第二章 つむぎの反乱

母さんが亡くなったのを皮切りに里の雰囲気が変わりつつあった。

白夜を筆頭とする人間と共存を望む穏健派と人間など滅ぼしてしまえという強硬派の対立が起こっていた。

強硬派のリーダーは『つむぎ』だった。

強硬派は人間を忌み嫌う他の妖怪をも仲間にし勢力を拡大していた。


このままでは…。


「白夜さま、このままでは…。」

「静流…私は…どうしたら…。」


夜白を失った白夜は既に覇気を失っていた。


「颯真を…颯真を呼んでください。」

「颯真さまを…ですか?」

「いまこの事態を収拾できるのは颯真しか…。」

「ですが…颯真さまは…。」


「颯真をウチらの争いに巻き込むのですか!!」

「泉水…。」

「ウチは反対です!!」

「ですが泉水…このままでは人里も争いになるのですよ?」


「……。」


『くだらん相談は終わったのか?白夜!』

「つむぎ!?」


つむぎの妖気は更に禍々しいものになっていた。


「つむぎさん…いったいどれ程の妖怪を喰らったのですか?」


「人間ごときが馴れ馴れしく名を呼ぶな!!」


バッ!!


つむぎは静流に向かって妖気を放った…。


「静流ダメです!!避けるです〜!!」


「ぐっ…!!」


妖気を受け流したはずの左腕が千切れ吹き飛んだ…。


『ふふふ…どうした?静流…その苦悶の表情』

「……。」

『滑稽だな…。』


「つむぎ…もうやめるです!」

『泉水か…そう言えば貴様は妾を侮辱したな?』

『あの半妖に妾が勝てないだと?』 


「静流!!白夜さまを連れて逃げるです!」

「ですが泉水あなたは…!?」

「ウチが時間稼ぎをするです!」


「泉水…すぐ戻ります…死なないでください」

『バカが逃がすと思うが!!』

『オマエたち白夜を逃がすな!!』


オオォ〜!!


白夜のクビ貰ったぁ〜〜!!


「しまっ…!」


うぎゃあああ〜!!!!


「ごめんね〜まだ私は戦えるんだよね〜。」

「眞白さま!!」

「風磨から受けた傷が…!!」

「余程の怨念なんだろうね…7年も経つのに…。」

「早く、母さまを連れて逃げて!」

「ここは泉水さんと何とかするから!」


「眞白…。」

「母さま…お元気で…。」

「ま、眞白…!?」


シュッ!!

はああああ〜!!


うぎゃー!

ぐはぁっ!!


死を覚悟した眞白のチカラは凄まじいものだった…。

元々統率力の無い妖怪どもの集団は眞白の気迫に圧されていた。


「はぁ…はぁ…さすがにこの数…しんどいな」


相手は死にぞこないの妖狐1人だぁ!!

一気にいけば!!


うおおお〜!!


「やっぱりそうなるよね〜…。」

「大火炎!!」


!!!!


プス…。


「あれ?あはは…妖力ぎれか…。」


び、びびらせやがって…!!

死ね〜!!


うぎゃぁぁぁぁ!!


「え?」

「眞白姉さん大丈夫?」

「み、未來ちゃん!?」

「どうして…?」

「颯真がね…いやな気が里に集まってるって…。」

「そう…でもこれは未來ちゃんたちには関係ない戦いだから…。」

「何言ってるの私たちは家族でしょ?」

「家族…か…ありがとう。」


「颯ちゃんは?」

「颯真は…大切な人のところに行ったよ。」

「そっか…。」


金色の瞳に九尾の妖狐…?

こんなのいるなんて聞いてねえぞ?


「どうする?まだやる?」


未來はニッコリと微笑んで言った…。


「未來ちゃん…怖いから…。」


冗談じゃない…。

こんなの相手にしたら…。

命がいくつあっても足りねぇ〜!!


チカラの無い妖怪は散っていった。


“ほう?貴様が夜白さまの娘か?”


そう問いかける鬼の娘がいた…。


「そうですけど母さまを知っているの?」


“噂に聞いていただけだ…父上には妖狐の一族とは事を起こすなと言われている。”


「ではなぜ…ここに?」


“助けに来た…が必要なかったようだ。”

“鬼の一族は水藻さまに救われた事があった。”

“それ故にチカラになれればとな…。”


「水藻さま…?」


「私と姉様の父さまだよ…。」

「未來ちゃんのお爺さん。」


“ではまた…。”


「鬼の一族…か。」

「というか颯ちゃん大丈夫?」

「颯真は…大丈夫だよ…それより傷を見せて」


未來は眞白の傷に手を当てた…。

風磨から受けた傷も綺麗に消えた。

未來の癒しのチカラだった。

          ●

          ●

          ●

          ●

その頃…泉水はつむぎに苦戦をしていた。


バシッ!!


「痛ッ!!」


『そろそろ飽きたな…死ぬか?』

「そう…簡単に…死ねない…です…。」

『泉水?オマエはあの半妖を好いているのだろ?』

「なっ…!?」

『ふふふ…愚かな…。』

「愚かなのはオマエです!」

『なんだと…?』

「誰かを好きになった事が無いオマエにはわからないです!」

『知りたくも無いわ…死ね泉水!!』


「くっ…颯真ぁぁぁぁ!!」


ガシッ!!


『!?』

「遅くなってすまない…泉水。」


「颯真…!?」

「なんで来たですか!!」

「いま呼んだだろ?」

「あ、あれは…。」

(つい…叫んでしまったです…不覚です。)


「言っただろ?」

「何かあったらオレを呼べと…。」

「……。」

「言ってないです。」

「そんな事言われて無いです。」

「そ、そうだっけ…?」


ぐす…颯真…怖かったです…。


「すまない…これからは傍にいるよ。」


『貴様…いつまで妾の腕を掴んでいるのだ!』


ザシュッ!!


「…っと…危ねえ危ねえ。」

『バカにしおって…!』

「つむぎさん…あんた何が目的なんだよ?」

『人間の抹殺…!!』


「風磨と同じなのか…。」

「なら…オレたちの敵だな。」


はあああ〜…!!

ゴゴゴ…。


『き、貴様…なんだこの妖気は…!!』

「全力をもって相手してやるよ!」

『おのれ〜…オマエら何してるコイツらを始末しな!!』


ば、バカ言うな…こんな化け物相手にできるかよ…。

あぁ…アイツと同じだ…み、水藻…蒼い死神の再来だぁ〜…!!!!


『オマエたち逃げるんじゃない!!』

「つむぎ…アンタはどうする?」


『ふざけるな!!』

『半妖ごときに臆するものか!!』


ドドドッ!!

死ね死ね死ね死ねぇぇ〜!!


「颯真ぁぁ〜!!」


つむぎはありったけの妖気を颯真に叩きこんだ…。


『はぁはぁはぁ…。』


ドガッ!!


『ぐはぁっ!?』



颯真の拳がつむぎの腹部にめり込んだ…。

そして…つむぎは倒れた。


かはっ…!?


『ば、ばかな…傷ひとつ…つけられない?』


「これがアンタとオレのチカラの差だよ」


「もう終わりにしてくれないか?」

『ふふふ…あはははは…ふざけるな!!』

『妾のチカラは…!』


ガクン…!


『なんじゃ…足にチカラが入らぬ…!』

『まさか…妾が…コイツを恐れて…?』


「つむぎ…もうやめるです…。」

『泉水…きさま…。』

「さぁ…ウチにつかまるです…。」


バシッ!!

きゃっ!?


『きさまらの施しは受けぬ!!』

『半妖…これで勝ったと思うなよ…?』

「思っちゃいないさ…。」


フッ…。


「颯真…これで良かったですか?」

「あぁ…いいんだよ…。」

「またきっと来るですよ?」

「その時は…容赦しないさ。」

          ●

          ●

          ●

          ●

認めない…この私が…半妖ごときに負けるなんてあり得ない…。


「つむぎさん…?」

『おまえは…!!』

ガシッ!!

「な、何を!?」

『私が半妖ごときに負けるなど…!!』

『せめて貴様を…!!』

ぐっぐぐぐっ…。


つむぎは未來の首に手をかけ締めつけた…。

「や、やめ…て…。」


ドサッ…。


くそ…私が先にチカラ尽きるとは…。

おまえの心も連れて行く…。

私だけが…死ぬものか…。


かはっ…!!

はぁ…はぁ…。


つむぎは未來に精神攻撃をして記憶を消し去ってしまった…。


「ここは…?」

「私…こんなところで…なにを?」


そして未來は颯真たちの前から姿を消した

フラフラと彷徨い疲れ切った未來はとある神社の境内で身を隠すように眠ってしまった…。

         ●

         ●

         ●


未來とつむぎの気配が消えた?


「颯真…?」

「未來の気配が消えた…。」

「眞白姉さんと一緒にいたはずだが…。」


「颯ちゃん…ごめんなさい!」

「眞白さま?」

「未來ちゃんの姿がどこにも見当たらない!」

「私の傷の回復をしてくれたあと…。」


ちょっと私、颯真のところに行ってくるね!


「って…戻って来ないの…。」

「眞白姉さんの所為じゃないよ。」

「つむぎの気配も同時に消えたのが気になる」

「拐われたってことです?」


「いや…つむぎに未來を抑えるチカラは残ってなかったはずだ。」


「こんな時に静流がいてくれたら…。」


静流はここに居ます。


!!!?


「いつの間に来たですか!!」

「つい先ほど…。」

「腕は…!?」

「大丈夫です…。」


くいっくいっ!


「千切れた腕が元に戻ってるです!?」

「泉水、お忘れですか?」

「私は魂のみの存在…これは土で作った器」

「そうでした…昔、水をかけたら…。」

「って!!そんな話はどうでもいいです!」


「未來さまの…件ですね?」

「静流さん…何か知っているのか?」

「憶測ですが…結界の外に出たのではないかと…。」


確かに結界の外に出られたら気配は感じられない…。

だが…未來が何も伝えず出ていくとは思えなかった。

その後、色々と探し回ったが未來は見つからなかった…。


何の情報も無くただ時だけが過ぎていった。

颯真は里に残り事態の収拾に奔走した。

一族を束ねる者として…。


未來が居なくなり8年が経とうとしていた…。



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