第三十九話 血桜
熱ーっ!!!て思って、一瞬でした。
俺は死んだっぽくて。それもすごく酷い感じ。
近衛様に騙されたらしいっすね。工場に向かっていた記憶はあるんすけど、九条を殺そうとした記憶はないっす。子供を手に掛ける趣味はないっすから!!
…そんで、九条が張った玄関の結界に焼かれて骨も残んなかったっす。三浦さんはそれでも、お墓(仮)は作ってくれたっすけど。
そう言っちゃえば成瀬も不憫でしたね〜。現世でいくら暇つぶししてても、未だに会えてはないっすよ。成仏出来るような死に方してないと思うし、きっと気まずくて隠れてるだけだと思うんすけど。
…確かに裏切り者っすよ?けど、別にアイツのこと嫌いじゃないっすから許しますやい!!俺、心ひろいんでね〜。
…にしても。
近衛会といい陰陽連といい…、どうしてこんなことになっちゃったのか。
分からないことだらけです。
「なにアンタ幽霊?早く成仏しなさいよ」
「え、え、うわーっダレ!!?」
「ちょっとテレビ見ないの?これだからヤクザはダメよね」
「て、テレビぃ…?」
俺が気持ちよく昔の思い出にふけってる時に、ある女が話しかけてきました。
気の強いその声に押し負けそうになって、ふと思い出したんすよ。
茶髪でおかっぱ。目がおっきいけど、少しだけ三白眼?みたいな感じ。
覚えてる。この人、めっちゃ有名な…、えっとえっと
「…すげー有名人っすね!!!」
「名前思い出せないんでしょアナタ。あくまでも鯨崎狙ってたんなら覚えておきなさいよ」
「すんませんって〜!!…誰でしたっけ?結局」
彼女はため息をついて、おもいっきり髪を手で振り払って俺の前に立ちはだかりました。
「松本アイサよ!!タレント兼女優で、本来なら写真集も二冊でる予定だった売れっ子芸能人よ!」
それからっすね…。
アイサってやつ、すげ〜ワガママお嬢というか癖のあるやつなんっすよ。意外にね。
俺にお願いしたいことがあるって言ってきて、何かと思えばアイサ主演のドラマを片っ端から見せてきたり、いきなり水族館に行きたいとかスタバ行きたいとかいってきたり…。
幽霊の体は疲れたりしないはずなのに、久々に息がきれちゃいましたよ!!
「どんだけ未練あるんすかこの世にぃ〜!!!一旦休憩しますからねっ」
「ヤダヤダもっと遊ぶ!!!楽しくも苦しい芸能生活から解放されて、やっとやりたいことできたのよ。まだまだ付き合ってもらうわ」
「あーもう無理!!!っていうかなんで俺なんすか!?他にも暇そうな幽霊は…」
そういって周りを見渡してみると、生きた人間しか見当たらない。
…思えば、俺は今までアイサちゃん以外の幽霊に出会っていないことに気が付きました。
「不思議っすね。俺達以外…、みんな成仏しちゃったんすかね」
「私もそう思ってた。けど、少し違うかもしれないのよ」
アイサちゃんは、俺より少しだけ長い間現世を彷徨った幽霊でした。だから、気づけたって言ってましたね。
「言ったらそうね…。魂オンリーでしょ?今の私たちって。そんな私たちの体をお互いに認識できるのって、いったらあり得ないことなのよね。本来なら肉体が無いはずなんだから」
「た、しかに…?そこが俺もよくわかんないっす。幽霊同士で交流できてるのがそもそもヤバイのか〜とか…」
アイサちゃんはそこで、人差し指をぴんと立てた。
「多分だけどね。私達、魂に変なことをされてるからこんな目にあってるんじゃないかな」
「変なこと…?」
夕暮れの公園で、ジャングルジムに腰を掛けたまま彼女は言いました。
「私、桐馬幸彦ってやつに呪言で呪い殺された。アンタの上司でしょ?」
「…そうっす」
「アンタ、操り人形になって殺されたって言ってたけど、もしかしたら彼の呪言で殺されたから魂が変化しちゃったのかも」
「…そういう人同士だから、俺らは認識しあえるってことっすか?」
「えぇ、そうよ。ついでに、そのせいで成仏出来ていないと私はふんでるわ」
「トウマさんに全責任被せてませんそれ…!?」
「ふふふ、今のところはそうしておこってだけよ」
ジャングルジムからぴょーんと飛んで着地した彼女は、少ししてあっと声をあげた。
なにって聞くと、アイサちゃんは少し困ったような焦ったような表情をしました。
「…なんか、ヤバい感じしない?」
「アイサちゃん、なんか感じるっすか」
「こう…、トウマの呪言をおもいださせるようなゾワっとした…」
それを言った瞬間。
俺達の目の前に女の子が現れました。
血の気のない顔をした、セーラー服の子供。一瞬でその子が人間じゃないって分かった。
「「いやぁああああ!!!!??」」
幽霊が幽霊にビビりまくる始末っす。
二人で手を握りながら震えていると、その子はにへぇっと笑った。
「めちゃくちゃ美人だぁ〜!!おねぇさん、もしかしてアイサさんですか?レイのお父さんがファンだったなぁ〜」
穏やかそうな雰囲気に一瞬気が緩みました。
いかんとほっぺをつねり、半分抜けた腰を引きずりながら彼女に話しかけてみることに。
「おっ、俺達が見えるの…?」
「見えますよ!ていうか、二人とも幽霊ですよね?」
「じっ、じゃあもしかしてアナタも…!?」
「ついさっき殺されちゃいました〜。大阪からぴゅ〜んってここまで歩いてきたんですけど、山梨って良いところですね!」
「お、え、大阪!!?」
「はい!あ、挨拶しなきゃですよね?私、榎本明日っていいます。え〜と、将棋やってます!!」
夜が通り過ぎ、朝になった頃。
俺、アケビちゃん、アイサちゃんの順で公園のそれっぽい段差に座って話し始めました。
三人共幽霊だけど、なんだか生きていた頃を思い出すような楽しいコミュニケーションでしたね。
「皆さん大変だったんですね…。しかも、私たちを殺したのが多分同じ人だなんて…、絶対許せないですよ!!」
「マジそれよ〜。みんなで絶対復讐してやるわよ!!えいえいお〜!!!」
「お〜!!…ってか、それどころじゃないっすよ!!二人ともこれからどうするんすか。これじゃいつまで経っても成仏できないっすよ!」
このまま現世に居続けて、永遠にこのままなのはさすがにヤダな〜っていうのが三人の意見でした。
それに、近衛会とかトウマのやることなすことを見るしかないってのも癪なとこですし。
「…そうだ。ていうかさ、アケビちゃんはなんでここに来ようと思ったの?」
「あれ、まだ話してなかったっけ。これですよ」
そう言うと、小指に巻かれた赤い紐のようなものを見せてきた。
「そ、それって…!」
「運命の赤い糸じゃないっすか!!物理的に巻かれてるの初めてみました!」
「いやぁ〜、多分そういうのとはちょっと違うと思うんですけど…。なんか、死んでいつのまにか巻かれてたんです。なんとなく、この紐が繋がっているその先まで歩いて行かなくちゃならないんだろうなって思って。幽霊の体は疲れ知らずだったので、今の今までこの紐を辿って歩いてきたって感じです」
そうして、紐がもっともっと遠くまで伸びていることに気が付きました。
なんで今まで俺達が気づけなかったのか分からないくらい、長い長い糸。
これからも、ずっと遠い道のりを歩かなきゃならないかと思うと、自分のことのように気が遠くなりました。
「糸…、ほんのりあったかいわ」
「ほんとうっすね。俺達、お互いに触れても冷たいだけなのに」
俺は、アケビちゃんの泣きそうな顔を見ました。
なんか俺も悔しくなってきちゃって、目の端っこが涙で濡れそうになりました。
アイサちゃんは何も言わずに、その糸を大事そうに握ってました。
「ついてきてほしいです。この糸の行き着く先に」
アケビちゃんは俺達の手を握って、そう言いました。
血の気のない、でも優しい笑顔でそう言いました。
「アイサちゃん、どうします?」
「そりゃあ、ねぇ」
俺達は、立ち上がって歩き始めました。
三人で手を繋いで、朝焼けの中を、人の波をくぐって。
悲しいとか嬉しいとか、色々思いながら。
「あれ、紐が」
「どうしたんすか!?」
「いてててっ、なんか熱いです」
二日くらい歩いていたある日。
突然でした。アケビちゃんの紐が、熱を帯びていたんです。
それに、びんとしっかり張っている。なにもない住宅街なのに、まるでもうすぐ目的地みたいな雰囲気を醸し始めて焦りました。
「うわー…悪寒が、やばい」
「アイサちゃんもどうしたんすか!!…何が一体」
俺は二人を連れて、急いで紐を辿りました。
ぎりぎりと紐が居場所を伝えるように軋み始めて、アケビちゃんは熱そうに手をぶんぶん降っていました。
「…ここかもしれないっす」
「あー駄目だ駄目だ。私そこに入れない。気持ち悪い…」
「アイサちゃん!?」
地面に蹲るアイサちゃん。
そして、顔の色をいっそう悪くしたアケビちゃんも玄関で立ち止まった。
本当に変哲もない、ただの一軒家なのに。
「…私も、無理です。すいません、加藤さんだけで一度見てきてくれませんか?」
「えっ、いいけど…、大丈夫なの二人とも」
こくこくと、なにも言わずに頷いた二人。
俺も怖かったけど、こんなに歩いたアケビちゃんのためにも行くしか無いと思いました。
…でも。
正直、本当にびっっくり、したっすよ。
「…あけ、びちゃ、ん」
家の、家具の一つもないリビングに、
アケビちゃんが一人で座ってました。
首から桜の木が生えていて、それで死んでる。
死体…?
その桜からは血がポタポタ落ちてる。
いわゆる、それは血桜でした。
第三十九話 血桜
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