第7話 夜白様?

颯真のチカラが覚醒した妖狐の姿にならずに妖気のみを高めるという離れ業に泉水は驚愕した…。


そして母に焚き付けられた夜白は里の入り口に来ていた。


颯真…未來…無事でいて…。

颯太さん二人を守ってくださいね…。


ガザ…。


「無用の心配ですよ?」


強い妖気を感じるが眞白ほどでは無い…。

「誰ですか!?」


「ここで死ぬあなたには子供たちの心配などね。」

「草彅!!」

「あなたは未來に倒されたはず…。」


そう夜白に問われた草彅はニヤリと笑みを浮かべた…。


「いや〜痛かったですよ?」

「死ぬかと思いました…。」

「……。」

「まったく親が親なら子も子ですね。」


トンク…。


「草彅…あなたは…!」


夜白の雰囲気が変わった…。

愚かにも草彅は地雷を踏んでしまった…。何より颯太を殺したものが目の前でニヤニヤとしている事じたい夜白には不愉快極まりなかった。


ふふ…ははは…。


「いいですね〜その顔…。」


「ボクはその顔が見たかったんですよ優しい母親の顔はあなたには似合わないですからね…。」


「あなただけは許さない!!」


「ボクも一族の裏切り者を許しませんよ!」


ザシュッ!!

「……!?」

ブシュ〜〜…。


勝負は一瞬で終わった…。


「ははは…さすが水藻さまの子だぁ…。」

「なんの…躊躇いも…無く急所を…きり…裂く…なんて…。」


ドシャッ…。

草彅は崩れ落ちた…。

その夜白の姿は優しい母親というのを一変させたものだった…。


ガサガサ!


「!?」


「まだ誰かいるのですか!?」

「出てきなさい出てこないなら焼き払いますよ?」


ガサガサ!

慌てて飛び出してきたのは…。


「ま、まつです〜泉水です!」

「泉水…。」

「結界の外から大きな妖気を感じたので様子を見に来たですよ〜。」


「そうでしたか…。」

「はい…で?そいつは…?」

「ただの黒い狐…よ。」

「そ、そうですか…。」


幼い頃から夜白の事を知っている泉水は夜白が戦うなんて想像もしていなかった…。万人に優しくいつも微笑んでいた夜白の姿しか見ていなかった。

親を殺され愛する人を殺され心の奥底には計り知れない闇があったのかも知れない…。


「泉水?」

「は、はいです!」

「颯真…そっちにいるのよね?」


そう泉水に問う夜白の笑顔が怖さを増していた…。

「いると言えばいる…ですよ?」

「何?何かあったの!?」


「おーい、泉水さ〜ん!」

そこに颯真が帰りの遅い泉水を探しに来た…。


(バカ…出てくるなと言ってあったのにバカバカ颯真です!!)


「颯真!?」

「え、あ…か、えと…ごめん!!」

バッ!!

颯真は勢いよく森の中へ消えていった…。

「こら!颯真待ちなさい!!」


『夜白様?』


「え?」

振り返るとそこには静流が立っていた。

『おかえりなさいませ』

「静流…ただいま…。」

少し照れくさそうにしていた夜白に泉水は…。

「いつもの夜白様です!」

と…ニコリと笑った。


いつもの夜白様は争いを好まない。

もし争いが起きても決して前には出ず後ろで怪我をした仲間の治療に専念して笑顔でいた…。


「泉水?」

「はいです!」

「あとで、ゆっくり話ししましょうね?」


「あ…はい…です…。」


クスッ


里に戻った夜白は未來の救出に策を練っていた。

「そんなもの正面突破だろ?」

「……。」


はぁ…。


「なんだよ?」

「少しは頭使うです!」

「チカラは相手の方が上ですよ。」


「それに向うの数も不明何より未來さまが風磨の手の内にあるうちは迂闊な事は出来ないのです!」


確かに泉水の言う通りだった…。

正面突破して未來を失っては本末転倒なのである…。

「私が偵察にいきます。」

「静流?」

「隠密行動ならウチの方が…!」

「いえ…いまの泉水では危険かと思いますので…。」


静流はそう言うと颯真の顔をチラリと見た…。

「な?バカ言うなです!!」

なんでウチがこんなチビチビを…!

「どうしたんだ?泉水さん。」

「うるさい!寄るなです!!」

「はぁ…?」


クスクス…。


“そっか…泉水は颯真の事を…。”

「では、静流に任せます慎重にね」

「はい…では!」

        ●   

        ●

        ●

        ●

その頃…風磨は日頃気を張り詰めていたせいか未來のチカラなのか眠りについていた…。

昔の夢を見ていた…。

楽しかったあの頃…夜白の父水藻がいて仲間もたくさんいたあの頃の…。


「風磨〜遊ぼ〜!」

「お?夜白〜ワシとは遊ばんのか?」

「うん、とう様お酒くさいもん!」

がーん…!

「水藻さま…。」

「風磨〜いこ〜。」

「はいはい…。」

「ハイは、一回なんだよ?」


あははは…風磨言われとるぞ?


「ホント風磨にべったりね」

「おう、白夜か…。」

「私は…反対ですよ?軍師さまの息子は…。」

「あぁ…草彅か…つい酔った勢いでな」

「そんな事で娘の人生を…。」

「そうだな…。」


幼い夜白は風磨にいつも着いて歩いた…。だが夜白は草彅の許婚になっていた為に草彅と風磨はよくケンカしていた。夜白も草彅のことは好いていなかった…。


術や体術を夜白に教えたのは風磨だった…。

「こう?」

「いや違う…こうだ!」

「え〜変わらないよ〜こうでしょ?」

「……。」

あはは!


夜白の笑顔はどんなイヤな事も癒してくれた。

そんなある日…。

「なぁ風磨…もしワシに何かあった時は夜白の事はお前に任せたい。」

「え?水藻さま?」

「夜白を嫁に迎えてやってくれ」

「あ、いやいや…だって草彅だろ?」

「あぁ…酒の席での話だ…。」

「正式に断ったから安心せい!」

あははははは…。


あははじゃないだろ何でこの人は…!!

「なんじゃ?夜白が嫌いか?」

「いえ…。」

「なら頼むオマエならと思ってな…。」

「わかりました…。」


その数日後に悲劇は起こった…。

水藻さまが人間に殺されたと…。

話しでは、人間が娘を殺そうとしたのを庇って撃たれたと…。


その日から夜白は笑わなくなった。

オレは夜白の笑顔が見たかった…色々手を尽くした…だが夜白は笑わなかった。

瞳には何も映っていないようだった。


夜白にこんな悲しい思いをさせた人間が許せなかった…仇を討てと言わなかった白夜にも腹を立ていた…。

そんな時…草彅が囁いた仇を討てば夜白さまはきっと喜ぶに違いない…と。


オレは数名の配下と共に村を襲った…水藻さまが可愛がっていた宮司と娘だけは見逃し関わった者は皆殺しにした。

術者も見つけ出した…。


復讐は全ての終わりだった…。

里に戻ったオレは叱責され白夜によって闇の牢獄に封印が決まった…。

その席には夜白もいた…。

「夜白…さま…。」

「風磨…いまのあなたと、とう様を殺した人間とどう違うの?」

そう言った夜白の目は酷く冷たく心が凍てついた。

そして思った…最初から夜白は仇討ちなど望んでいなかったのだと…。

オレはただ夜白に笑っていて欲しかったのだと…。


“いまのあなたとどう違うの?”

“どう違うの?”

“どう違うの?”

うるさい…うるさい…!

“どう…。”

うるさい!!!!


はぁはぁ…。

「くそなぜ今になってこんな夢を!」

「ん?この気配…?」


そうか…夜白が戻ったのか…この夢はそのせいか…草彅は死んだか…。

クククッ…好きな女に殺され本望だったろう?

オレは…我は誰も信じぬ誰も要らぬ!

全ては計画の駒に過ぎぬのだ!!


「次は夜白…貴様だ!」


人間との愛だなんだとほざくがいい…。

その愛によって貴様は終わるのだ。


フフフ…あははははは…。




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