03

 あれからというものグレンは全く気にした様子もなく寛いでいるだけだった。

 でも、これだと流石に一方的すぎるからたまたま来ていたアヤラを捕まえて家まで連れていったらベッタリだった。

 やっぱり可哀想かというところで先輩を呼び出す。


「二匹は無理か?」

「いや、母に聞いてみたら無理ではないみたいです」


 それどころか美形で素敵とか言っていたから大歓迎だろう。

 そんなに歳も重ねていないみたいだからすぐにいなくなって泣くことにもならなさそうだから望むならそうするだけだ。


「ならアヤラとセットで世話をしてやってくれ」

「入谷先輩はいいんですか?」

「アヤラがこれを望むなら仕方がない。それに少しは俺も金を払うよ、ここに来れば安定して見られるのは大きいからな」

「いや、それは気にしなくていいですよ、飼うと決めたからにはちゃんとやります」


 まあ、あそこで見られなくなっても家で元気にしていてくれているならいいか。

 そもそも寒がりなんだから教室とかせめて屋内でゆっくりしておけばいい。


佐竹さたけにはこのことをもう言ったのか?」

「え、あの、誰のことです?」


 それともただ平良と間違えたということだろうか? たまにあるよな、言おうとしていたことと考えていたことが混じって変な風になってしまうときが。


「は? 誰ってあの子のことだろ」

「あ、平良の友達のことですか」

「一緒に帰っていたくせにわかっていなかったのかよ」


 別に全く問題はないが先輩には自己紹介をして俺にはないという時点で、なあ。

 だからこのことも聞かなかったことにしておこう、勝手に知られていたら気持ちが悪いだろうし。


「お、丁度佐竹からだ、呼んでいいか?」

「入谷先輩、興味を持たれているんですね」

「そういうのじゃない、とにかくここに呼ぶからな」


 そこは好きにしてくれればいい、来るならお茶とかを出すだけだ。

 で、先輩がいることが影響したのかあっという間にやって来てついでに出した菓子をむしゃむしゃ食べていた。

 前と違って黙って待っている必要もなくて自然と来てくれるグレンの頭を撫でておけばいいのは楽だ。


「おーグレンとアヤラだー」

「ここで暮らすことになったから気になるならいけばいい」


 この人も簡単に言ってくれるな。

 今日はたまたまだぞ、それに先輩とか他に人がいない状態で上げるのは違うだろう。

 猫なんかがいたらそれを理由に長時間……なんてことになってしまいそうだからより気を付けなければいけない状態なんだ。

 常に試されているような感じなのに自ら余裕を持てない状態に持っていくわけがないだろう。


「そうですねー三上君のお家ならいきやすくて助かりますね」

「ただ三上、二匹を利用して異性と仲を深めようとするのは駄目だぞ、俺は三上をそんな風に育てたつもりはないからな」

「はは、お父さんですか?」

「そうだ」


 なんかもうそういうプレイにしか見えない。

 でも、一つだけ確かなのはその目は佐竹ではなくアヤラを見ているということだ。

 触らないようにしているが触りたい気持ちが伝わってくる。


「そんなに気になるなら触ればいいじゃないですか」

「でも、グレンに夢中だからな、他の男なんかどうでもいいんだろう」

「あ、なんかいまのって人のときにも使えますよね、杏花なんかがわかりやすい例です」

「三上は朝に消えるって言っていたけど平良はやっぱり男子と仲良くしているのか?」

「そうですよ? え、知らなかったんですか?」


 仲良くしていることと相手が先輩ではないのははっきりとした、ただいちいちいってくると言ってくる理由がわからないままだ。

 出ていく度に聞かれるのは面倒くさいからかもしれないがどこにいってきたのかなんて毎回聞いたりはしないんだがな。


「俺は平良とずっといるわけじゃないからな、三上はどうだ?」

「俺も同じですよ」

「隠すのは上手くいかなかったときのためか?」

「ふふ、まだ信用されていないのかもしれませんね、それは三上君も同じなんだよ」


 それぐらいでいいと思う。

 寧ろなんでもかんでも話されていたら絶対に勘違いをして踏み込んでいた。


「まあ、俺と平良はまだ一年とちょっとしかいられていないから仕方がないな」

「私だって似たようなものなのに教えてもらっているよ……って、これって言っちゃいけないことだったのかな?」

「聞かなかったことにしておくよ」

「うん、それでお願い」


 この話は終わりだ。

 結局欲に負けたのかアヤラに触れ始めた先輩だがとても幸せそうだった。

 グレンと先輩は別なのか、特に暴れたりもしていなかった。

 でも、おかしなことが起きたのは二人が帰ってリビングでゆっくりしていたときのことだ。


「おわ……なんでここで休むんだ?」


 アヤラが俺の顔の上で休む、アヤラがいるからかグレンもその近くで休むから普通に重かった。

 グレンといたいから受け入れただけ、とでも言いたいんだろうか。




 十一月に入って寒さはより厳しくなった。

 それでもなんとか引きこもらずに、他の人がいる前では弱音を吐かずにいられているのは帰ればあの二匹がいてくれるからだ。

 不満的なそれがあって行動はするのに触れたりしても怒らないアヤラが面白い。

 グレンはグレンでなにを気に入ってくれたのかはわからないが俺の近くにいることが最近の常だった。


「あちょ~」

「……なんで俺は攻撃されたんだ」


 小学生のときに気になる異性に相手をしてほしくてわざと構ってちゃんムーブをしている男子を思い出した。

 相手をしてもらいたいなら素直に言えばいいのにな、軽くでも攻撃をされたらある程度の仲でもなければむっとなって避けられるだけだろうにな。


「三上君ってこれから暇? 時間があるならお店にいきたいから付いてきてよ」

「服とか買いたいのか?」


 場所によってはペットショップも近くにあるから丁度いい。

 あの二匹はいてくれるだけで力をくれるから俺もそれに応えなければならない。

 なんでも一方通行では駄目なんだ、飽きられてしまわないためにもまだ最初と言えるこの時期が大事だった。


「うんまあ、ただお店にいきたいだけだからとにかくいこう」


 そこそこ重い量産型猫餌とかを一人で運ぶことになるよりもマシだから受け入れて学校をあとにする。

 気温の低さは問題でもずっと天気がいいままなのはいいことだった。

 天気がいい日にあの二匹と一緒に窓際でごろごろしていれば本当に幸せなんだ。

 家の前を人が通ったり、たまに犬も見ることができるから見ていて飽きない。

 目が疲れたり眠たくなったりしたら寝ればいいわけだし……なんで俺は一人離れて学校なんかにいっているのか……。


「ねえ、今日見ていたんだけど杏花のことなんで名前で呼ばないの? 杏花は修也って名前で呼んでいるよね?」

「はっ、ああ、それなら求められていないからだな」


 名前呼びの件だって俺がそうさせているわけではなくてそう呼んでいいか聞かれたから許可をしただけだ、なにもなければずっと名字呼びだ。


「三上君みたいな子ってたまにいるよね」

「みんなこんな感じじゃないか?」

「私と杏花はお互いに名前で呼び合っているけどね」

「それはいいことだな」


 求められているということだからそうとしか言いようがない。

 誰にだって深く踏み込んでいくわけにもいかないからそうではなかった人とそうだった人で結果に差があるだけだろう。


「なにその自分は例外みたいな言い方」

「実際、いいことだろ?」

「そうだけど……なんか気になる」

「そうか?」


 ペットショップに直行してもそのことではなにも言われなかったからでかいのを運ぶ前によさそうの物を探してからぶつを持っていって会計を済ませた。

 これぐらいでしか返してやれないがまあなんでもかんでも買って与えればいいわけではないからと内で一つ言い訳をする。


「よし、佐――いきたいところにいっていいぞ、ちゃんと付いていくからな」

「あれ、もしかして知っているの?」

「……悪い、入谷先輩が名字を出してきてな」

「そうなんだ」


 会話終了……。

 しかもそのままスマホを取り出してポチポチ操作を始めたからどうしようもなかった。

 俺も馬鹿だ、確かにこれが目的だったとしてもせめて解散の流れになってから買うべきだった。

 非力なのかそれともこれが単純に重いのか、俺には結構きついからこのまま進むこともできないままでいるのは辛いぞ。


「ねえ、見てこれ」

「おう、俺のアカウントだな」


 ではない、なんで知っているのか。

 あ、だからそれと同じぐらい相手を怖がらせるようなことをしていたということか。

 悪いな、というか出さないつもりだったのに馬鹿すぎるだろ俺も。


「そう、杏花に教えてもらって登録しようとしていたけどできなかったアカウントだよ。だってこれは相手に通知がいっちゃうからね」

「それで……どうするんだ?」

「三上君がいいなら登録してやり取りがしたい」

「俺はいいが……」

「それなら登録させてもらうね、これで友達だー」


 長い時間が経過してから言わずに早い段階でなんでこんなことをするのか教えてもらいたいところだった。

 俺なんかで遊ぶぐらいなら平良と、それこそ他の気になる男子でも作った方がいいのに。


「とりあえず佐竹のいきたいところにいかないか?」

「もうこの時点で満足しちゃったんだよね」

「なら……帰るか?」

「うん、それに重いでしょ? だから今度重い物を持っていないときに付き合ってもらうから大丈夫だよ」


 や、優しいじゃないか……俺なんか真っすぐに自分の用事を済ませたというのに。

 こういうところは平良によく似ている、だからこそまあ連絡先を交換した意味もなく終わってしまう可能性も上がったが。

 いやだってただ登録されているだけだとアレだしすぐに登録解除とかをされても複雑だからなんとか一ヵ月ぐらいは続けたかった。

 でも、自分が佐竹のことを求めるようになったときにどこかにいかれることのダメージが怖いからやはり早い段階ではっきりしてほしいという矛盾めいた考えでいた。




「今日やっと本人から許可を貰って登録できたんだ」

「教えた時点でささっと登録しちゃえばよかったのに」

「そもそも杏花はどうして教えてくれたの?」

「どうしてって」


 どうしてだろう?

 放置してしまっているところがあって一人でばかりいるから寂しくならないようにかな? 入谷先輩とはお昼休みにあそこでしか会っていないのも影響したのかもしれない。


「まだそんなに悪いことをしたつもりはないけど三上君って怒らないよね」

「そうだね、怒ったところとかまだ一回も見たことがないよ」


 こっちが色々不安定になったときも「大丈夫か?」って聞いてきてくれる子だった。


「グレンとアヤラが三上君のお家で暮らすようになって――」

「えっ?」

「あれ、知らなかったの?」

「うん」


 流石に距離を置きすぎたみたい……。

 朝の挨拶だけしてその後はほとんど喋らないようではただのクラスメイトでしかないのに。


「明日、修也のところにいこうかな」

「うん、え、急にどうしたの?」

「なんかさ、みつの方がお友達みたいにいられているからかな」

「警戒しなくていいから楽でいいよね、入谷先輩もそこは変わらないけどやっぱり同級生なのが大きいよ」


 でも、彼女が何回も近づくようになってから慌てて戻るって勘違いされないだろうか。

 私はあくまで友達らしく修也といられればいいのだ。


「ちょっと驚かせたいかな」

「光こそそれはどうして?」

「だって名字を知っていて驚いたからさー」

「そもそも自己紹介とかしなかったんだ?」

「うん、必要ないとか考えたわけじゃないけどそういう流れにならなかったから」


 ……これはまた修也の悪い癖が出たことになるのかな。

 口に出して求めないとそもそもそういう風にしてくれない。

 遠慮をしているのか求めていないのかどっちかはわからないけどあれは寂しくなるときがあるから直してほしいところだったりもする。

 だけどやっぱり基本的には放置している私が偉そうに言えることではないから……。


「今日ね、なんで杏花のことを名前で呼ばないのかって聞いたらさー」

「ああ、求められていないからって言われたでしょ?」

「あれ、知っていたの?」

「うんまあ」


 露骨に態度を変えられているよりは……いいのだろうか。


「だけど私達が名前で呼び合えているって言ってみたらそれに対してはいいことだなって返してきてね、なんじゃそりゃってなった」

「はは、自分のことに関することだと変わっちゃうんだよね、こっちのことは肯定してくれるのにね」

「でも、優しいところがいいんだよ」

「そうだね」


 それでも修也の場合はみんなに対して優しいだから特定の子だけ優先するということはないだろうなあ。

 こういう考えでいるからこそ誰かを優先しはじめたら驚く自信がある。


「よし、明日もいって色々と聞いてみよう」

「答えてくれるといいね」

「うん」


 それなら私は邪魔にならない範囲で戻していこうと思う。

 願望が強いものの、多分修也も嫌そうな顔をしてきたりはしてこないだろうからね。

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