04
「やあ」
「おう、今日もいくんだろ?」
「んー今日はお休みかな」
まあ、そういう日もあるか。
ただ今日はおかしかった。
休み時間になっても何故か毎回俺のところに来るからいつも通りではないことは確かだ。
「平良、無理をするなよ」
朝に挨拶をしてたまに話せるぐらいでも十分だった。
こうして急に変わると余計な心配をしたくなるから避けたいところもある。
「無理なんかしていないよ、ただ今日は教室で大人しくしていたいだけでね」
「それなら他の友達と話せばいいだろ?」
いつもどこかにいってしまうから朝に彼女と会話をしたい人だってそれなりにいるだろう。
「嫌なの?」
「全く嫌じゃないが」
「それならいいよね?」
そりゃいいか悪いかで言ったらいいと答えるしかないしいいことでしかない。
「佐竹になにか言われたのか?」
「ううん、なにも言われたりはしていないよ――あ、昨日のことは教えてもらっちゃったけど」
「別に隠したいこととかも全くないからな、気になるなら俺にでも佐竹にでも聞けばいい」
そういえば佐竹だが本人が言っていたように色々とメッセージを送ってきてやり取りをした、使用機会がないまま終わることもなかった。
実際に話しているときと変わらないテンションで安定感があった。
「駄目だ……修也を見ていたらお腹が空いてきたよ」
「なんでかは聞かないでおくがチョコでも食べるか?」
「うん、いいならちょうだい」
何故か急に母が持たせてくれた物だった。
昼休みにでも弁当を食べ終わった後に食べるかと考えていたがこっちの方が役に立てたみたいでいいかな。
「それと今日の放課後は修也のお家にいきたいんだ」
「はは、グレンとアヤラがいるからだろ?」
「ベ、ベツニソレガネライデハナイケドネ」
「うん、無理をするなよ」
それなら途中で菓子と飲み物でも買うか。
あの二匹がいれば連日のように誰か人が来る可能性が高まるからストックしておくのもありかもしれない。
あとはあんまり頼るべきではないが単純に美味しいのも大きかった、複数種類買うとなれば値段も大きいがまあ無駄ではないと思いたい。
「平良、オレンジジュースとただ甘いのと炭酸だとどれがいい?」
「それなら炭酸ジュースかな、あとお金は払うからね」
「金の方はいい」
ここから先の数時間で終わらない以上、残りはほとんどこちらが飲むことになるんだから払ってもらうわけにはいかない。
ある程度の仲でも金についてはちゃんとやりたいんだとしても気になるのはこちらも同じだから我慢をしてもらうしかない。
後から請求するわけでもないし損をしているわけでもないんだからいいはずだ。
「ただいまー」
「「お邪魔します」」
さて、グレンとアヤラはどこにいるのか。
飲み物を出してから着替えるために自室へ移動したらそこで二匹仲良くゆっくりしていた、下でも上でもやはり窓際が好きなようだ。
問題だったのはここから移動しようとはしてくれなかったこと、平良の目的はこの二匹だからいてくれないと困るが強制もできないから固まることになった。
「なあ、付いてきてくれないか?」
喋りかけてみても当然理解はできないからただじっとこちらを見てくるだけ……。
「修也―?」
「悪い、今日は移動したくないみたいなんだ」
「ああ、あくまで修也と話すついでに少し触れたらなーぐらいの考えだったからいいよ、グレン達だって休みたいよね」
「そうか――とかなんとか言っていたらアヤラが来てくれそうだな」
先輩よりも平良か、あんまり誘えないのが申し訳ないな。
わざわざ抱かなくても付いてきてくれたからあとはリビングでのんびりすることにした。
猫用の設備があるわけではないから扉を閉めてしまえば自由に出入りはできないものの、まあ来てくれれば開けてやればいいだけだからそう気にする必要もない。
「うん、杏花の上で休んだけどなんでその前に三上君は一回攻撃されたの?」
器用なもんだ、そしてまるで人みたいに行動しているところが面白い。
まずはアヤラでグレン俺と続くこの関係だからこそずっと変わらないままだと思う。
今日の平良みたいに急に変われば体調が悪いとかなにかがあったように感じて心配になるからグレンとだけ仲良くできていればそれでいい。
あ、両親に対してはごろごろ喉を鳴らしているぐらいからそこは上手くやっている形になる。
言ってしまえば餌代を出してくれる両親次第だからな。
「俺に対してはこうなんだ、グレンを取られたみたいで不満が溜まっているんじゃないか?」
「でも、最初からそうだけど無理やり連れていったりしないで任せているよね?」
「それとこれとは別なんだろうな」
急に転校することになった経験などはないが親に付いていくしかなくて環境が変わった人なら気持ちはわかるのかもしれない。
「もしかしてツンデレ猫ちゃんってこと?」
「はは、それならツンツン猫じゃない?」
「確かに」
ならグレンに対してはデレデレ猫か。
「お、グレンも来たみたいだな」
「そりゃこんなに可愛い子を放っておけはしないだろうね――って、真っすぐに三上君の足の上で丸まったね」
「本当はグレンもグレンちゃんとか?」
持ち上げて確かめてみたことはない、が、それでも先輩が見て確認できたからこそグレンという名前にしたはずだからな、と。
「見てみる……?」
「そうだね、と言いたいところだけど起きているときにしよっか」
「そうだね、それに男の子とか女の子とか関係なくてただ三上君が好きだって話か」
まあ、それも謎ではあった。
俺はただただ先輩と仲良くしている二匹を見ていることしかできなかったからだ。
なんか急に好きな人ができても相手に本命がいて色々と言い訳をしながら逃避をしている自分が想像できてしまって微妙な気分になって微妙だった。
「ほう、それでバッグの中にグレンだけいるのか」
家で暮らすようになってからというもの、たまにこういう日があってそういう日は距離を作れないから受け入れるようにしていた。
それでも家の中だけでは限界があるから外に出てきているがこれが丁度運動みたいになって俺的にもいいんだ。
「はい、入谷先輩も時間があるなら付き合ってくれませんか?」
「いいぞ、だけど猫がいるなら店にいくのも微妙だから外になるけど三上は大丈夫なのか?」
「この通り出てきているわけですからね、全く問題はありませんよ」
お爺ちゃんだとかなんだとか言って結局近くの公園で座って話すことになったが。
「なあ、佐竹について三上はどう思う?」
「コミュニケーション能力が高いですね、多分相手が犯罪者とかでもなければ誰とでも仲良くやれると思います」
あのいつの間にか背後にいることがなくなれば警戒もされなくなっていいと思う。
普通に話せるだけで俺的には十分なんだ。
「いや、そういうことが聞きたいわけじゃなかったんだ」
「え、異性として気になるかどうかということですか?」
「いやなんかこう……びびっときたというかさ」
「アヤラ以外に興味を持てたんですね、俺はそのことに一番驚いています」
そうか、奪ってしまったようなものか。
それでどうしようもなくなって人恋しくなってここに繋がっていると、なんてな。
佐竹か、本人も楽しそうに先輩と話していたことだから可能性がゼロというわけでもないだろう。
連絡先だってどっちから言い出したのかはわからないがあっさり交換したみたいだしな。
「アヤラに対する愛はでかいよ。でも、猫に恋をするわけにもいかないだろ? それに俺も人並みに興味があるんだよそういうことに」
まあ、これぐらいの年齢ならそういうものかもしれない。
先輩は三年生だがそこも遠くにいったりしない限りはあまり問題とは言えないだろう。
だから問題なのは俺だ、佐竹に会うために外に出ていたかもしれないのに邪魔をしてしまったからだ。
「今日の俺は邪魔をしてしまったことになりますね」
「いや、今日いくつもりはなかったから聞いてもらえてありがたいぐらいだ」
いくつもりはなかったと言われても本当のところを聞いた後ではそのまま信じることはできない、でも、連絡先を交換できているかといって俺が呼んでもそれはそれで複雑だろうからできなかった。
「あー三上はなにかないのか?」
「最近知り合ったばかりですからね、ただ平良に似ていて喋りやすい相手ではありますが」
ああ、こういうパターンか。
誰かを好きになれることは間違いなくいいことだがこっちにも飛ばしてくるから微妙なんだ。
言い訳と捉えてくれてもいいから放っておいてほしかった。
「いやほら、前にも出したけど平良に対してだよ」
「最近は何故かよく一緒にいてくれるようになりましたが特には、いまでも無理をしているようにしか感じませんからね」
「そんなのでいいのかよ、ずっと学生でいられるわけじゃないんだぞ」
「前もこんな話をしましたね、それならまた答えますがいいんですよ俺はこれで」
寧ろ俺が積極的だったら間違えて佐竹のことを好きになってしまっていたかもしれないんだからその可能性すら出てこなそうないまを歓迎してもらいたいところだがな。
「平良を呼び出していいか?」
「どうぞ」
俺にしたように聞くだけだろうから全く問題はない。
ただ素直に吐くとも思えない、隠さずに言うタイプなら朝のあれはああなっていない。
「こんにちはー」
「おう、急に呼び出して悪いな」
あれ、というか今更だが連絡先を交換していたのか。
あまり人のことは言えないが交換までが早すぎる。
「今日は気分がいいからなにか奢ってやる」
「え、いいんですか?」
「ああ」
「あーそういうことですね? わかりました」
なにかを察した平良がスマホをぽちぽち弄ってから少し時間が経過した後、同じように「こんにちは」と佐竹が現れた。
今日はいくつもりはないとかなんだったのか……。
「ぶいぶい、グレンとアヤラを独占するのはずるいぞー」
先輩から敵視されるのはごめんだから今度また見に来ればいいと答えて離れた。
問題なのはこれだって微妙なわけで、猫がいるからってどこか緩くなってしまっていたことは確かなことだった。
「あー入谷先輩、俺は帰った方がいいですよね? だってこうしてグレンがいるわけですし」
「おいおい、奢ってやるって言ったんだから三上も対象に決まっているだろ? グレンを家に帰さないといけないのはそうだけど付き合ってくれよ」
「でも、奢ってもらえるようなことはできていませんし」
可愛くもない野郎にそんなことをしてなんの得があるのか、あとはグレンが大人しく解放してくれるかどうかになる。
「いいから付き合え、んで終わったらアヤラを見せてくれ」
「それはいいですが……」
明らかに邪魔者にしかなっていないだろこれ。
金魚の糞状態で付いていくぐらいならグレンに付き合って色々と散歩した方が遥かにマシなんだが……。
「修也がそんなことを言うの珍しいね」
「ああ、グレンのためにな」
「はは、物凄く落ち着いているね」
「でも、家に帰さないとな。先に入谷先輩達といっていてくれ」
「え、いいよ、付いていくよ」
「そうか? じゃあいくか」
先輩達も付いていくと言ってくれたが何故か平良が全て断って結局二人でいくことになった。
「意地悪がしたいわけじゃないんだ、ただ私は入谷先輩から聞いちゃっているからさ」
「な、なにをだ?」
「それは光を――あ、これ知らなかったかな?」
「それって佐竹のことだよな? 平良にはもう言ってあったんだな」
当たり前か、俺にだけ言うわけがない。
だがそのことに安心した、自分だけが知っている状態では落ち着かなくなるときもある。
「というかさ、まだ自己紹介をしていなかったの?」
「おう」
「はあ~修也はさあ……」
「ぐ、グレンを中に入れなくちゃな」
依然としてアヤラは攻撃的なようでそうではないから一回攻撃されただけで済んだ。
金なんかは持っている状態だったから今度もちゃんと鍵を閉めて家を出る。
少し離れたところで「ぶいぶい~」と真顔で佐竹の真似をされて反応に困ったがいちいち触れたりすることもしないでおいた。
飲食店の方ではなるべく安い物を選ぶつもりだったがそんなことをすると色々と言われそうだったから平良と同じ物にしておいた、八百円だ。
これはいつか他の行為で返していきたいと思う、それこそお世話になっているから飲み物を~とかみたいにして少しずつな。
「光ー二人きりでいたときに入谷先輩となんの話をしていたの?」
「アヤラが可愛いって話だね」
「えぇ……」
ちょ、露骨に顔に出しすぎだ。
「でも、グレンとアヤラだったらアヤラの方が可愛い感じがするよね、名前のせいかな?」
「お、女の子だからね、グレンは格好いいけど」
「それこそ杏花はなんで付いていったの?」
「ア、アヤラを見たかったからかな」
「ははは、これからいくのに面白いことをするね杏花は」
付いてきてくれなかったら先輩的に意味はないからありがたくはあるな。
グレンが来てくれるようなら愛でて盛り上がっておくのを見ておけばいいと片付けて家に向かって歩き始めた。
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