第13話 巨大なボア
クリスは丘の上の一本の木の下に座り、ヒエイを待っていた。
「ヒエイ…」「まだかな…」
クリスはそう呟いて曇り空を見上げ、木にもたれてぼんやりしている。
『すまん、待たせた』
ヒエイはそう言いながら丘を歩いて上がって来ると、クリスは立ち上がりヒエイの方を見て、魔物を何匹仕留めたか訪ねた。
「どれくらい倒した?」
すると、ヒエイは少し残念そうにしながら答えた。
『ラビッホーン6匹うち3匹は仕留め損ねた』『そっちは?』
クリスは首を横に降って答えた。
「ボア5匹、ラビッホーン1匹」
ヒエイは渋い顔をして言った。
『全然足りない』
そう、二人の討伐数を合わせても、クエストの目標には届いていないのだ。
「ボアは残り5匹、ラビッホーンは残り3匹だね」
『しょうがないから探そう』
「だね」
そう言って、二人は残りの魔物を探し始めた。数時間探し回ったが、魔物の姿はなかなか見えなかった。
ようやく、草むらの奥に妙に大きな巣を見つける。巣は地面が深くくぼみ、長い草が敷き詰められている。腰の高さまである草に囲まれ、巧妙に隠されていた。クリスとヒエイは息を潜めて草むらの中から巣を覗き込む。そこには、ボアの幼体たちがいた。クリスはボアに見つからないように小声でヒエイに話しかけた。
「ヒエイ、ボアだ!」
『丁度5匹いるな……』
ヒエイは息を潜めながら、草むらの中で幼体がちょうど五匹いるのを確かめた。
そう、このボアを倒せばクエストの目標は達成するのだ。しかし、クリスは渋い顔をしてヒエイに話しかけた。
「ヒエイ……」「幼体を倒すのすごく罪悪感があるんだけど……」
すると、ヒエイも複雑そうに眉をひそめて言った。
『俺もだよ……』『でも、討伐しないと増えるから』
ヒエイは静かにホルスターから銃(M1911)を抜きセーフティを外すと、草むらに身を沈めながらボアの幼体に照準を合わせ引き金を引いた。次の瞬間、乾いた銃声が五度、辺りに響く。空を見上げると、いつの間にか雲は晴れていた。クリスとヒエイは草むらから姿を現し、仕留めたボアの幼体をひとつずつ回収していった。
「これで全部だね」
『だな』
二人はボアの幼体を回収し終えた。そのときだった。背後から、何か巨大な影が静かに覆いかぶさる。クリスはまさかと思い、ヒエイに恐る恐る訪ねた。
「ヒエイ、この影……」「まさかだよね……」
『多分そう……』
クリスとヒエイはまさかと思いつつも恐る恐る振り返ると、そこには、おそらくボアの幼体の親だろう、巨大なボアがいた。体長は優に5~6メートルくらいあり、明らかにこの巣の持ち主である。
クリスとヒエイはわずかに口を歪めて、苦笑いをして言った。
『「だよね~」』
そう、ボアは大層お怒りだった。
「フゴォォォォォォォォ」
ボアは大きな雄叫びとともに突進してきた。
『避けろーーーー』
ヒエイがそう叫ぶと、ヒエイとクリスは左右に分かれて避けた。ヒエイは素早くホルスターから銃(M1911)を抜き、連射した。2発の弾丸がボアの腹に命中した。だが、ボアは苦しむ様子もなかった。
『全然効いてねえ!』
一方、クリスも魔法を詠唱しようとする。
「サンダーアロー」「あれ?」
クリスは魔法を唱えたが魔法が発動しなかった。そう、クリスは内心パニックでしっかりとした魔法のイメージを構築できていないのだ。さらに発動しない焦りが重なり、クリスは完全にパニックに陥っていた。
「魔法が発動しない~~~っ!」
ヒエイはそれに気づき、ボアの注意を逸らすべく声を張り上げる。
「こっちだーーー!」
すると、ボアはヒエイの方へ振り返り再び突進してきた。
『
ヒエイはスキル
『くらえ』『ファイヤー』
ヒエイはその掛け声とともに、ボアの頭目掛けてロケットランチャー《RPG-7》を発射した。放たれたロケットランチャー《RPG-7》の弾はボアの頭に命中し、弾が爆発し炸裂した。爆発で頭の半分を吹き飛ばされたはずのボアは、血を流しながらもなおその場に立っていた。しかし、限界を迎えたヒエイはその場に崩れ落ち、気を失った。一方のボアも、数歩よろめきながら前へ進んだが、力尽きてその場に倒れ、事切れた。
「ヒエイ!!」
クリスはすぐさま駆け寄り、倒れたヒエイの手を取り、脈を確かめる。
「よかった……生きてる」
脈があるのを確認して、クリスは安堵の息をついた。それから、しばらくの間ヒエイは目を覚まさなかった。ヒエイが目を覚ます頃には夕日がでていた。
『うっ……』
クリスはヒエイの声に気づき、慌てて視線を下に落とした。
ヒエイはぼんやりとした意識の中で、遠くから誰かの声が聞こえた。
ヒエイは朦朧とした意識の中で記憶をたぐる。ボアを倒し、魔力を使いすぎて倒れたはずだった。後頭部にふわりとした柔らかな感触を感じ、ゆっくりとまぶたを開けると、目の前にはクリスの顔があった。
「よかった……目が覚めた」
ヒエイの頭は、確かに彼女の太ももに乗っていた。焦げた草の匂いと、クリスのいい匂いが入り混じり、ヒエイは言葉で言い表せない複雑な気持ちになった。それもそのはず、かつて親友だった男が異世界に来て女性になったのだから。ヒエイは小声でつぶやいた。
『目が覚めたよ……』『ところでなぜ膝枕?』
ヒエイは顔を赤くして言うと、クリスはニヤリと笑って言った。
「顔、赤いぞ」「美少女に膝枕されて嬉しいのか?」
クリスはニヤリと笑って言ったが、内心では膝枕してる本人も冗談でやったことを恥ずかしがっていた。
『自分から美少女とか言うの残念だぞ』
ヒエイはくすりと笑うと、ゆっくりと身体を起こし、クリスに状況を尋ねた。クリスはヒエイがMPを使いすぎて倒れてから数時間が経過していることと、自らボアの死体を回収したことを伝えた。そして、クリスはパニックになり冷静に対処できなかったことを申し訳無さそうに誤った。
「ヒエイ、ごめん」「パニックになって冷静に対処できなかった」
ヒエイは安堵の息を吐き、クリスに言った。
『パニックになって冷静に対処できないのは、いつものことだからな』『それに、補い合うのがパーティってもんだろ』
クリスは嬉しそうに頷き、ヒエイも笑みを返して手を打った。
『よし、残りのラビッホーンを探そう!』
「……あ、そうだ」
クリスは突然何か思い出したように言った。
「ヒエイが寝てる間にラビッホーン3匹倒した」「てへぺろ」
ヒエイは呆れたように笑った。
『それじゃ、街に帰るか』
そう言ってヒエイが立ち上がると、クリスが腕を伸ばして呼び止めた。
「待って」
『どうした?』『まだなにかあるのか?』
ヒエイが不思議そうに訪ねると、クリスは神妙な顔で言った。
「足が痺れた」
その言葉に、ヒエイは思わずずっこけた。その後、クリスとヒエイが街に帰る頃には夕日が沈みかけていた。二人が街に向かって歩いていると、上空を巨大な魔物が通り過ぎ、その圧倒的な大きさに思わず足を止め、二人は空を見上げて見とれているとヒエイがつぶやいた。
『大きいな』『ドラゴンか?』
「いや」「トンボじゃない?」「四枚の羽と足が六本あるし」
クリスが言う通り、上空を飛び去った巨大な魔物は、まるでトンボのように四枚の翼を羽ばたかせ、六本の脚を広げ、長く細い腹部のような部位を真直ぐに伸ばして飛んでいた。
『いやドラゴンだろ頭がドラゴンぽいし、足もと体も鱗で覆われていたし』
そして、ヒエイが言う通り、その姿には至るところにドラゴンを思わせる特徴があった。
鋭く牙を覗かせるドラゴンを思わせる頭部、硬質な鱗と鋭利な爪で覆われた六本の脚、そして体のいたるところにドラゴンのような鱗があった。
「たしかにそうか」「あれだね、ドラゴンとトンボを合わせたような感じ」
『まさにそれだ』
そう、まさにドラゴンとトンボを合わせたような見た目の魔物が上空を飛び去った。
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