第14話 緊迫した状況
クリスとヒエイが街に戻ると、城門前の兵士たちが慌ただしく動き回っていた。クリスは気になって近くの兵士に声をかけ、何が起きているのかを尋ねた。
「すみません兵士さん何があったのですか?」
クリスに声をかけられた兵士は振り返って答えた。
「ああ」「先程、街の上空にキリマンジャロドラゴンが現れてな……」「被害はないが対応に追われているんだ」
「なるほど」「忙しい中ありがとうございます」
クリスが兵士にお礼を言うと、兵士はまた忙しそうにどこかに行ってしまった。クリスとヒエイはその場を後にして冒険者ギルドへクエストの達成報告に向かった。クリスとヒエイが冒険者ギルドに入ると、キリマンジャロドラゴンの件でなのか、やはり冒険者ギルドの方も受付嬢が慌ただしく動いていた。クリスとヒエイは迷うことなく受付けカウンターへ行くと、受付嬢が二人に気づき話しかけてきた。
「クリスさんヒエイさん、クエストの達成報告ですか?」
「はい」「今日は大きいので……」
「大きい?」
受付嬢はクリスの言葉を疑問に思いつつも解体場へ向かった。解体場につくと、カー爺さんによって大型魔物解体用の部屋に案内された。
「魔物を出しな」
指示に従い、クリスとヒエイはアイテムボックスからラビッホーンを10匹、ボアの幼体を5匹、そして大きなボアを取り出した。カー爺さんはその大きなボアを見上げ、感嘆の声を漏らす。
「大きいな……」「コイツはボス個体だな」
カー爺さんは並べられた素材を眺めながら、売却するかどうかを二人に確認した。
「で……」「今出したのは全部売却で良いのか?」
クリスはヒエイに素材を全て売却よいか確認をすると、ヒエイも売却することを了承した。
「全部売却でいいよねヒエイ」
『全部売却でいいだろ』
承諾を得たカー爺さんは大きなナイフを手に取り、袖をまくりながら嬉しそうに言った。
「嬢、クエスト達成処理よろしく」「久しぶりの大型魔物だ、腕が鳴るな」
カー爺さんはそう言って魔物の解体を始め、クリスとヒエイは受付嬢に連れられてギルドカウンターに戻り、受付嬢はクエスト達成処理をした。
「はい」「これでラビッホーンの10匹討伐とボアの10匹討伐のクエスト完了ですね」「報酬の銀貨3枚です」「素材の代金は後日お支払いします」
受付嬢がそう言って銀貨3枚を出すと、クリスは報酬を受け取った。しかしクリスは今回のクエストに少し疑問があるようで、その疑問を受付嬢に話し始めた。
「実は今日のクエストで気になることがあって……」
「気になることですか?」
受付嬢はクリスの言葉を聞き紙を取り出すと、真剣な顔でクリスの話したことを紙に書き始めた。
「はい」「今日のクエスト、討伐対象の魔物であるラビッホーンとボアがなかなか見つけられなくて、数時間探し回ってギルドから指定された数だけようやく討伐できたのですが、私は何か異変があったのではないかと感じて……」
受付嬢はうなずきながら要点を漏れなく書き留めた。書き終えた報告書を同僚に手渡し、落ち着いた声で告げる。
「ご報告、ありがとうございました。こちらは上層部へ共有させていただきます」
クリスとヒエイは礼を言い、冒険者ギルドを後にした。その後、クリスとヒエイは公衆浴場へ向かうと、二人は湯船に身を沈めて一日の疲れを流した。すっきりと身を清めた後、宿屋へ戻り床についた。クリスは今日一日の出来事を思い返し、隣のベッドで寝るヒエイにそっと声をかけた。
「ヒエイ起きてる?」
ヒエイはベッドに横たわったまま、薄明かりの中で答えた。
『起きてるぞ』『どうした?』
クリスは小声で話しを切り出した。
「今日、キリマンジャロドラゴンが現れたり、魔物が見つからなかったりしたけど」「アニメとかでよくある魔物たちが街を襲うスタンピードが起きたりしないよね……」
ヒエイは息を吸い間を置いて答えた。
『…………それ、完全にフラグ発言だろ』
クリスは少し笑いながら言った。
「フラグ回収しないといいね」
ヒエイもクリスに釣られて笑いながら言った。
『笑い事じゃないぞ』
クリスとヒエイはそんな会話を楽しみつつ静かに眠りについた。そして一ヶ月の月日が流れ、クリスとヒエイは鍛錬と冒険者ギルドのクエストを受ける生活を続けていた。午前は稽古、午後は冒険者ギルドでクエストを受ける日課を繰り返す中で、二人の技術は着実に向上していく。解体や気配感知といった実用的なスキルを習得し、レベルも徐々に上がっていた。
そして、ある日の朝。普段なら稽古に励んでいる時間だが、この日は少し様子が違った。冒険者ギルドを引退していたはずのユキが突如復帰し、朝からクエストへと向うという話しだった。
それを知ったクリスとヒエイは午後の予定を繰り上げ、午前中から冒険者ギルドを訪れていた。賑わうクエストボードの前で、クリスがヒエイに声をかける。
「ヒエイ今日は何討伐する?」
ヒエイは腕を組んでクエストボードを眺めながら答える。
『そうだな……』『そろそろゴブリンとか討伐するのはどうだ?』
その言葉に、クリスは露骨にとても嫌そうな顔を見せた。
「ゴブリンは女の天敵みたいなイメージが……」
クリスは言葉を濁して言うと、その言葉に含まれた意図を察したヒエイは、気まずそうに相槌を打つ。
『な……』『なるほど……』
クリスが言いたかったのは、成人向けの作品でしばしば描かれる、女性がゴブリンに襲われるイメージがありクリスはそれを遠回しで言ったのだ。
その瞬間、ヒエイの中にふとした自覚が生まれる。
(そういえば、クリスとは自然に話していたけど……女性として見てなかったな)(いやいや、何を考えてるんだ俺は)(クリスは親友だろ)
ヒエイは頭を左右に振り、思考を振り払おうとした。一方、クリスもどこか青ざめた表情で、黙って何かを考えているようだった。
二人の間に沈黙が流れ、空気は気まずさを含みながら、しばらくその場に留まっていた。そのとき、冒険者ギルドの扉が激しく開き、服や防具が裂けて額や腕から血を流した男がよろめきながら飛び込んできた。男の声は震え、汗と血にまみれた顔からは必死さが伝わってきた。
「誰か!」「光魔法を使える奴は居ないか!」「俺をかばってユキが腕を失って」「他にも重傷の奴がいて人手が足りない助けてくれ」
その言葉が胸に突き刺さり、クリスの心臓は激しく脈打った。顔色が一気に蒼白になり、思わず足がすくむ。ヒエイも同じく、目に見えない衝撃で体が固まるように動きを止めた。クリスは声を震わせながら駆け寄り、大声で問いかけた。
「ユキは生きてるの!?」
ヒエイも慌てて駆け寄り問いかけた。
『腕を失ったてどう言うことだ!』
男は2人の様子に驚きつつも、慌てた様子で言った。
「詳しくは後で話す」「今はユキを、応急処置はしたが命が危ないんだ」「光魔法が使えるなら助けてくれ!」
クリスは一瞬だけ目を閉じ、胸の中のざわめきを押し込めるように深呼吸をし、震える声ながらもはっきりと告げる。
「私は、光魔法が使えます」「ユキがいる所へ案内してください」
そして、クリスとヒエイは男に案内され、走ってユキの元へ向かった。クリスとヒエイは焦りながらも、ユキが無事でいてくれと願いながら走った。
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