな!』今度はしっかり書いてある。相当このあだ名が嫌なんだろうな。お気の毒に。

 しかし、私も容赦しないよ?

「川の中を流れてきたもも、だから。でも体力は皆無。ちなみに私は竹の姫だからかぐや姫だよ。」

 ほら、もうあきれている。話なんか聞かずに、さっさと行ってしまった。


 ***


「じゃあ、私は機織はたおり 雪菜ゆきなで鶴の恩返し?」

 あれからしばらくたって、ちゃんとももは待っていてくれた。ももがいない間、みんなが名前の由来(?)を話し合っていた。まとめると、

 天野 衣→天の羽衣

 寺田 茶太郎→分福茶釜

 赤山 糸兎→赤ずきんちゃん

 ちなみに糸兎は勘だ。見た目と赤山の赤から想像した。でもみんな適当だし、きっとたまたまだろう。

「そう!なんでこんなに物語からつけられた名前が多いのかな。」

「なんかさ、お寺が関わってるとかなんとか。むかしじーちゃんが言ってたよ。」

 家がお寺のチャタローが解説。それを聞いて、さっきからずっと黙っていたころもくんもやっと納得したようだ。なにやらみんなも心当たりがあるようで。

「ああ、?それなら納得。」


 金髪ポニーテールを大きく揺らしながらうなずく糸兎ちゃん。ひとり不思議そうに聞いていた雪菜ちゃんにチャタローが教える。

「学校の裏山に、『今昔寺こんじゃくじってあるだろ?そこに奉納されてる文献に、『この地に物語の神様が降り立った』ってのがあるんだ。3年のとき、総合の授業で暗記させられたよ。」

 あの頃の苦労を思い出してか、とっても苦い顔のチャタローが、『まかせた』という目で糸兎いとの方を見た。糸兎はこれを丸暗記している。

 

 自信満々に口を開いて、文献を言う――――それより早く、文献を言い始めた者がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る